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農業仲間が増えた


 この日は朝から街の外に出た。レベルは上がらなかったけどそれなりの数を倒して経験値を稼いだ俺たちは昼過ぎに水の街に戻ってきた。商業中洲に戻ってきて通りを歩きながら隣を歩いているタロウに顔を向ける。


「満足したか?」


「ガウガウ」


「タロウもリンネも満足なのです。明日もお外に出るのです」


 タロウの背中に乗っているリンネが言うとタロウも尻尾をブンブン振り回している。従魔達がやる気になっている分にはこっちは水をさすつもりはない。上級レベルを少しでも上げておいた方が良いからね。それに何よりこの2体は戦闘大好き従魔達だからな。従魔のスカーフも本当に優秀だ。格上でも危なげがないよ。従魔頼りの俺としては大いに助かっている。ここ数日はレベルが上がっていない。逆に言うと明日辺りにレベルがあがりそうな気がする。


 昼過ぎという時間なこともあり別宅に戻っても隣の庭からマリアはやってこない。彼らは正に今レベル上げの真っ最中なんだろう。情報クランもしかりだ。自宅に戻って畑でも見るかと思っていたところに端末が鳴った。


「主、お電話なのです」


「うん。ありがと」


 電話の相手はカレンだった。彼女は自分に続いて妖精をテイムした二人目のプレイヤーだ。彼女によると開拓者の街に畑付きの家を買ったらしく、これから農業を始めようと思っているのでアドバイスが欲しいという依頼だ。


「わかった。今から開拓者の街に向かうよ。知り合いで農業仲間がいるから彼女も連れて行ってもいいかな」


「ありがとうございます。もちろんです」


 通話を終えたタイミングでリンネとタロウが寄ってきた。


「お家に帰るのです?」


「そうだよ。ランとリーファのお友達が家を買ったみたいだ。見に行こう」


 そう言うとリンネは参るのですと言い、タロウも尻尾を振りながらガウガウと声を出した。2体の従魔達はすぐに行こうと体を押し付けてきたがちょっと待ってくれと言って。端末を持って通話をする。相手はエミリーだ。


 彼女はちょうど自宅にいて果樹園の世話をしていたらしい。話をすると是非一緒したいと言ってくれた。農業仲間も呼んだ方が楽しいからね。


 一旦自宅に戻ってから途中でエミリーの家に寄った俺たちはカレンの家を訪ねた。その家は彼女の家からそう遠くない場所にあった。ちなみエミリーはすでに神官になっている。


「私の家と同じよ」


 家の外から見た彼女が言った。不動産屋さんのカタログを見て家を決めるから同じ家になるよな。つまりこの家も和風、古民家風の家だ。畑のサイズは買える一番小さいサイズなんだろうけど自分たちでしっかりと貯めて買った家と畑だよ、すごいよ。


 許可が出て二人で家の中に入るとカレンとそのメンバー達が出迎えてくれた。


「お邪魔しますね」


「こんにちは。初めまして、エミリーです」


「こんにちは、いらっしゃい。やっと家と畑を持つことができました」


 皆が自己紹介をし終えると家の縁側に並んで腰掛ける。俺が持参したお茶と果物を出すと皆美味しいと言ってくれた。生産者冥利につきるね。


 彼らはここにいる固定メンバーでクエストをこなし、アイテムの店売りなどをしながらお金を貯めてようやく買えたらしい。他のメンバーにとっても自宅があれば宿泊代がかからないというメリットがあるのでみんなで金策をしていたのだと言った。


「私も最初はこのサイズの畑だったの。畑を果樹園にして育てた果実を農業ギルドに売ってお金を貯めてから畑を広くしたの」


 エミリーの話を5人がじっと聞いている。目の前に見える畑はまだ整地もされていない。


 カレンの許可を得て従魔達を呼び出す。ランとリーファは早速この家に住んでいる木の妖精のフェリーと一緒に遊び出し、タロウがその後に続く。リンネは俺の頭の上に乗ると周囲を見てから、


「新しいお家なのです。綺麗なお家なのです」


 と感想を言ってから妖精達がいる方に走っていった。エミリーも従魔を呼び出した。彼女の従魔は小熊だ。近くでみるとこれが可愛いんだよ。小熊はすぐに他の従魔達が集まっている場所に走っていった。


