パーティなのです2
「木工船を作る?」
俺が言うとそうんだよと頷くスタンリー。いつの間にかそばに来ていたマリアもお願いしますと言っている。聞くと森の街の北エリアの攻略というか新しい街を探す為にもう一度川を下って湖を探索しようと考えているが今の5人乗りの1隻だと相手の攻撃を防ぎきれないので船を複数作って浮かべ、真ん中に神官や魔法使いを乗せた船にしてその周囲を攻撃陣やパラディンで固めた船でで後衛を守りつつ湖を調べる作戦を考えたらしい。
「ダンジョン攻略は中断し新しいエリアを探すことにしようと思ってね。そして船で一気に湖の奥を攻略しようかと考えているんだ」
ダンジョンは1層上がるごとにレベルが1つ上がっている。今の彼らのレベルだとそろそろ限界なフロアに達しているらしい。上級レベル12で現在6層をクリアしたところらしい。7層にも挑戦したが敵のレベルが上級レベル18相当となっていて攻略が簡単ではないという。敵のレベル以外にフロアが深い森の設定で周囲の視界が悪く、木の上からも魔獣が襲ってくるらしい。聞いている限りかなり手こずっているみたいだ。
なので一旦ダンジョン攻略を中断して新しい街を探しながら経験値と印章を稼ぐという方針に変更したらしい。
攻略クランに所属している20名強の上級プレイヤー全員で繰り出すことを考えているらしく新たに5人乗りの船3隻が必要になるという。1隻は自分たちが持っていてもう1隻は情報クランから借りる算段をつけた。なのであと3隻を作って欲しいという依頼だ。
「俺はいいけどヘンリーにも声をかけたら?彼の方が木工スキルが俺よりもずっと高い。それに木工ギルドのサイモンさんにも手伝ってもらったら3隻ならそう時間が掛からないと思う」
「もちろん、さっき情報クランに話をして彼の了解もとっている」
根回しは終わっている様だ。話をしている声が聞こえてきたのかトミーが近くにやってきた。
「スタンリーからの依頼は受けていてヘンリーもOKしているんだ。それと彼らが新しい街を見つけたら使った船を情報クランが借り受ける話もついている」
「なるほど。となると船を作るだけだね」
船を作るのは経験済みだし何より楽しいと感じている自分がいる。ヘンリーを見つけると彼が手を上げながらまた明日からよろしくと言ってきた。
「主が作る船は安心なのです。頼るのです」
膝の上に乗っているリンネが言うと近くにいた連中からじゃあ頼らせてもらおうという声がした。
明日から作ることにして話は終わった。祝勝会はまだ続いている。俺は立ち上がるとあちこちで固まっている輪の中に入っては話に参加する。普段はいつもの4人との話が多いのでこうやっていろんなプレイヤーと話をするのは新鮮だ。リンネは俺の頭の上に乗っているというか座っている。
「タクは相変わらずソロで動いてるのかい?」
そう聞いてきたのはマスターモンクになっているダイゴだ。スタンリーらと一緒にパーティを組んで先行組の先頭を走っている。
「実際はタロウとリンネがいるから本当のソロじゃないけど基本1人だよ。今度湖の探検に行くんだろう?」
「そうなんだよ。ダンジョンばかりじゃ飽きるしね。それに下流に街があるのがわかっているんだから挑戦しようぜという話になったんだよ」
「タクも私たちと一緒に行く?」
そう聞いてきたのは近くにいた神官のルミ。彼女もスタンリーらのパーティメンバーで最初から固定パーティを組んで活動をしてきているプレイヤーだ。
「いや、俺はいいよ。攻略クランにお任せするよ」
「タクと従魔達なら十分に戦力になると思うけどね」
「何言ってるんだよ、そっちの方がずっと強いじゃない、装備はいいし戦闘経験も多い。船はしっかりと作るから俺は吉報を待っているよ」
そう言うことなら俺たちに任せろとダイゴが言った。その後で、
「このイチゴやりんご、梨はここでタクが作ったんだろう?美味いな」
そう言うと周りのプレイヤーも美味しい美味しいと言ってくれる。
「妖精のランとリーファが来てくれてから味が良くなったんだよ。タロウとリンネも毎日水やりをしてくれているしね」
そう言うと頭の上でその通りとばかりに尻尾を振り回すリンネ。首の後ろがくすぐったいが我慢するよ。畑の果物とお茶は参加者に好評だ。生産者としては作った果物やお茶が美味しいと言ってもらえるのが嬉しいね。
