別宅を買った
自宅で4体の従魔達と一緒に畑の収穫、種まき、そして水やりを終えて農業ギルドに農産物の納品をするとお財布が少し潤った。安定的な金策があるってのは本当に楽だ。
再び自宅に戻って今度は種まきと水やりだ。これは4体の従魔達が俺たちの仕事だと嬉々としてやってくれるのを見ているだけだ。最後のビニールハウスでの水やりが終わるとその場で遊ぶ4体をビニールハウスの中で見守る。これももうすっかりゲームの日常になってるよ。
従魔達がしっかり遊び終えると俺のところに集まってきた。4体をしっかりと撫でてからランとリーファにお留守番を頼んで新しい水の街の別宅に飛んだ。
庭でタロウとリンネを遊ばせていると端末が鳴った。
「主、お電話なのです」
「ありがと」
相変わらず飽きないらしい。タロウと遊んでいても条件反射の様に反応してくるな。相手は情報クランのクラリアだった。
「今水の街?」
「そう。別宅にいるよ」
「攻略クランのスタンリーとマリアを誘って行くわ。また庭と庭とを繋げたいのよ」
なるほど。しばらくすると玄関からいつもの4人が入ってきた。庭を広げるという提案を断る理由はない。OKするとその場で不動産屋を呼んできたと思ったらすぐに攻略クランと俺の別宅の庭同士が繋がった。ゲームだからあっという間だよ。
情報クランは午後から外に出るが午前中はクランとして各中洲を見て回っているのだと言う。俺たちはマリア以外の4人が庭のウッドデッキにある椅子に座って話をしている。マリアはウッドデッキの上で横になっているタロウの横にしゃがんで撫で回しており、リンネは座っている俺の膝の上に乗っていた。
「この街も結構広いわよ。商業中洲はもちろんだけどそれ以外に使われていない中洲とかもあるの。その中洲から川の両側に渡る橋があるの。それを渡ると魔獣がいるエリアね」
両クランともこの街の外で戦闘をしてみたらしい。相手は上級16以上のレベルで今の彼らにとっては良い狩場になりそうという見方だ。
「ダンジョンを攻略する前にこの周辺でもう少しレベルを上げようと思っているんだよ」
攻略クランとしてはあくまでダンジョン攻略という目的があって、そのためのレベル上げをこの水の街の周辺でやるつもりらしい。彼らは湖のNM戦とその後の水の街の周辺での戦闘でレベルが上がって今は上級14になっているそうだ。情報クランは上級13。皆早いよ。一方情報クランは引き続き街とその周辺の森の中を探索する予定だそうだ。
「別々に動いた方が効率的でしょ」
「主もレベルを上げて強くなるのです」
クラリアの言葉に膝に乗っているリンネが尻尾を振りながらそう言うが、俺は急いでいないからぼちぼちとやるつもりだよ。
「そうそう、第2陣のプレイヤー達が試練の街に来始めているの」
おかげで試練の街がまた賑やかになっているらしい。忍者のプレイヤー達はまだかな?それとも無事にモトナリ刀匠の店を見つけられたかな。70から85までレベルを上げるのは大変だけどジョブチェンジして上級になるための試練だ。頑張って欲しい。
スタンリーとマリアが教えてくれたが湖にいたサハギンのNMは自分たちが試練の街の郊外の池で相手にしたサハギンNMと同程度か少し強いくらいだったらしい。これは以前の自分たちのレベルで相手をした時の比較なのでレベル自体は湖のサハギンの方がずっと高いということだ。当然だよね、相手だって上級だろうし。
フィールドにいるNMの2体目になるのかな。いずれもサハギンってのは偶然だろうとは思うけど。
「今回は池から上がってきて岩場での戦闘になったから俺たちでも勝てた。あれがもし池中から遠隔攻撃をしてくるタイプのNMだったら苦労しただろう」
そう言うスタンリー。俺がなるほどと頷いているとNMを倒して出た戦利品を教えてくれた。上級レベル10以上のアイテムが出たらしい、武器は片手剣で上級レベル10以上。これは森の街の武器屋で売っている上級10以上が装備できる片手剣と同じ強さ。それ以外にも上級レベル相当の短剣が出たらしいが装備アイテムの中に上級レベル10以上という条件付きの回復の腕輪が出たのだがこの腕輪は今までのよりも時間辺りの回復量が多い。
