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主は名人なのです

明けましておめでとうございます。本年も引き続きよろしくお願いします。


 翌日、畑の見回りを終えた俺たちは試練の街の木工ギルドに顔を出した。サイモンさんに話をすると快諾してくれ。ギルドの中の作業場の一角を与えてくれた。そのタイミングで情報クランのヘンリーがやってきた。


「タク、今回もよろしく頼むよ」


「よろしくなのです」


「ガウガウ」


 相変わらず俺より従魔達の方が返事が早い。競争じゃないんだけど負けるとちょっと悔しい。


「こちらこそ。ヘンリーがいると作業が早くなりそうだ」


 早速やろうかと2人で木を切っていく。船を作るのも回数を重ねている事もあり、お互いにやるべき手順が分かっているのでそれぞれが1隻作ることにした。今までと違って作業をしながら雑談をする余裕もある。


 船を作りながらヘンリーと話をすると彼は今合成職の上位であるマイスターになるべく木工ギルドのお題をこなしているらしい。その木工ギルドというのが正にここ、試練の街のギルドで、今日もお題を納品してから作業場にやってきたんだよと言った。


「合成スキルが70を越えるとマイスターになる試練を受けられるんだよ。お題は人によって違うみたいでね、俺の場合は飛距離が30メートル以上で威力アップの効果が付いている弓を200本。それが終わるとまた別のお題が出るらしいんだ」


 彼のジョブが狩人だから弓なのか?そう聞いたらそうだと言っていた。自分のジョブに関連した試練のお題が出ているらしい。必ずしも武器じゃないみたいだけどねと言っていた。何なんだろうな、想像つかないよ。


「大変じゃないの?材料から自分で買うか手にいれるんでしょ?」


「材料は木工ギルドから買うか自分で伐採してもいい。買った方がお金はかかるけど戦闘職と違って外で死ぬことはないから安全かな。数も安定的に入るし」


 会話をしながらも船を作っている手は止めないヘンリー。俺は慌てて作業に戻りながら会話を続ける。


「タクも知ってるけど合成職人って結構お金持ちが多いんだよ。それにギルドから材料を買うと言っても試練目的の場合は普通よりも安く買える様になっているし問題ないね」


 ヘンリーは今朝弓を納品してこれで160本になったらしい。後40本収めると次のお題が出て、それをクリアするとマイスターになれるんだと教えてくれた。彼は情報クランとして活動をしているがマイスターが登場したというV.UPの後はクランからマイスターになるのを最優先してくれて構わないと言われているので最近はずっと試練の街の自宅で弓の製作をしていると言った。


「弓ばかり作るのも結構単調で飽きてくるんだよ。クランから船を作るのを手伝ってくれって言われた時はちょうど良い気分転換になると思って即受けたよ」


 これは俺たち戦闘職も同じだな、お題で魔獣を朝から晩まで倒す日々が続くとマンネリというか単調になる。気分転換は必要だよ。


 流石にスキル70越えのヘンリーの作業は早い。スキル45しかない俺の作業を見ていた彼は途中から自分の作業を止めて手伝ってくれる。スキルの差がどういうところに出るかというと、例えば板を合わせる時に木槌でトントンと叩くが、スキルが低いとその叩く回数が多く、スキルが高いと数度叩いただけでしっかりと合わせることができる。この差が積もり積もって作業時間の差という形で現れてくる。


 この木船の合成スキルは45らしく俺は船を作っている限りこれ以上スキルは上がらないが今のところマイスターになるつもりはないのでこれで十分だ。


 タロウとリンネは相変わらず作業の邪魔にならないところで俺たちの仕事をおとなしく見ている。休憩になるとそばに寄ってきて撫でろとおねだりだ。2体はヘンリーともすっかり仲良しになっていた。今もヘンリーに撫でられて耳を後ろに垂らせているタロウ。リンネは俺の膝の上に乗って尻尾を振っている。


「タロウもリンネも素直で良い従魔達だね」


「ヘンリーの従魔はスライムだけ?」


「そうだよ。スライムも自分に合わせてレベルが上がるので助かっているよ」


 途中で木工ギルドの職員のサイモンさんが様子を見に来てアドバイスをくれたりして船を作り続けて1週間後、6人乗りの木工船が3隻完成した。



 毎日活動が終わった後で木工ギルドに顔を出してくれていたスタンリーやマリアらの前で新しい船をお披露目する。


「タクとヘンリー、ありがとう。立派な船が出来たな」


「大きな物を作るのは楽しいよ。良い気分転換になったよ」


 とヘンリーが言っている。楽しんでくれたのなら何よりだよ。もちろん俺も楽しませて貰った。新しい船3隻を川に浮かべてサイモンさんの最終チェックで問題がないと言われて仕事は完了だ。


「これで準備はできた。明日か明後日に下流に繰り出してくるよ」


「吉報を待ってるよ」


 湖の先かどこかに次の街があるのは分かっている。攻略クランなら間違いなく次の街を見つけてくるだろう。


 自分の仕事は終わった。明日からまたマイペースでやろう。



 今日はまずは農業だ。リンネに巻いているスカーフをランの首に巻くと仕事開始。最初は収穫。いつもの通りにタロウの背に乗せている籠に収穫した野菜を入れる。次に果樹園でりんごと梨を収穫し終えると最後はビニールハウスに入ってイチゴを収穫。収穫が終わると農業ギルドに持ち込んで買い取ってもらい、新しい種を買う。


