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釣りギルド


 翌日、朝から水の街の外で経験値を稼いでいると上級レベル13にあがった。狩場的には今のレベルにちょうど合っているみたいだ。そのまま昼過ぎまで外で活動をした俺たちは今、水の街に戻ってきて商業中洲をうろついてみる。どうやらこの街には忍具を取り扱っている店はなさそうだ。その代わりに場所柄か釣り関係の店が多い。今までの街にはなかったが釣具専門店があったので顔を出してみた。


「こんにちは」


「こんにちはなのです」


「ガウガウ」


 扉を開けて中に入ると外から見た以上に店内が広い。他にお客さんはいないみたいた。


「言葉が話せる従魔かい。珍しいね」


 店主のドワーフが奥から出てきて言った。リンネの声が聞こえていたみたいだ。店内には釣りに関係する道具が綺麗に並べられている。竿や糸、釣り針はもちろんだけど擬似餌まで売っているぞ。


 道具以外に釣りの時に着る服、釣り専用ベストなんかも売っている。本格的な専門店だ。


「釣具専門店だけあって色々なものが売ってあるんだな」


「おうさ。釣り関係で無いものはないぞ。何でも売ってるからゆっくりと見てってくれ」


 愛想の良いドワーフのおっちゃんだ。どこかのドワーフの親父さんとは正反対だ。愛想という点でね。あっちのドワーフの親父さんも愛想は悪いけどいい人だってのは知ってるよ。


「主は釣り名人なのです」


「おいおい」


 そう言ったがリンネの言葉に反応した親父さんが俺を見た。


「どこで釣っているんだい?」


「この水の街じゃまだ釣りはしてないけど試練の街で作った小船で試練の街と森の街の間の川で釣ってました」


「自作の船を作って川で釣っているのか」


 驚いた表情になるおっちゃん。このおっちゃんはリグさんと言うらしい。お互いに自己紹介が終わるとリグさんが今の俺の釣り竿見せてくれと言うので端末から取り出して手渡すとそれと手に持ってじっと見てから顔を上げて言った。


「これは小型から中型サイズの魚を釣る竿だな。竿自体は悪くはないがこの竿じゃ大物は釣れないぞ」


「大物がいるんだ」


 今まで釣った魚の中にも結構大きいのがいたと思ったがそれよりもずっと大きい魚がいるんだ。


「この水の街の周辺にはいるぞ。港中洲の先のちょうど湖と川の境目あたりにいるんだ。ただ滅多にお目にかかれないけどな。大抵の釣り人は桟橋で釣りをしているがタクが船を持っているのなら大物が釣れるかもしれないぞ」


「それは美味しいの?」


「めちゃくちゃ美味いぞ。滅多に釣れないから珍味としてこの街のレストランじゃ幻の高級魚になってる」


「なるほど」


 リグさん曰く、その魚はレインボーフィッシュと言われている魚で体長80センチ。大きのになると1メートルを越えるのもいるらしい。身体の鱗の部分に光があたると虹色に見えることからこの名前が付いているんだと教えてくれた。


 1メートル近くの魚となると確かに今の竿じゃ釣れない。リグさんが店の棚から大物用の竿とルアーを手に取って持ってきた。


「これなら釣れるぞ。ルアーを沈めたら竿をこうやって上下左右に振ってルアーを水の中で動かすんだ。レインボーフィッシュがルアーを餌の小魚だと思ってパクリと咥えたら引き上げりゃいい」


 竿も糸も大物用だから逆に中型、小型の魚は釣れないと言った。確かにこんなに大きいルアーじゃ中型や小型の魚は加えないだろう。この竿を使う時には川の上じゃなく10メートルから20メートルの深さ付近を狙えと教えてくれた。


「主、その竿で大きなお魚さんを釣るのです」


「ガウガウ」


 リンネとタロウが買え買えとうるさく言ってくる。もちろん俺自身が買う気満々だ。リグさんが勧めてきた釣り竿、ルアーを買うことにする。大物用だからそれなりの値段がするが何より大きい、そして美味しい魚だと聞くと釣りたくなる。


 リグさんがサービスだと水網をつけてくれた。これは餌を食った魚を最後自ら船に掬い上げる時に使う網だ。これも大物用の水網だった。


「でかいのを釣って持ってきてくれたら魚拓を取ってやるよ」


「その時はよろしく頼みます」


「主に期待していいのです」


「ガウガウ」


「おう、期待してるぞ」


 勘弁してくれよ。


 リグさんの声を聞きながら店を出るとリンネとタロウが釣りに行こうというので商業中洲から港中洲に移動する。


 桟橋には森の街の桟橋と同じ様にNPCのおっちゃんが二人立っていた。狼人と人族の二人だ。


「ここで自前の船を出してもいいかな?」


「もちろんOKだ。どっちに行くんだい?」


 人族のおっちゃんが聞いてきたので湖と川の境目あたりで釣りをするつもりだと言うと湖側の定期船の航路には入らない様にしてくれという。


「湖のあそこにブイが浮いているだろう。あのブイより湖岸側は自由に動けるが沖側は定期船優先になっている。定期船と衝突したら面倒な事になるから絶対に行かないでくれ」


 おっちゃんが指差した方角には確かに湖にブイが2つ程浮いているのが見える。


「わかった」


 衝突したらこっちの船が木っ端微塵になるだろうし近くを定期船が通るとその波ででも転覆しそうだ。何よりも衝突したら迷惑をかけてしまう。ここはおとなしくブイのある湖には行かずに川と湖の境目で釣りをすることにしよう。