テイムしているプレイヤーが庭に彼らの従魔を呼び出した。虎や狼が現れて庭が一気に賑やかになる。タロウはもちろんだが頭の上に乗っていたリンネも庭に飛び降りると他の従魔達と一緒になって走り回っている。従魔達はすぐに仲良くなるみたいだね。
「こうしてみるとやっぱりフェンリルのタロウちゃんが大きいわね」
自分がテイムしている虎を呼び出しているケイトが言った。彼女の従魔の虎はコテツという名前らしい。この輪はフィールドでテイムしたグループの様だ。攻略クランや情報クランの女性メンバーが多く集まっている。
「フィールドでテイムするのと違ってタロウやリンネは育てていく過程があるからね。テイマーギルドによると育て方で成長の度合いが変わるらしいよ」
そう言うとだからタロウちゃんの上に乗れたりするのねと納得するケイト達。彼女達によると普段のクランとしての活動では1枠取られるので従魔を呼び出すことはなくて、クランとしての活動が終わった後や活動が無い日に知り合いに声を掛け合って集まってはフィールドで従魔達と一緒に遊んでいるらしい。従魔も少しずつ戦闘を経験してレベルが上がっているんだと教えてくれた。
テイムした虎が印章200枚のNMの虎くらいに強くなってくれたらいいんだけどと言っている。聞いていると格上と言ってもせいぜい2つか3つくらいランクが上の敵までで、4つランクが上になると従魔がやられてしまうことがあるそうだ。テイムした従魔と俺の従魔とは従魔という括りの中でも違っていると言うことを初めて知ったよ。
参加者達がいくつかの輪というかグループになってそれぞれ歓談している中を一回りした俺は倉庫から追加の果物とお茶を取り出して和室と縁側に運んで補充する。美味いと言ってもらったからね、いっぱい食べて欲しいんだよね。
果物をテーブルに置き終わって縁側の空いている場所に座るとランとリーファが飛んできて両肩に腰掛けた。それを見て可愛いという女性プレイヤー達。妖精も慣れたものでサムズアップで応えたりしている。サービス精神が旺盛だ。
「そういえば忍靴はどうしたんだい?スペアにしたのか?」
スタンリーが聞いてきたので忍具を作っている試練の街の刀匠の奥さんと森の街の忍具店のシーナさんという装束を作るプロの2人に差し上げたんだよと言うと周りから流石だなと言われた。
「後続組の忍者のプレイヤーに売ったら結構なお金になったんじゃない?」
そう言いながら近づいてきたクラリアに顔を向けるとモトナリ刀匠の店での話を彼女にする。頷きながら俺の話を聞いていたクラリア。
「なるほど。分不相応な装備を持つなってことね」
「そうみたいだね。良い装備はそれを得るために努力した結果だという話だし、聞いていて納得できたよ。だから忍者の装備を作る職人さんに上げて、彼らがそれを参考にして新しい装束を作り販売したらいいと思ったんだよ。それを買える人はそれなりに強いということになるからね」
「そういう小さな積み重ねがNPCやPWLでの貢献度が高くなることに繋がっているんだろうな」
トミーはそう言うけど、いちいち貢献度を考えて動いている訳じゃないんだよ。
「わかってるさ、素でそれをできるからすごいと言ってるんだよ」
祝勝会は昼前から始まって夕方遅くにお開きになった。皆楽しんでくれた様で何よりですよ。またやろうぜという声が出ていたけど俺的には何も問題はない。
「いつでも良いのです。主のお家は広いので問題ないのです」
リンネもそう言ってるしタロウも尻尾をブンブンと振っている。ランとリーファもしっかりサムズアップしている。うちの従魔達は賑やかなのがお好きな様だ。
「今日はありがとう。楽しかったよ。外で経験値を稼ぐだけじゃなくてこうしてたまには戦闘せずに皆で集まってわいわいとやるのも楽しいな」
「その通りです。いい気分転換になりました。ありがとうね」
スタンリーとマリアがお礼を言うと他のメンバーも次々にお礼を言ってくれた。
「こっちはいつでも暇してるからさ、また企画したら連絡してくれよ。果物とお茶しかないけど準備しておくから」
攻略クランと情報クランのメンバー達が門から出ていくのを見送っていると最後になったスタンリーが悪いが船の件はよろしく頼むと言って門から出ていった。
明日から作業開始だな。
今年の投稿はここまでです。12月31日から1月4日までは投稿をお休みします。
来年は1月5日より投稿を再開します。
皆様良いお年を。