パーティなのです1
この日は朝から自宅で祝勝会の準備だ。情報クランと攻略クランのメンバー達がやってくる。NM戦に参加していないクランメンバーも呼ぼうということになったので50名以上の人が来ることになっている。和室と縁側と庭を使って適当に座ってもらおう。2戦目に勝利した後で市内の店から食器類を沢山買ったので数は問題ない。そして時間がある時に作っていた木製の椅子を庭に置いた。こう言う時のために作っておいてよかったよ。
準備にとりかかろうかというタイミングでポツポツと人が集まってきた。自分たちが作った料理や街で買った食事や飲み物を持ってきてくれた。
タロウとリンネは自宅の庭の入り口で挨拶をする係だ。メンバーが入ってくるたびにタロウは尻尾を大きく振ってガウガウと吠えて歓迎の意を示し、リンネはいらっしゃいませなのです。と挨拶をしている。祝勝会の準備は従魔達はできないから受付の仕事を任せたがうまくやってくれているみたいだ。
ランとリーファは好きにさせている。その辺を飛んでみたり俺の肩に乗ってみたり庭の精霊の木に座ったり船に乗ったりと自由気ままに動いている。自宅にやってきた連中によるとその動きが可愛くて良いらしい。
いつもの4人も酒や食事、飲み物を持ってやってきた。マリアはタロウを撫で回したがっていたけど流石に周りが準備をしている中では撫で回せないのだろう。タロウを横目で見ながら皆と一緒に準備をしている。
和室にはテーブルを置いてその上に料理や飲み物を並べていく。全員が揃うとお酒や飲みものを各自が手に持った。人数が多いので全員が和室に入りきれないので縁側にも多くの人がいた。庭の椅子にも座っている。テーブルの上も持ち込んだ料理やお菓子でいっぱいだ。
「ヴァージョンアップがあって印章200枚のNMが強くなったが無事に2戦とも勝利することができた。そのおかげで皆の装備が充実してきている。今日はその2戦の勝利を祝って祝賀会をタクの家でさせてもらうことになった。印章が貯まったらまた挑戦して全員に希望の武器や装備が行き渡るまでやろう。とりあえず今日は2戦の勝利を祝って乾杯!」
「「「乾杯〜」」」
全員が持っているコップを上に上げて乾杯をすると祝勝会が始まった。皆が持ち寄った食事や調理スキルが高いプレイヤーが作った自作の料理などがテーブルにところ狭しと置かれている。その中に混じって俺の畑の苺とりんごと梨も切って皿の上に盛ってある。
アルコールもあるが当然20歳以下は飲めず、仮に飲んだとしても味が変わる様になっているらしい。最初の登録時の個人データでAIが判断しているのだという話だ。俺は一応20歳を越えているが普段からあまり飲む方ではないので自分で摘んだお茶を飲みながら持ち込まれたお菓子や食事を食べていた。調理スキルが高いプレイヤーがいるみたいで自作の手料理が美味しいんだよ。
女性プレイヤーの間ではタロウが大人気なので祝勝会が始まると庭にいるタロウの周りに多くの女性プレイヤーが集まってタロウを囲む様にしておしゃべりをし、撫で回している。タロウも慣れているのか好きにさせている様だ。もちろんその輪の中にはマリアの姿もある。
リンネは縁側に座っている俺の膝の上に乗って尻尾を振っている。ランとリーファは木の枝に座ったり船に乗ったりと自由気ままに動いているがそれが可愛いとプレイヤー達がスクショを撮りまくっていた。
「今日はタクの家を使わせて貰ってありがとう」
スタンリーがそう言って近づいてきた。後ろからトミーもやってきて俺が座っている縁側の隣に腰掛ける。
「主の家は広いので問題ないのです」
「そう言うこと。使ってもらうのは全然構わないよ。ここなら家の声が外に漏れないから少々騒いでも問題ないしね」
「そう言ってくれると助かるよ」
それからは今回の2戦のNM戦について話をするスタンリーとトミー。あの場面はどうだったこうだったという話を黙って聞いている俺。そのうちにタロウがいない場合にはどうやって戦うかという話になった。近くにいたパラディンのリック、ジャックスもその輪に入ってくる。それがきっかけで縁側から和室ではタロウがいない場合の戦闘方法についての意見を言いあう場になっていった。近くにいるプレイヤー達も話の中に入ってくる。彼らも攻略クランや情報クランのメンバーとして先頭を走っているプレイヤー達だ。俺よりもずっと経験が多いよ。
「結局あの虎のヘイトを稼ぎつつ攻撃に耐える必要がある。となるとジャックスやリッククラスのパラディンがあと1名、できれば2名欲しいところだよな」
「ただそうして盾を3枚、あるいは4枚にすると攻撃力が落ちて時間切れになるぞ」
