印章NM戦(情報クラン)
翌日の夕方、明日の虎NM戦に挑戦するメンバー達が自宅にやってきた。今回は情報クランが中心だが一部の攻略クランのメンバーも参加する。スタンリーとマリア、そしてパラディンのジャックスの3人だ。
昨日の攻略クラン主催のNM戦に参加していたクラリアが打ち合わせを仕切っている。
「こっちもレベルが上がっているけど相手の虎NMも強くなっているわ。今回が楽になっていないのは確認しているので気を抜かないで」
そう言ってから作戦会議に入ったが作戦は極めてシンプル。
「フェンリルのタロウのスキル、王者の威圧は有効。でも最初から使うとタロウに何かあったらそれで終わっちゃう。なので前半は皆で頑張って」
要は前半少しでも相手にダメージを与えてからタロウがスキルを発動し、そのまま総攻撃をかけるという作戦だ。作戦と言えるのかどうかは知らないけど昨日を見ているとそれが有効なんだよな。タロウにはまた負担をかけるけど頑張ってもらおう。
「タロウ、頼むぞ」
庭の精霊の木の根元で横になっているタロウに声をかけた。
「ガウガウ」
「任せろと言っているのです。タロウとリンネは主の為に明日も頑張るのです」
「うん。リンネも頼むぞ」
昨日の虎戦で装備が良くなってるプレイヤーが明日は参加する。少しずつ戦闘が楽になっているのは間違いない。
俺が予想していた通り翌日の情報クラン主催の印章200枚の虎NM戦は危ない場面もなく無事に勝利した。戦闘時間は一昨日よりも少しだけ短くなっていた。もちろんタロウが大活躍だったよ。
街に戻って情報クランのオフィスでドロップ品をテーブルの上に並べていく。今回はこんなのが出た。
タイガーアーマー(防具:ウォリアー、盗賊、マスターモンク)
重装の盾 (装備:パラディン)
片手剣 (武器:ウォリアー、パラディン)
魔力の杖 (武器:魔法使い、神官)
忍靴 (防具:上忍)
盗賊の短剣 (武器:盗賊)
魔力の腕輪(装備:全ジョブ)
転移の腕輪(装備:全ジョブ)
力の腕輪(装備:全ジョブ)
従魔のスカーフ (従魔)
フォレストタイガーの目 (合成原料)
硝酸(合成原料)
過去2回とまた微妙に違ったドロップだ。まず爆弾の原料の1つである硝酸がドロップしていた。
「これで爆弾のレシピが揃ったわ」
硝酸を見ながらクラリアが言っている。合成スキルがいくついるのかは分からないけど爆弾が作れることになった。早速これはクラン所属の合成職人に渡すのだという。それと虎の皮じゃなくて目が出た。錬金の材料かな?それにしても200枚の印章NM戦ともなると見たことがない合成原料も出てくるんだな。その分合成スキルも相当高いレベルが要求されそうだ。マイスターになったらこういうアイテムを使って高級品を合成するんだろう。
武器、防具関係のドロップ品は今までに出ていたのと同じだった。ただそれらは全てプレイヤーにとって喉から手が出る程欲しいものばかりだ。NM戦に参加していたプレイヤーの表情が明るい。そりゃそうだよね上級10レベルの武器や防具よりも優秀な装備が出たのだから。
「タク、また忍靴とスカーフが出たけど。スカーフは事前の約束通りタクが貰って。それと忍靴も貰ったら?一昨日も貰っていたじゃない。上忍はタクだけだから持っておいて」
他のメンバーも忍靴は使わないし、タクが持っておけよと言われて押し付けられる形で貰ってしまった。これで忍靴が3足になっちゃったよ。これは明日にでもモトナリ刀匠に相談に行こう。従魔のスカーフは3つ目が手に入った。ここまできたら4つ目も欲しくなるよね。
ドロップ品は情報クランのメンバーに分配していく。クランとして2つ目の転移の腕輪はクラリアらと別のパーティのリーダーが装備することになったみたいだ。それにしてもこの情報クランも分配でもめないんだよな。すごいよ。
俺は200枚のNM戦を2戦したおかげで上級レベル12になった。いつもの4人も2戦した結果13に上がったと言っている。もちろんタロウとリンネも12になったよ。
「タロウのおかげで無事に勝てたわ。ありがとう」
「まだまだ装備が足らない。印章を貯めてまた挑戦するからタロウには頑張ってもらわないとな」
