NM戦の前の打ち合わせ
印章200枚のNM戦を翌日に控えた前日の夕方、このNM戦に参加する攻略クランのメンバーが開拓者の街の俺の自宅に集まった。それ以外に情報クランからも数名参加している。
2戦それぞれのクラン主催でやると言ってもそれぞれのクランメンバーだけで組んではいない。特に盾となるパラディンについてはジャックスとリックが2戦とも参加するし他にも一部メンバーは2戦参加だ。当然だよね。ジャックスとリックはこのPWLで共にNO.1、NO.2のパラディンだし装備も良い。後はいつもの4人も2戦参加組だ。ちなみに俺たちも2戦参加だ。タロウの王者の威圧は必須だろうしな。リンネは魔法があるし俺も蝉が4枚ある。まぁ俺たちの場合、主戦力はタロウとリンネだけど。
情報クランや攻略クランのオフィスではなく俺の自宅で最終打ち合わせをすることになった理由は広いのと話の内容が外に漏れないかららしい。こっちは自宅を使ってもらうのは全然問題ない。広いのは間違いない。
集合時間が近づくとぽつぽつとメンバーが自宅にやってきた。タロウとリンネは庭でお出迎えをしている。愛想が良いのも人気がある理由の1つだよ。マリアは早速タロウを撫で回している。すると後からきた女性プレイヤー達もタロウの周りに集まってきた。相変わらず人気者だな。
リンネはいらっしゃいませなのです。と言いながらそこらじゅうを走り回っている。こっちもいつも通りだ。
ランとリーファは俺が作った船の上に座っている。庭を流れている小川の上に浮かんでいる小さな木の船に並んで座ってる妖精は絵になるみたいで女性プレイヤーを中心に可愛いといいながらスクショを撮りまくっていたよ。
「タクが作ったのかい?」
女性プレイヤーが船の周りに集まっているその外側からそれを見ていた攻略クランのジャックスが聞いてきた。
「そう。木工スキルが上がったからね。彼らはいつも留守番だ。俺たちは自分で作った船に乗って釣りに行っているからね。作ってあげようと思ってさ」
「なるほど。ちょっとした遊び心。こう言うのっていいよな」
うん。俺もそう思うよ。何より妖精達が気に入ってくれているからね。
そんな話をしているとメンバーが揃って時間になった。始めようかという声で全員が縁側に腰掛けたり和室や庭の上に座ったりする。スタンリーが参加者全員が見える縁側の端に立った。俺は精霊の木を背にして座っている。その隣にはタロウがそしてリンネは俺の伸ばした足の間に座って顔を太ももに乗せていた。
「相手は前回と同じジェネラルフォレストタイガーだ。V.UPで敵のレベルがこちらの最大レベルにリンクする仕様になった。こちらの最高は上級レベル12だからこれにいくつか上乗せされたレベルになるのは間違いない。ちなみに推測になるが前回は俺たちのレベルよりも最低でも20は上のレベルだったんじゃないかとみている」
今のNMの強さは上級レベル30を越えるってことだよ。こちらもレベルが上がっているのに加えて皆上級レベル10以上の装備で固めている。一方的にはやられないとは思うけど、それでも簡単な戦闘にはならないだろうな。
「基本はパラディン2人で盾役を担当。タクの上忍盾はいつも通りの遊軍で頼む」
うん、いつも通りの方が良いよ。了解と手を挙げて答えた。その後はそれぞれの役割について話をしていくスタンリー。攻略クランのマスターを長くしているだけあって説明が簡略でポイントを外さないんだよな。
「前回はフェンリルのタロウが途中からずっと威圧をかけてヘイトを稼いでタゲをキープしていてくれた。おかげでこちらは好きに攻撃できたが今回もその作戦が通用するとは限らない」
そう言ってメンバーに大まかな作戦を説明する。基本は盾で受け止めながら倒すというオーソドックスな戦法だ。
スタンリーがこっちに顔を向けた。
「タロウの王者の威圧を使うタイミングについてはタクに判断を任せてもいいか」
「分かった。ただこの前の様にタロウが自分で判断することもあるかもしれないけど」
俺は隣で横になっているタロウの背中を撫でながら答える。
「それはそれでかまわない。タロウなら周りが見えているだろうし、状況判断を間違えないだろう」
