印章NM戦(攻略クラン)
NM戦の当日、毎日のルーティーンを終えた俺達が試練の街の別宅に飛ぶとすぐに隣の庭から攻略クランのマリアがやってきた。早速タロウを撫で回している。
「準備はできてる?」
「大丈夫だよ」
「タロウとリンネもばっちりなのです。強い敵をやっつけてやるのです」
リンネがやる気満々の口調で言う。うちの従魔達は本当にいつも自信満々なんだよな。実際に強いからいいんだけど。
俺が頼むぞと言うと頭の上に乗ってから任せるのですと答えながら7本の尻尾をブンブンと振る。首筋がくすぐったい。
メンバーが揃ったと隣の攻略クランの庭から声がかかった。
試練の街の中を20名以上の精鋭プレイヤー(ただし自分は除く)が集まって歩いているのは壮観だ。と同時にやけに目立つ。市内から門に出ても注目を浴び続けていた。
「攻略クランの連中だ」
「情報クランもいるぞ」
という中、
「フェンリルよ」
「九尾狐のリンネちゃんよ」
という声もする。俺も言われているがどう考えても付け足し扱いだ。その通りなので聞こえないふりをしていた。
「印章NM戦か」
「そうだろう。あのメンツなら印章200枚戦かな」
という声も聞こえてきている。
試練の街を出て印章NM戦を行う草原に着くと何も言わなくても各自が最終の準備をする。
「印章を提供する人は端末を用意して」
マリアの声が飛んだ。俺は今回20枚を2回提供するので端末を持つと地面が光っている場所に近づいた。お願いしますという声で複数の端末が光にかざされる。
『印章20枚を消費しますか?』
【はい】をタップする。
『印章を200枚使って特殊戦闘を行いますか?人数は最大25名、時間は4時間となります。NM戦をする場合は端末を光に近づけてください。専用フィールドに移動してから10分後にNMがPOPします』
誰かが【はい】をタップしたのだろう。全身が光に包まれた。
飛ばされた先は前回と同じコロシアムの様な場所だった。
「戦闘準備」
スタンリーの声で全員が配置につく。俺は空蝉の術3を唱えた。タロウとリンネは俺のそばで待機だ。全員が正面のNMがPOPする場所を見ていた。
「来たぞ」
地面が光るとこの前と同じ大きな虎が1頭姿を現した。
(ジェネラルフォレストタイガーです)
「前回と同じだな」
「ただ強くなってる。気を抜くな」
NMの虎が現れた時に隣のタロウを見てみると体を低くして相手を睨みつけている。ただ唸り声は上げない。じっと睨みつけているだけだ。
ジャックスとリックの2名のパラディンが前に出て、さらにリックがジャックスよりも一歩前にでた。。彼は前回のNM戦で出た重装の盾を装備している。盾の防御力はジャックスのよりも高い。
リックが持っている片手剣で盾を叩いてヘイトを取って戦闘が始まった。
NMの虎がリックに突進してきた。盾はよくなり、プレイヤーのレベルも上がっているが同時に相手のNMもレベルが上がっている。
虎がリック目指して突進してくるがリックも盾を突き出して数歩前に出て正面から受け止めた。
「耐えられる。いけるぞ!」
勢いに押されて少し戻されたがそれでもしっかりとNMの攻撃を受け止めたのを見て戦闘が開始される。ジャックスは常にリックと並んで攻撃をしながら2枚盾でNMの虎のヘイトを稼いでいた。敵対心プラスの指輪の効果もしっかりと出ている様だ。
全員攻撃の合図とともに俺も前に出てNMの虎を横から刀で切りつけていく。リンネは俺の背後で魔法を撃ち、タロウも俺の隣で蹴りを入れていた。
ただ攻撃はできるが相手は硬い。パラディン2人も攻撃を受け止めているが体力を削られているのは間違いない。神官から回復魔法が飛んでいる。
「30分経過」
クラリアから声が飛んだ。まだ序盤だ。NMの虎は突撃と前足の攻撃をパラディン2名に繰り出しており、俺たちはその虎の左右から剣や矢を放っていた。魔法使いは後方から間隔を開けて精霊魔法を打ち込んでいる。
突然虎NMが想像もしていなかった程の素早い動きでその場で後ろを向いたかと思うと後ろ足で蹴りを繰り出した。蹴りをまともに食らったジャックスが後ろに吹っ飛ばされる。すぐにリックが前に出てヘイトを取った。飛ばされたジャックスに降り注ぐヒールシャワー。
この蹴りは前回は無かった攻撃だ。
「前回よりもずっと強いぞ、気を抜くんじゃないぞ」
