2つ目の従魔のスカーフ
試練の街経由で俺の自宅にNM戦に参加していたメンバー達が集まった。洋室のテーブルの上に宝箱の中身を並べる間に、俺は畑で採れたお茶と倉庫に保管してある果物を参加者に配る。これが好評なんだよね。自分が作ったものを美味しいと言って飲んだり、食べたりしてくれるのは生産者の喜びだよ。
今回の戦利品はこんな感じだ。
タイガーアーマー(防具:ウォリアー、盗賊、マスターモンク)
重装の盾 (装備:パラディン)
片手剣 (武器:ウォリアー、パラディン)
森の弓 (武器:ハンター)
忍靴 (防具:上忍)
魔力の杖 (武器:魔法使い、神官)
力の腕輪(装備:全ジョブ)
転移の腕輪(装備:全ジョブ)
素早さの腕輪(装備:全ジョブ)
従魔のスカーフ (従魔)
フォレストタイガーの皮 (合成原料)
火薬(合成原料)
「前回と少し違ってるわね」
人数が多いので椅子に座らずに全員がテーブルの周りに立っている。テーブルに置かれた戦利品と端末を見ていたクラリアが言った。確かに少し違っている。大剣がないがその代わりに森の弓が出た。魔力の腕輪はないが力の腕輪が出た。おそらくこれはSTRが上昇するのだろう。ハンターの女性が弓が出たと大喜びだ。確かに高性能の弓があると遠隔攻撃が楽になるよな。盗賊の短剣は出なかったけど魔力の杖が出た。いずれも皆上級10以上の装備であることは間違いない。
重装の盾はジャックスが装備し、タイガーアーマーはスタンリーが装備することになったみたいだ。魔力の杖はマリアが手に入れた。それ以外のアイテムも攻略クランのメンバーに配分されていく。皆不満を言わずにもらっているんだよな、すごいよ。
「またやれば出るって分かっているからだよ」
あっさりと言うスタンリー。なるほど。でも人より良い装備は早く欲しいと思うのがゲーマーの心情だと思うんだけどその辺りは普段からクランの中の風通しがよいのとメンバーが皆大人なんだろうな。
今回のNM戦の目的の1つであった転移の腕輪が出たので攻略クランのメンバーの表情が明るい。これでダンジョンから戻るのが楽になるぞと言っている。いや、全くその通りだよ。この腕輪は本当に便利だからね。そして、
「従魔のスカーフ。これはタクがどうぞ」
「ありがとう」
俺はマリアから従魔のスカーフを受け取った。
「ドロップが若干変わったのは再挑戦するモチベーションになるな」
「確かにね。次は何が出るんだろうって考えるのは楽しみ」
「明後日の情報クランのNM戦のドロップ品を見てみようよ」
あちこちから声が聞こえてくる。レベルが上がってNEXTの経験値が増えているので今回のNM戦では誰もレベルが上がらなかったがそれよりも200枚の印象NM戦に勝利して上級レベル10以上と言われている装備を手に入れた喜びの方が大きい。
俺は庭にいるタロウとリンネ、そしてランとリーファを呼んだ。集まってきた4体の前に従魔のスカーフを2つ見せる。
「従魔のスカーフがまた増えた。自宅ではランとリーファ。外に出る時はタロウとリンネが装備するぞ。いいかな?」
「ガウガウ」
「主、でかしたのです」
タロウとリンネはそう言い、ランとリーファはお互いの両手を掴んで空中でクルクルと回る歓喜の舞を見せてくれる。これが可愛いのか女性プレイヤー達がスクショを撮りまくっていた。
「めちゃくちゃ可愛いじゃない」
「妖精さん達の舞なのね。なんて可愛いの」
歓喜の舞を終えて近くにきたランとリーファの首ににそれぞれスカーフを巻いてやるとまた嬉しいのか歓喜の舞を演じてくれた。またスクショの嵐だ。
「忍靴がまた出たけどタク、持っておいてくれよ」
「いや。俺はもう持ってるからいらないよ」
2つも持つ必要ないからそう断ったのだが攻略クランのメンバーで上忍はいない。俺たちが持っているよりもタクが持って、売るか予備にするか好きにしてくれた方がいいよと言って結局俺が持つことになった。俺は売るのならそっちでやってくれと言ったんだけど上忍の装備は上忍が持つべきだという訳のわからないに理屈に押し切られてしまったよ。
レアアイテムだってのはモトナリ刀匠も言っていたけど。忍具店に店売りするか、それとも後続組の中の上忍にあげるか。ただあげるとなると難しいよな。依怙贔屓になっちゃうよ。悩ましい。
一度モトナリ刀匠に相談してみよう。