「あの子はコウゲツって言うんだけどしっかり農作業のお手伝いをしてくれるの。当たりの小熊だったみたい」


 タロウやリンネのいる場所に走っていく小熊を見ながらエミリーが言った。りんごの種類の1つの紅月から取った名前だそうだ。小熊は当たりハズレがあるって農業ギルドのネリーさんが言っていたけど当たりならよかった。


 整地をされていない土地で遊び回っている従魔達を見ているとカレンが俺に畑で何を育てたらいいかと聞いてきた。


「基本は自分が育てたいものを育てるのが一番楽しいよね。でもアドバイスが欲しいというのなら俺は果実を育てるのを勧めるかな。フェリーは木の妖精だから野菜よりも果実の面倒を見させた方が良いと思うよ」


 俺の意見にエミリーも賛成してくれた。農業ギルドでリンゴとみかんの苗木が手に入るのでそれを育ててみてはどうかとアドバイスをする。リンゴ農家のエミリーが肥料についてもしっかりと説明をしてくれたので助かったよ。こっちは基本ランとリーファ任せだからな。


 話を聞き終えたカレンと他のメンバー達もまずは果実を育ててみようということになった。お金が貯まれば畑を広げて俺やエミリーの様にイチゴを育ててみたいと言っている。


「イチゴは初期投資がかかるけどすぐに元が取れるよ。お勧めだね。あとは農業ギルドかアイテムショップで木の苗を買って庭に植えるといいよ。うちの妖精達は普段は精霊の木の枝に止まって休んでいることが多いよ」


 彼らはこの後早速農業ギルドに言って果樹の苗木と妖精用の木を買おうと話し合っていた。



 話がひと段落したところで第二陣の様子について聞いてみた。第二陣の多くのプレイヤーがこの街にいて少しずつだがボス戦をクリアして試練の街に到達しているらしい。


 カレンのいるパーティのリーダのジンがここにいる5人も明日野良でエリアボスに挑戦する予定なんだと教えてくれた。開拓者の街ではここに来てエリアボス討伐の野良募集が毎日の様にあるそうだ。戦術は確立されているし情報クランが詳しい攻略法を公開というか販売している。よっぽどのことがないと負けないだろうし、万が一負けても何度でも再挑戦出来る。


「ただ今回この家を買ったので試練の街に行っても別宅を買うお金がないんですよ」


「のんびりやったらいいんじゃないの?」


 俺がそう言うとその通りだという5人。最初の頃は第二陣の中にも先行組に追いつけとレベルを上げている連中がいたらしいが上級ジョブに転換する試練の内容が公開されてからは彼らもレベル上げだけしていると後で苦労するということを知ったので皆ペースダウンしているのだと教えてくれた。


「タクは水の街まで行っているんでしょ?」


「行ってるよ。街の周辺の敵のレベルは高くて強い。俺も含めて皆苦労してるね」


「そういえば85になったらレベル限定装備があってそれを買う必要があるんですよね。またお金がかかる」


「このゲームでは金策とレベル上げからは逃げられないよ」


 俺が言うと全員が全くだと言った。でもそれがゲームの1つの楽しみだよなと言っている。俺もそう思う。急がなくても良いと思えばやる事が多いゲームだ。マイペースでゲームを楽しめばいいんだよ。彼らもそれはわかっているみたいだ。自分たちは第二陣でもあり競争するつもりはなくてPWLを楽しむつもりだと言っていた。それでいいんだよ。第一陣の俺でもそうだもの。


 エミリーの自宅から近いこともありカレンはエミリーとフレンド交換をして果樹園について色々と教えてもらう約束をする。もちろん俺もアドバイスをするよと言っておいた。ただこっちは妖精頼りなんだけどね。


「色々ありがとうございいました」


 お邪魔しましたと俺とエミリーが立ち上がると5人も立ち上がってお礼を言う。皆しっかりしてるよな。


「こちらこそ。明日のエリアボス戦頑張ってね」


「頑張るのです。リンネも応援するのです」


「ガウガウ」


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