「私たちはこれがHQじゃないかって見てるの」
クラリアがそう言うのは装備にレベル制限があるものの腕輪の内側にSという文字が印字されているのを見つけたからだ。
「タクの素早さの腕輪のHQも内側にSの印字があったわよね」
彼女の言葉に頷く俺。
「レベル制限が有る、無しにかかわらず腕輪にSの印字があるもの。これはHQということで発表するつもり」
NMからのドロップだとすれば合成職人に余計なプレッシャーは掛からないだろう。むしろ合成職人の気持ちに火が付くんじゃないかと見ている情報クラン。俺個人的には装備のHQ品が存在するということを発表してくれた方がありがたい。
「是非発表してくれよ。こっちも気が楽になるからさ」
彼らが自分たちの別宅に戻ったあとはリンネとタロウにせがまれて街の外に出ることにする。商業中洲を越えた先の中洲、その先に森の外に繋がる橋がありゲートがあった。そこから外は魔獣のいるエリアだ。
聞いている話だと敵のレベルは上級16以上ということだがこっちはタロウとリンネがいる。外にいる魔獣は森の中なので虎や狼、猿系とこのエリアではおなじみの魔獣だが個体が大きくなってレベルが上がっていた。ただ特殊攻撃などは同じだったので討伐に時間はかかるが危ない場面もない。もちろんタロウとリンネが大活躍だよ。
今の俺たちの上級レベルが12から上がらなかったがここでしばらくやっている間に13にはなれそうだ。目処がつくだけでもモチベーションになるよ。
「主、明日もここで敵をやっつけるのです」
「ガウガウ」
戦闘狂のお前達はそう言うと思ったよ。でもその意見に俺も賛成だ。
「分かった。じゃあ明日も畑の見回りをしてからこの街の外で敵をやっつけるか」
「やっつけるのです。タロウとリンネで片っ端から蹴散らしてやるのです」
「頼むぞ」
本当にお前達頼りなんだからな。
翌日も昼前から夕方まで水の街の外で経験値稼ぎをして上級レベル13になった。もう1つ上げるまでは街の近郊でやれそうだ。
水の街と森の街との定期船が復活して毎日新しいプレイヤー達が水の街にやってきている。しばらくすると定期船で来るプレイヤーも減るんだろうけど今のところは盛況みたいだな。ただ街の中を歩いてみると多くの人が水の街にきている割にはここで活動をしているプレイヤーの数は来ている人数に比べて少ない気がするんだよ。
「皆まだレベルが足りないのよ。とりあえず船に乗ってきて転送盤の登録とお店を覗いたら森の街に戻ってそこでレベル上げをしているのよ」
トミーと一緒に俺の別宅にやって来たクラリアがそう教えてくれた。
情報クランが装備品のHQがNMからドロップしたという情報を公開した反響は大きくて、彼らの予想通り合成職人達がやる気になっているらしい。合成職の上位転換であるマイスターも結構いるらしくて彼らは日々合成をしながらスキルを上げている。ドロップ品からHQが出たということでプレイヤー達にもHQの存在がすんなりと受け入れられたのよという。
俺は別に自分からHQの腕輪を持っていると言う気は全くないが、少しずつHQの装備を持っているプレイヤーが増えれば良いなと思っている。
「運営はこのエリアで相当時間をかけさせるつもりだろう。この水の街も周辺は森ばかりだ。試練の街、森の街、水の街で終わりじゃなくてまだ街がありそうな気がしているんだよ」
彼らは例によって街の中のNPCに声をかけては情報を取ろうとしているがまだ新しい情報については何も入手できていないらしい。ただこの街がエリアの中で見つかった最後の街だという情報もないので恐らく何かのトリガーワードを手に入れれば教えてくれるんじゃないかと見ている。
「タクはこの街ではウロウロしてるのかい?」
「全然。冒険者ギルドとテイマーギルド、あとはこの別宅だけだよ。明日くらいから街の中を探索しようと思っているけどね」
「またタクが何かを見つけてくるだろうな」
「そうそう。しばらくおとなしかったからそろそろタクのホームランを期待しちゃうのよね」
トミーとクラリアがそう言うが過度に期待されても困る。こっちはマイペースでゲームを楽しむつもりなんだからさ。