戦利品の分配が終わると今のNM戦についての感想を言い合う場になる。反省会とでもいうのかな? こうなると洋間ではなく縁側や和室に移動して皆思い思いの場所に座ったり腰掛けたりしていた。タロウとリンネは定位置の精霊の木の根元と太い枝の上だ。ランとリーファは今はスカーフを巻いたままでタロウの背中に乗っている。うん、似合ってるぞ。
皆思い思いに発言をするが結局この印章200枚の虎NM戦はタロウがいないと勝てないという結論になった。
「正直こっちのレベルと装備が良くなっているから前回より楽かなと思ったけどやってみるとそうじゃなかった」
「俺は重装の盾を装備したがそれでもきつかった」
前回のNM戦で盾をゲットしていたリックが言っている。
「前回はタロウが早めに威圧でタゲを取ってくれたのでその後はこちらは好きに攻撃できた。今回は中盤までタロウの威圧がなかった。だから苦労したと感じているんじゃないか。実際討伐時間は前回より少しだけだけど短くなったと思っているんだが」
トミーが言うと全員がなるほどと声を出す。確かに今回は俺が言うまでタロウは通常の攻撃をしていたな。ということはタロウ自身は前の方が強かったと感じていたのか、それとも2回目だから相手のことを知っているから余裕があったのか。
「タロウ、お前はこの前と今回とどっちの相手が強かったと感じてるんだい?」
精霊の木の根元でゴロンと横になっているタロウに顔を向けて聞いた。
「ガウガウ」
「同じだと言っているのです」
同じ木の枝の上からリンネの声がした。
「リンネはどうなんだ?」
「リンネもタロウと同じなのです。リンネの魔法が当たればわかるのです。同じだったのです」
「従魔達が同じと言っている。そして討伐時間もほぼ同じ。相手も強かったが俺達も装備やレベルで強くなっている。そう言うことになるのかな?」
スタンリーはそう言ってからタクはどう感じたと俺に聞いてきた。
「俺は正直言うと今回の方が楽だった。自分の装備品が前回よりも良くなっているのが大きいと思う。蝉は4枚あるし素早さが上がっていることもあって2回に1回は避けることができた。慣れの部分もあると思うよ。もちろん俺がメインの盾じゃなかったというのが大きいだろうね、横から好きに攻撃していただけだから」
「確かに慣れの部分はあるよな。ただタロウがタゲをしっかりとキープしてくれないと厳しいのは変わらない。200枚NM戦はタロウにかかっていると言ってもいいな」
その通りなんだよな。さっき皆も言っていたけど今のところはこの印章200枚のNM戦はタロウががっつりタゲを取らないと勝てない。
参加者からは、印章を貯めてまたやろうぜという声が飛んでいる。転移の腕輪やアーマーなど虎NMは良い装備を落とす。装備狙いで印章を貯めて挑戦する価値はあると俺も思うよ。
「皆さんご苦労様でした。おかげで勝利することができました。明後日は情報クランが同じNM戦をしますがヘルプの人はよろしく頼みます。2戦勝利した後はここで祝勝会をやるのでそれはまた追って連絡入れます」
スタンリーが締めて攻略クラン主催のNM戦が終わった。明後日は情報クラン主催のNM戦だ。その前、明日の夕方に参加者がこの自宅に来て打ち合わせをする。
「タク、明日の夕方、打ち合わせでお邪魔するわね」
「はいよ、了解」
「また明日なのです」
「ガウガウ」
リンネとタロウが挨拶をし、ランとリーファは手を振って見送っている中を全員が自宅から出て言った。
皆が出ていくと4体の従魔達を側に呼んで撫でてやる。
「タロウもリンネも今日はよく頑張ったぞ」
本当に頑張っていたからな。それは間違い無いぞ。
「主のために頑張ったのです」
「ガウガウ」
タロウは耳を後ろに垂らせながら尻尾を振っているしリンネは俺の膝の上で同じ様に尻尾を振り回している。ランとリーファはスカーフを首に巻いたまま俺の両肩に座っている。
「タロウはまた次も王者の威圧を頼むぞ」
俺が言うと任せとけと言わんばかりに尻尾をブンブンと振り回してくれる。それを見てから俺は2体の妖精に顔を向けた。
「ランとリーファもお留守番ご苦労さんだね」
サムズアップで答える2体の妖精。
「明日はゆっくりと休んで明後日もう一度あの虎のNMと対戦するからな。頼むぞ」
「ガウ」
「任せるのです」
うん、タロウとリンネに任せれば安心だよ。
その後4体の従魔をしっかりと撫で回してからログアウトした。




