妖精の仲間
釣りをした翌日、畑の見回りというか世話を終えて自宅の縁側に座ってのんびりしていると端末が鳴った。
「主、お電話なのです」
精霊の木の枝でリラックスしているリンネがすぐに反応する。
「ありがと」
端末を見ると相手はクラリアだ。
「今自宅?」
「そうだよ。自宅でのんびりしていたところ。どうしたんだい?」
「実はね、タク以外に妖精をテイムした人が出たのよ」
「おおっ、そうなんだ」
思わず端末をしっかりと持ち替えたよ。詳しい話を聞かせて欲しいと言うと妖精をテイムしたプレイヤーが今開拓者の街にいるので誘ってからそっちに行くと言った。
「主のお友達が来るのです?」
木の上から降りて縁側に上がるなり俺の膝の上に乗ってきたリンネが顔を上げて俺を見ながら聞いてきた。
「そうだよ。ランとリーファのお友達をテイムしたらしいよ」
それを聞いていたランとリーファが木の枝から飛ぶと俺の両肩に乗ってきた。タロウも縁側に来て隣で横になる。
「楽しみなのです。妖精さんのお友達が増えたのです」
「確かに楽しみだよな。土の妖精か木の妖精かどっちだろうな」
しばらくするとミントの声が脳内に聞こえてきた。
(タクが許可を与えていないプレイヤー5人が自宅に入りたがっています)
(うん、全員に許可を出してくれるかな)
(分かりました)
すぐに門からいつものクラリアとトミー、そしてその後ろから5名のパーティメンバーらしきグループが庭に入ってきた。
「こんにちは」
「こんにちはなのです」
「ガウガウ」
「やあ」
クラリアとトミーが挨拶をした後でクラリアが後ろににいる5人を紹介した。
「彼らは第2陣でPWLにやってきたプレイヤーさん達。全員がレベル70になっているの」
そう言うと5人が順番に自己紹介をする。盾を持っているナイトのプレイヤーがジン、戦士が2人、スグルとトッド。精霊士と僧侶は女性だ。精霊士がアヤノ、そして、
「こんにちは。初めまして。第2陣で僧侶ジョブをやってるカレンと言います」
「このカレンさんが妖精をテイムしたの」
クラリアが教えてくれた。
「よろしく。俺はタク。それでこっちがフェンリルのタロウ、頭の上に乗っているのが九尾狐のリンネ。肩に乗ってるのは茶色い方が土の妖精のラン、緑の方が木の妖精のリーファだよ」
そう言うとタロウは尻尾を振って歓迎の意を示し、ランとリーファも羽根をパタパタとさせた。彼らはリアルの知り合いで二次募集では10名以上の友達同士で応募し、この5名が当選したらしい。
「タクさんとその従魔達は第2陣のプレイヤーの間でも有名ですよ」
ジンが言った。彼がリーダーっぽいな。それよりもやっぱり有名なのか。
「主は有名なのです。知らない人はいないのです」
頭の上に乗っているリンネが当然だろうと言った調子で言う。隣でタロウも尻尾を振りながらガウと吠えているし。勘弁して欲しいんだけど。
どこに座ると聞くと皆縁側が良いという。縁側大人気だよ。縁側に5人が座りクラリア、トミーそして俺は庭に椅子を出して座る。椅子に座るとリンネが膝の上に乗り、タロウは俺の横の地面の上に座った。
「テイムした妖精はこの場所で呼び出せるよ」
俺がそう言うとそうなんだと言ったカレン。すぐにミントの声がした。
(自分の従魔でない従魔を呼び出そうとしていますが許可しますか?)