「それと狂騒状態の本当の動きを俺たちは見ていない。タロウががっつりタゲを取っていたからその場から動かないだけで普通ならあのコロシアムの中を走り回る可能性だってある」
皆自分が感じたことを思い思いに言っている。タロウという切り札的な従魔がいるから2戦とも勝利しているがもし従魔がいなかったら勝てないか、勝てたとしても相当の被害(死に戻り)が出るだろうという結論になった。
「ただゲームバランスとして全く手も足も出ないという設定にはしていないと思うのよね」
そう言ったのはクラリアだ。右手にジュースを持って近づいてきて和室に腰を下ろした。
「その通りだよな。勝率が0には設定していない。それでクラリアにアイデアはあるのかい?」
トミーの問いかけに首を左右に振ってから彼女が言った。
「NMの虎の挙動をまず理解する必要があるわよね。となると全滅前提で挑戦してみないと。200枚の印章を捨てる覚悟で一度やってみてNMがどう言う動きをするのか、特殊攻撃は何か。それを知らないと」
そのために苦労して集めた印章200枚を捨てるのはきついよなという声がする。俺も同感だ。そしてクラリアの言葉にも同感だ。タロウが完全に動きを封じていたのでNMの本当の挙動は誰も知らない。
「100枚のNM戦をタロウ抜きで勝てるか?あの狼3体との戦闘の中に虎の戦闘とのヒントがあるんじゃないか?100枚からやってみたらどうだ?」
「どうかな。狼は3体だ。動きが違うんじゃないか」
100枚のNM戦を参考にしてみたらどうかという声が出たがそれを否定する声も出る。こうやって議論を重ねていくのが先行組のやりかたでそれを楽しんでいるメンバー達がここにいる。誰かが敷いたレールの上を進む後続組ではなく、攻略のそのテンプレ、レールを作る作業を楽しめる人ばかりだ。
「難しい話をしてるのね」
庭からマリアが縁側にやってきた。しっかりとタロウを撫で回してきたらしく満足したわとか言っている。その彼女が輪に加わった。
「マリアはどう思う?」
その彼女に向かってスタンリーが聞いた。
「クラリアと同じ意見。まだNMの虎の本当の挙動を見ていない。タクの従魔達抜きでやるのなら初戦は200枚を捨てて挙動チェックに徹した方がよい気がする」
やっぱりそうなるかという声が出る。
「となるとだ、良い装備を手にいれるためには引き続きタクと従魔達に頑張ってもらわないとな」
「任せるのです。主に任せれば問題ないのです」
いや、俺じゃなくてタロウとリンネだろうが。膝の上に乗ってそう言ったリンネの背中を撫でながら俺が言うがリンネは違うのです、主なのですと譲らない。
「リンネちゃんはタクが大好きだものね」
「リンネもタロウもランもリーファも皆主が好きなのです。主は強くて一番なのです。だから主を頼るのです」
「ありがとうな」
そう言って撫でてやると7本の尻尾をブンブン振って喜んでいるリンネ。お前達が頑張ってるからだぞ。俺は座っている皆を見て言った。
「タロウもリンネもやる気満々だからな。いつでもお手伝いするよ。楽に勝てる方法があるのならそれを使うのがいいだろう?」
実際は楽じゃないがそれでも今以上のやり方が見つからない中、一番事故が起きにくい戦術を取るのは当然でしょう。
「そのうちに爆弾でも作れたらまた戦法が変わるかもね」
そうだ。爆弾を作る原料が揃ってたんだ。威力はわからないが確かに新しい攻撃方法になるかもしれない。
その後はみんな自宅の中をあちこち動き回っては飲めや食えやの宴会になった。俺はビニールハウスの中が見たいと言われれば中を案内し、合成している部屋や採取した野菜や果物を保管している倉庫にも案内する。一通り見て縁側に戻ってくるとトミーが隣にやってきた。
「本当にタクはゲームを楽しんでるよな。農業して合成して従魔たちと遊んで」
「このゲームではこれがやりたかったからね。楽しんでゲームをしてるよ」
俺はそう言ってから近くにいたスタンリーに顔を向けた。
「それでこれから攻略クランはどうするの?ダンジョン攻略を続けるの?」
「ダンジョンは上に行くとレベルが高くなる。もちろん攻略は続けるがそればっかりとはいかないんだよ。こっちのレベルが追いつかないからな」
スタンリーによると最大5名のパーティでの攻略という縛りがある中、上にいくと攻略に時間がかかってしまう。効率面から見るとどちらかといえば非効率らしい。
「外でレベルを上げて挑戦するのがいいんじゃないかという声も出ているし俺自身もその方が良いのかなと思い始めているんだ」
宝箱やNMがいなくて只管に敵を倒しているというのも疲れる原因らしい。攻略のモチベーションが今はまだ低いのだと言った。
「それでタクにお願いというか頼み事があるんだよ」
真面目な表情でスタンリーが言った。俺に頼み事?