戦利品の分配が終わったところでクラリアとトミーが言うと、他のメンバーからもまた頼むぜと声をかけられる。この場にタロウとリンネはいないが2体とも戦闘狂だから問題ないだろう。
「わかった。タロウとリンネにはしっかりと言っておくよ」
「タクは明日からまた農業とソロで活動かい?」
NM戦の戦利品の分配、反省会が終わったところでトミーが聞いてきた。
「そうだね。上級12になったし、しばらくは農業や釣りをしてのんびりするよ」
「印章が溜まったらまたヘルプをお願いするかもしれないけどよろしく頼むよ」
「ヘルプならいつでもOKだよ」
またよろしくという声を聞きながら情報クランのオフィスを出でそのまま別宅に戻るとタロウとリンネを撫で回してやる。
「今日もお前たちは頑張ったな」
「ガウ!」
「主の為にタロウもリンネも頑張ったのです」
しっかりと2体を撫でてから自宅に飛ぶと留守番をしていたランとリーファがそばにやってきた。今日手に入れたスカーフをランの首に巻いてやり、リンネのスカーフをリーファの首に巻いた。そうしてから2体の妖精をしっかりと撫でてやる。
「家にいる時はずっとつけていていいぞ。外に出る時は1枚をリンネに渡してくれるかな?」
そう言うとランがサムズアップする。この仕草でランとリンネで1つのスカーフを使うことになった。
「リンネは問題ないのです。ランと交互にスカーフを首に巻くのです」
ありがとうなとリンネを撫でてやる。物分かりのよい従魔達でよかったよ。
まだログアウトするには早い時間だったので再び試練の街に戻った俺達は市内を歩いてモトナリ刀匠の店に顔を出した。
「こんにちはなのです」
「ガウガウ」
「こんにちは」
ドアを開けると同時にリンネとタロウが先に挨拶をするから俺が最後になる。挨拶をするのは競争じゃないんだけど従魔達の挨拶のタイミングが早すぎるんだよ。
「タクと従魔達か。どうした?」
3つの挨拶の声を聞いてモトナリ刀匠が奥の工房からやってきた。俺は忍靴を3つ手に入れたという話をしてから相談したいことがあってやって来たんですとここに来た目的を話した。
黙って聞いていたモトナリ刀匠はこっちの話が終わってからしばらくうーんとか言って考えていたが顔を上げるとはっきりと言った。
「分かった。タクの言う通り俺が1つもらおう。これは女房に渡す。もう1つは森の街のシーナに渡すんだな?」
「その通りです」
俺は2足の忍靴をどうするかと考えた結果、モトナリ刀匠の奥様と森の街のシーナさんに差し上げるのがいいんじゃないかって思ったんだよね。2人は忍装束を作るプロという話だ。レアアイテムだと言われている忍靴を渡すことで彼らの製作の助けになるかもしれない。そう思ってモトナリ刀匠に自分のアイデアを話したんだよ。
モトナリ刀匠が俺のアイデアを受けてくれてホッとした。彼が店の奥に声をかけると奥から人族の女性が出て来た。彼女が奥様の様だ。モトナリ刀匠から受け取った靴を手に持つとすごい靴ねと言ってから俺たちに顔を向けた。
「ありがとうございます。特殊効果のある忍靴は作ったことがないんですよ。これを見て勉強させてもらいますね」
奥様によると靴に特殊効果を付与させるのは装束を作る時とはまた違ったスキルが必要らしい。詳しいことは分からないけどこれが役に立つと言うのならよかったよ。
「お邪魔しました。ありがとうございました」
「ありがとうございましたなのです」
「ガウガウ」
俺がお礼を言うと黙ってやりとりを聞いていたリンネとタロウもお礼を言ってくれた。
「上忍12になっているな。慌てる必要はないが鍛錬は欠かすなよ」
「はい、わかりました」
試練の街のモトナリ刀匠の店を出た俺たちは今度は森の街にあるシーナさんの忍具屋に顔を出した。そこで同じ様な話をして忍靴を彼女に渡す。
「モトナリ刀匠の奥様は私の師匠さんでね。丁寧に教えてくれたんだよ。おかげで何とか忍具の製作で食べていける様になった。あの人には頭が上がらないよ」
そう言ってからこの忍靴を参考にして自分でも色々と考えてみるよと言ってくれた。
「レアなドロップ品を頂いたからにはしっかりと研究しないとね。良い装備ができたら教えてあげるよ」
「よろしくお願いします」