 桟橋で収納から木工船を取り出して浮かべるとおっちゃん二人が俺の船を見る。


「自作かい?いい船じゃないの」


「ありがとう」

 

 そう言って船に乗るとタロウとリンネも乗ってきた。おっちゃんにお礼を言ってから櫓を漕いで定期船の航路とは離れた方向に船を向けた。桟橋がある場所は湖に面しているがそこから10分も漕ぐと川と湖の境目になる。釣具のリグさんの話だとこのあたりに大物がいるって話だがまずは今まで使っていた釣竿を取り出して釣りを始める。ここは水深が深いので川底に棒を突き刺すことができない。船はゆっくりと下流に向かって流れていくが仕方がない。流れに船を任せて釣竿を垂らしていると反応が来た。


 釣竿を引っ張り上げるとこれまで釣ったことのある魚が釣れた。


「主、やったのです」


「うん。この魚は前も釣ったことがある。中型のサイズでこれは食べられるぞ」


 釣れた魚を中央の水槽に入れる。3匹ほど釣ったところで釣具店で買った大きな竿を取り出してルアーをつけて湖に向かって投げた。ルアーが沈むと竿を上下左右に振って水中でルアーを動かす。


 タロウとリンネは食い入る様に俺がルアーを投げ入れたあたりを見ているが何も反応がない。


「お魚さんがいなくなったのです」


「ガウ」


 リンネとタロウが水面を見ながら悲しそうな小さな声で言った。ルアーを入れて動かしているが竿はぴくりとも動かない。耳を垂らせて水面を見ている2体の従魔の後ろ姿が寂しそうだ。しばらく続けてみたが大きな魚が釣れる気配が全くない。


「大きな魚はいないみたいだから竿を変えよう」


 今まで使っていた竿にするとまた中型や小型の魚が釣れ出した。


「主、お魚さんが戻ってきたのです。たくさん釣れるのです」


「ガウ、ガウ」


 魚が釣れ出すと今まで落ち込んでいる様子だったタロウもリンネが喜んで尻尾をブンブンと振ってくる。うん、2体が喜んでくれるのならこっちの方がいいな。それにレインボーフィッシュは滅多に釣れないって話だし。


 水槽が魚でいっぱいになると船を桟橋に戻した俺たちはそのまま商業中洲に戻ってきた。リグさんの釣具店に顔を出して報告をする。


「滅多に釣れないと言われている魚だよ、焦らずにのんびりやるんだな」


「そう言うことだよね。今度は場所を変えてやってみるよ」


「さっきは言うのを忘れていたが、釣りが好きならこの街にある釣りギルドに登録したらどうだい?登録すると釣った魚を買い取ってくれるし時々釣りの穴場なんかも教えてくれるぞ」


 釣りギルドなんてあるんだ。今までの街には無かったギルドだ。俺が登録したいというとリグさんがギルドの場所を教えてくれた。釣りギルドは商業中洲ではなく港中洲にあるらしい。


 港中洲に言ってみると定期船の乗り場の建物の中の端の方に釣りギルドのオフィスがあった。港中洲には建物が1つしかなかったのでこの中にギルドがあるなんて気が付かなかったよ。


「いらっしゃい。プレイヤーさんだね」


 ギルドの扉を開けると受付に座っていた人族の女性が立ち上がった。農業ギルドのネリーさんと同じ年頃かな? 釣りギルドだけあってカウンターの横に生け簀がある。中では魚が泳いでいた。それを見て尻尾を振るタロウとリンネ。


「こんにちは。釣具店のリグさんに聞いてやってきました。釣りギルドに登録したいんだけどできますか?」


「主は釣りの名人なのです」


「ガウガウ」


 俺が言った後でリンネとタロウが続けて言う。会話が出来る従魔達かい、よく懐いているねと言った。彼女はサニーさんと言って釣りギルドのギルマスだ。


「もちろん。大歓迎だよ。もう何人かのプレイヤーが釣りギルドに登録してくれているんだよ。ここに手のひらを置いてくれるかい」

 

 なるほど。確かに釣り好きならリグさんの店に行くし、そこでギルドの話を聞くと当然登録するよね。俺は言われるままに手を置くと脳内で声がした。


(タクを釣りギルドに登録しました)


「これで登録が終わったよ。手持ちに魚があるのなら買い取るよ」


 とりあえず今日釣った魚を見せながら生け簀に入れた。


「いいサイズのが揃ってるね。しかも全て食用だ。いい腕してるじゃないの」


 専門家に褒められると嬉しいね。魚を店売りした後でレインボーフィッシュについて聞いてみた。


「あれは滅多に釣れないよ。竿はもちろん大型用にする必要があるけど今までレインボーフィッシュが釣れたのは皆夜だったよ」


 なるほど夜行性の魚なのか。今度夜釣りに行ってみよう。


「また釣れたら持っておいで。いつでも買い取ってあげるよ」



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