ここにいるメンバー達は俺の従魔達の能力を知っている。実際タロウもリンネも何やかんや言いながらしっかり仕事をするんだよ。俺の隣で横になっているタロウもガウと一吠えしながら尻尾をブンブンと振っていた。
「任せておけと言っているのです」
「じゃあ安心だ。タロウ、頼むぞ」
スタンリーの言葉に尻尾を振って答えるタロウ。今回もタロウが攻撃の肝になる気がするんだよな。俺がそう思っているくらいだからここにいるメンバーも皆同じ理解だろう。
「タロウがタゲをがっちりととった時はヘイト無視で総攻撃しよう。削れる時には出来るだけ削るぞ」
時間制限のあるNM戦だからスタンリーの言う作戦が妥当だろう。安全重視でちんたらやってたらタイムオーバーになる。リスクを取るのも大事だよ。
俺はこのゲームではのんびりしているが以前の別のゲームならそれこそ戦闘漬けの日々だった。その戦闘でも安全マージンを取りすぎて倒せなかった事は何度もある。強い敵との戦闘は大抵ギリギリで勝てる様に設定されているはずだ。つまりこちらもリスクを取らないと勝てないということになる。
作戦の説明が終わると戦利品の扱いになった。攻略クラン主催の時は情報クランからのの参加者に戦利品を手にいれる権利はない。逆もしかりだ。ただ俺だけはヘルプ扱いにしてくれて2戦とも従魔のスカーフが出たら貰えることになった。
「ドロップ品が全く同じかどうかわからないけど、もし従魔のスカーフ2つ出たら2つともタクの物で構わないよ」
スタンリーとクラリアらが事前に決めていたらしい。上手くいけばスカーフが3つになるのか。これは嬉しいな。
その後は雑談タイムだ。参加者達が思い思いに気がついたことを言っている。その中で攻略クランの参加者である神官のルミが近くにいるクラリアに話しかけている声が聞こえてきた。
「このV.UP後のNM戦については情報クランとから情報を開示する予定?」
「ドロップ品を見てからになるけど基本は開示するつもり。もちろん上級レベルが10を超えると一部の店でそのレベルに対応している装備品、武器が購入できるという情報もね」
「そうよね。勝てるかどうかは別として良い装備品をドロップするというのは挑戦するモチベーションになるものね」
その通りよと答えているクラリア。情報を開示すれば多くのプレイヤーは上級レベルを10にして装備を強化してから100枚、200枚の印章NM戦に挑戦することになるだろう。
そこまで準備してもNMのレベルが上がっているから簡単じゃないけど、それでも勝率が上がるのは間違いないだろうな。
「それにしてもタクの自宅は和風で畳もあるし庭も広い、落ち着くよな」
誰かが言うと周りから本当だよと声が上がる。すると1人が
「200枚のNM戦に2戦勝利したらここで祝勝会したいな」
そう言うと周りからそれいいな、いいわね、とかやろうぜと声が飛ぶ。
「タクはいいのかい?」
気を遣ってスタンリーが聞いてきたが俺が答える前に膝の上に乗っているリンネが俺に顔を向けた
「主、受けるのです。祝勝会はパーティなのです。パーティは楽しいのです」
お前パーティなんてやったことないだろう?てか何でそんな言葉を知ってるんだよ。と思うが隣でタロウも尻尾を派手に振って地面にぶつけている。
おいおい、2体ともノリノリじゃないの。まだ勝つと決まった訳じゃないんだぞ。俺は苦笑しながら船に乗っているランとリーファを見る。彼らは目を合わせると2体ともサムズアップをしてきた。
「4体の従魔達が皆やる気満々みたいだ。こっちは問題ないよ」
「そうか。じゃあそうさせてもおう」
そう言ってから全員を見たスタンリー。
「タクがOKしたのでパーティ会場は決まった。あとは2戦とも勝利するだけだ」
パーティはパーティとしてだ、その前に明日のNM戦後は勝っても負けてもまた俺の自宅に集まることになった。その時には情報クランのNM戦のメンバーも合流する。情報を交換することで少しでも勝率を上げた方が良いだろうという事だ。この辺りは普段からよく交流している2つのクラン同士だから問題はないんだろうな。
自宅を使ってくれるのは全く問題ないのでOKだよと返事をしておいた。