フィールドにスタンリーの声が飛んだ。分かっていてもこうやって声を出すことで確認しあうのも大事だ。ジャックスが吹き飛ばされた瞬間に俺は虎の正面に立ってリックと並んで虎の攻撃を受け止める。素早さが上がっているとはいえ相手も素早さが優れている虎だ。2回に1回は攻撃を喰らって蝉が剥がされていく。ただ隣でリックが頑張ってくれているので俺ばかりに攻撃がくることはない。
ジャックスが戻ってきた。俺は彼に場所を譲って再び横から虎に攻撃をするが一時的に盾をしてヘイトを稼いだこともあって時々俺の方にも攻撃をしてくる。それを蝉で交わしながら片手刀を振り回す俺。ノーダメージで対応できる空蝉の術はやっぱりすごいよ。しかも今は術3を覚えたので分身は4体出せる。
「90分経過」
どちらかといえば膠着状態だ。こちらは攻撃を続けているが大きなダメージを与えているとはいえない。
「スタンリー、タロウに攻撃させるぞ」
「頼む!このままじゃあジリ貧だ」
スタンリーの声がすると同時に俺は叫んだ。
「タロウ!」
それだけで分かったのかタロウが低くて長い唸り声を出した。王者の威圧のスキルだ。それまでタロウも攻撃してヘイトを蓄積させていたのだろう。虎NMがタロウに顔を向けた。それを見たメンバーが各自持参している薬品を飲んで回復させると攻撃を再開する。予想通り虎NMはプレイヤーに向かずにタロウとサシの勝負になった。
「リンネ、遠慮せずにやっちまえ」
「はいなのです。やっちまえなのです」
リンネの精霊魔法が虎に飛んでいく。魔法使いも魔法を飛ばして虎NMの体にぶつけていった。タロウの王者の威圧が効いているのだろう。虎NMはずっとタロウに攻撃を続けていた。そのタロウはNMの攻撃を交わしながら自分からも攻撃を続けている。相手の方が大きくても関係ない。タロウすごいぞ。
「150分経過」
そのタイミングで虎NMが全身を震わせた。
「狂騒状態だ」
「タロウ、気をつけろ」
スタンリーと俺の声が同時に飛んだ。タロウは分かっているのだろう。唸り声がまた一段と低くそして強くなってきた。虎NMが後ろ足で立ち上がるとそのままタロウに飛びかかってきた。タロウはそれを軽く交わしながら蹴りを入れる。その後NMの後ろ足のキックも華麗に交わすタロウ。
「総攻撃だ」
スタンリーの声が飛ぶと全員がヘイト無視で全力で攻撃を加える。タロウが完全に虎NMのヘイトを稼いでいるので持っている武器や魔法で四方八方からNMの虎に攻撃を続けけた。この前のNM戦と同じくタロウと虎NMがまるでサシの勝負の様にお互いに殴り合っている中、とうとうNMの体力がゼロになったのだろう。虎がその場で倒れ込むと光の粒になって消えていった。そしてその場所に大きな宝箱が現れた。
「勝ったぞ!」
「「おおおっ!!!」」
戦闘が終わると王者の威圧が消えたタロウが俺のそばによってきた。もちろんリンネもだ。俺は寄ってきた2体をしっかりと撫でてやる。スタンリーが宝箱を開けて中にあるアイテムを端末に収納する。戦闘時間は3時間10分。前回よりも10分短い。
俺が2体の従魔を撫でていると全員が光に包まれ、次の瞬間最初のフィールドに戻っていた。
「タロウ、リンネよくやったぞ」
「ガウガウ」
「タロウは頑張ったのです。リンネも頑張ったのです」
「うん。その通りだ。よくやった」
今回も2体の従魔達が大活躍だった。
「主もすごく頑張っていたのです。主が一番なのです」
「ありがとうな」
そういうと俺の頭の上に飛び乗るリンネ。フィールドに戻ってくると参加したプレイヤーたちが集まってきた。
「今回もタロウが大活躍だな」
「タロウすごいな」
口々に撫でては誉めてくる。誉められてタロウも尻尾をブンブンと振って応えていた。王者の威圧で虎NMを睨みつけながら攻撃を繰り返していた時とは違って今はいつも通りの人懐っこいタロウだ。
「それにしても皆言っているが、タロウの存在は本当にでかいな」
「確かに。前回もそうでしたけど、タロウがタゲを取り続けてくれていなかったらおそらくジリ貧になって時間切れになっていたでしょう。その前に狂騒状態でこちらの隊形が崩れていたかもしれないですね」
スタンリーとマリアが歩きながら話している声が聞こえてきた。マリアがタロウを撫でながら歩いているから近くで話をしている会話が聞こえてくるんだよ。
全員でゆっくりと森の中を歩いて試練の街の門を潜って戻ってきた。