 俺が種を畑に巻いた後からタロウの背中に乗っているランとリーファがステッキを振ってくれる。その間リンネは応援団だ。


「主、頑張るのです」


「美味しい野菜を作るのです」


「任せとけ」


 そんなやりとりをしてから果樹園からビニールハウスに移動する。ここでは俺は従魔達の後をついていくだけだ。


 水やりが終わると従魔達がビニールハウスの中で遊びまわるのを座って見ている。意外とこの時間が楽しいんだよね。従魔達が好きに走り回っているのを見るのは癒されるんだよね。


 畑の世話が終わるとランからスカーフを受け取ってリンネの首に巻いた。7本の尻尾を振って喜びを表現するリンネ。


「ランとリーファ、留守番を頼むよ」


 サムズアップで応える2体の妖精に自宅を任せて俺たちは森の街に飛んだ。


「今日はここから船に乗って釣りをするぞ」


「釣りは気持ちが良いのです」


「ガウガウ」


 タロウもリンネも釣りというか船に乗るのが好きなんだよな。森の街の桟橋のある場所に行くとこの前と同じく人族のおっちゃんと狼人のおちゃんの2人のNPCが桟橋にいた。


「ここに船を出していいかな?」


「いいよ。どっちに行くんだい?」


「上流を目指していこうと思って」


 そう言って川の上に自作の木工船を浮かべた。俺が飛び乗るとすぐにタロウとリンネも船に飛び乗ってきた。


「上流に行くのならいいだろう。下流に行くと湖があってそこには魔獣が住んでいるんだよ。その船じゃ心許ないな」


 スタンリーらが言っていたのと同じ情報だ。


「その湖の先に街があるのかな?」


「そうだ。ただ湖は広いぞ」


 具体的な場所までは教えてくれないか。こちらの持っている情報のレベルがまだ低いんだろうな。俺はおっちゃん2人にお礼を言ってから船尾に立って櫓を漕ぐと船が上流に向かって進み出した。


 動き出してすぐに俺たちが最初に上がった橋が見えてきた。その下を潜って上流に進んでいく。


「風が気持ち良いのです」


「ガウガウ」


 船首にリンネが座り、その後ろにタロウが座って前を見ている。川の中は魔獣が住んでいないので2体とも前から風を受けて体毛をそよがせながらリラックスしていた。


 橋の下を潜ってしばらくすると船の左右を見ていたリンネが声を出した。


「お魚さんが沢山いるのです」


「わかった。この辺りで釣りをしよう」


「ガウ」


「主、沢山釣り上げるのです」


「頑張るよ」


 川底に棒を突き立てて船の動きを止めると釣り竿に餌をつけて放り投げた。すぐに魚がかかって釣り上げる。それを見て喜ぶタロウとリンネ。普段釣りをする人がほとんどいないのか相変わらずの入れ食いだ。何匹か釣ったあとで場所を上流に移動してまたそこで釣る。3時間程場所を移動しながら釣っていると水槽がいっぱいになった。


 水槽を覗き込んでいるタロウとリンネ。タロウは尻尾をブンブンと振っており、リンネも尻尾を振りながら水槽で泳いでいる魚達を見ている。


「沢山釣れたのです。主は釣りの名人なのです」


「名人までは言い過ぎだが今日も沢山釣れたな」


 俺も水槽の中を見てみると釣り上げた沢山の魚が泳いでいた。これらは試練の街のウォルシュさんの店に持っていこう。


 川底に突き立てていた棒を抜いて船を近くの河原に接岸させる。何も言わなくてもタロウとリンネが先に降りて周囲を警戒してくれる。出来た従魔達だ。


 船と水槽を収納すると転移の腕輪で試練の街の別宅に飛んだ。



 店に入ると奥からウォルシュさんが出てきた。


「久しぶりだな。タク」


「ご無沙汰してます。しばらく釣りする時間が取れなかったんですよ。今日久しぶりに釣りをしたので魚を持ってきました」


 店の中で水槽を出すと中を覗き込んでくる。


「これはまた沢山釣ってきたんだな」


「主は釣りの名人なのです」


「ガウガウ」


 横からリンネとタロウがアピールしてくれる。この2体の俺に対する過大評価は今に始まったことじゃない。


「名人か、なるほど。じゃあ名人が釣った魚を詳しく見てみようか」


 そう言って水槽の中の魚を判別していくウォルシュさん。彼から教えられていた魚もあるがまた新しい魚も釣り上げている。


「見た感じだとどれも食用にして問題なさそうだ。こっちの魚は以前釣ってきてくれたから問題ないな。こっちのは触った感じは身が厚くて美味そうだ」


 そう言って全て引き取ろうと言ってくれた。金策よりもこのお店で美味しい魚料理を作ってくれるのが一番嬉しい。いくばくかのお礼という報酬を貰った俺たち。


「また釣ったら持ってきてくれ」


「分かりました」


「名人に任せるのです」


「そうだな。タク名人に期待してるよ」



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― 新着の感想 ―
飛距離30mの弓はさすがに非力では? 竹切って適当に紐付けただけの弓でも30mくらいは飛ぶでしょう。アマゾンで売ってる手のひらサイズの弓(コンパウンドボウですが)でも最大射程距離は30mくらいです。 …
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