俺が許可をするとカレンの目の前に緑の色をした木の妖精が現れた。見た感じはうちのリーファと同じだ。リーファは従魔のスカーフを巻いているので区別できるがそれが無いとどっちがどっちだが分からないよ。
現れた緑の妖精を見てうちの従魔達が喜んで近づいていく。ランとリーファは新しい仲間と手を取り合うと浮いたままでぐるぐると回る歓喜の舞を踊っている。
「ランとリーファのお友達の妖精さんなのです。リンネとタロウの新しいお友達なのです」
「ガウガウ」
リンネもタロウも尻尾を激しく振っている。うん、2体も新しい友達ができて喜んでいるみたいだ。
「今全員がレベル70だって言ったけど。エリアボスを倒して試練の街に行っているの?」
俺が言うと5人が首を横に振った。
「それはまだなんですよ。というか俺たちは70になったばかり。2日前に盆地の西の森に経験値稼ぎと小熊をテイムしようって皆で出かけたんですよ。そうしたら小熊はテイムできなかったんだけど代わりにカレンが妖精を見つけてテイムしたんです」
森には妖精がいるって農業ギルドのネリーさんが言っていたな。本当にいたんだ。
「私は僧侶なので戦闘中は後ろの方で回復魔法をうってたの。戦闘が終わって何気なく後ろを振り返ったら森の中で何かが浮かんでいるのが見えて、近づいていって、こっちにおいでって言ったらやってきたの」
カレンは妖精にフェリーという名前をつけたらしい。フェアリーからとったんだな。彼らは自宅を買うお金がないので宿暮らしをしていて妖精はテイマーギルドで預かって貰っているらしい。
「森に妖精がいるって話はタクがしてただろう? 情報クランは妖精がテイムできるという情報は開示している。これでまた妖精をテイムしようとするプレイヤーが増えるだろうな。盆地の西の森が賑やかになりそうだ」
情報クランとしては当人のカレンの了解もとっているのでこの情報を開示するそうだ。
「妖精は戦闘の手助けはできないけど農作業のプロだよ。緑の妖精は木の妖精だから畑に植えた野菜や果実がおいしく育つスキルを持っている。お金を貯めて庭付きの家を買ってそこで何か育てたら美味しいのができるよ」
妖精のスキルについては情報クランがすでに開示しているのでここにいる5人も知っている様だ。お金を貯めないとな、なんて言っている。
「それにしてもタクの家は家も畑も立派だね」
「まぁたまたまだけどね」
9割引の券を使ったとは言えない。
フェリーを入れた妖精3体は今は精霊の木の枝に並んで座っていた。俺はそれを見ながらクラリアに聞いた。
「PWLで木は手に入るのかな」
「入るわよ。農業ギルド以外に試練の街のアイテムショップで苗木が売ってる」
クラリアが即答した。苗木が売ってるって初めて聞いたよ。果実の苗木は農業ギルドで売っているが街のアイテムショプで売っているのは鑑賞用の木の苗木らしい。
俺は畑で採れるお茶と梨、りんご、イチゴをお皿に乗せて縁側に置いた。
「うちの従魔達が手伝って作ってくれてるお茶と果物だよ」
「「美味しい!!」」
果物を一口食べた5人が同時に言った。お茶も美味しいと言って飲んでいる。
「妖精が手伝ってくれて味がまたよくなった。お金を貯めて家を買ったら野菜か果物を育てたらおいしくなるし、農業ギルドで高く買い取ってくれる」
金稼ごうぜとか言いながら美味しそうに食べているジン達に第2陣の様子を聞いた。彼らはレベル70になっている。ただ試練の街に行っても倒す魔獣の数が貢献度で違うのでこの開拓者の街や山裾の街、あるいは始まりの街でクエストをこなしているパーテイが多いのだと言う。彼らも70になったが直ぐにエリアボスに挑戦するかどうかは悩んでいるんだと言った。
「試練の街にある別宅というのもこの街で家を持っているというのが条件になってるんでしょ?」
「そうよ。開拓者の街で自宅を買った人は試練の街で別宅を持てるの」
「第一の試練については各自で判断して受けてくださいという事しか言えない。プレイヤー各自のプレイスタイルが出るところだよな」
すでに開示している情報やプレイヤー間でやりとりされている情報は既知ということで聞かれると答える情報クランの2人。
「タクさんから何かアドバイスはありますか?」
パーティの精霊士の女性のアヤノが聞いてきた。アドバイスと言われても正直困るんだが。
「う〜ん、楽しめばいいんじゃない?競争でもないしさ、このゲームは敵を倒してレベルを上げる以外にもいろんな楽しみ方がある。自分で楽しみを見つけたらいいと思うよ。もちろん攻略が好きならガンガンやればいいと思うし」
「タクは楽しんでるよな」
トミーの言葉にそうだねと答える俺。
「結構楽しんでる。農業もそうだしそれ以外に合成もしてるし釣りもしてる。何かに追われると感じたらゲームが面白くなくなるんじゃないかな」
ちょっと偉そうな事を言っちゃったかな。でも自分の本心でもある。後続組だからとか考えずにこのゲームを楽しんだらいいと俺は思っている。
カレンにはこの家にいる時はいつでも来て妖精同士で遊ばせても構わないと伝え、今日来た5人全員とフレンド登録をした。
彼らが帰ったあとでクラリアとトミーはその場に残って少し話をする。
「スタンリーらが今朝船で森の街を出発したわ」
縁側に座ったクラリアが言った。いよいよ湖の攻略なんだな。
「俺たちはダンジョンを攻略したりと森の街で活動をしながら彼らの報告を待つんだが今回は彼らがやってくれそうな気がしているんだ」
うん。俺もそう思う。
「装備もレベルが上がっているから期待大だね」
「今回はタクが一番乗りじゃなさそうだけどね」
「今までがおかしかったんだよ。これが普通だよ、普通」
ワールドアナウンスとかはもう懲り懲りだよ。
「妖精も俺以外のプレイヤーが見つけてくれてよかったと思ってるんだ。あとはマイスターになった職人がHQの装備を作ってくれたらいいんだけどね」
「入手時期が早かったというだけでプレイヤー全員に平等にチャンスがある様にしているだろう。早晩HQの装備が出るんじゃないかってみてる」
トミーの言葉に頷く俺。是非見つけるか作って欲しいよ。