新しい装備
上忍がレベル10になったのでエルフのシーナさんの店に顔を出した。もちろんタロウとリンネも一緒だ。
「こんにちはなのです」
「ガウガウ」
店の扉を開けると俺が挨拶をする前に2体の従魔が先に挨拶をする。店の奥からシーナさんが出てくると俺もこんにちはと挨拶をした。
「タクかい。久しぶりだね。おや、上級レベル10になったのかい?」
「そうなんですよ。昨日ようやく上忍のレベル10にあがりました。それで今のレベルで俺が装備できる様な装束はないかなと思って来たんです」
モトナリ師匠に聞いたんだねと言ってからレベル10になったら装備できる装束があるんだよ、待ってなさいと店の奥に消えていった。やっぱりあったんだ。
しばらくすると奥から上忍の装束を持ってきてテーブルの上に広げてくれた。
「これが上忍レベル10から着用ができる装束と袴ズボンだよ。どちらも今までよりも素早さが上がり、刀と忍術の効果がアップする。タクが今きている装束よりもこっちの方が性能がずっと上になるね。敵に見つかりにくいのは今のと同じだよ」
これを待っていたんですよ。俺は早速金を払ってその場で新しい装束に着替えた。装束代はとても高いが生きるためだ。それに幸いに金はそこそこ持っている。新装束はデザインや色目は今まで着ていたのとほとんど変わらないが、すごく軽くて動きやすい。腕の可動域も今のも十分広かったがそれがさらに広くなっている感じだ。
「あと手裏剣などの投擲スキルがアップする機能がついている。投擲スキルが同じでも今までよりも威力と命中率が上がるよ」
すごい装備だ。
「これでまた生き残る確率が上がりますよ」
俺がそう言うとその考え方でいいんだというシーナさん。
「忍者なんて基本コソコソと動くジョブだ。敵とガチンコで対決するよりも敵の攻撃を躱しながら相手に傷をつけていく戦闘スタイルだよ。躱し、避けて、時に逃げる。それを忘れて強くなったと勘違いすると碌な事がない。今の考え方を忘れるんじゃないよ」
「わかりました」
「また強くなったらおいで、今奥の工房で新しい装束を作ってる。出来上がってみないと装備可能なレベルが分からないんだけどね。まぁ当分はその装束でいけるだろう。無理せず頑張りなよ」
「ありがとうございます。またちょくちょく顔を出させてもらいます」
「またお邪魔するのです」
「ガウガウ」
いつでもおいでと言う声を聞いた俺たちは店を出た。
「それはすごい情報よ。ひょっとしたら私たちのジョブも上級レベルが上がったら新しい装備があるかもしれない」
情報クランのオフィスになっているコテージに戻った俺はちょうどそこにいたクラリアに今装備を買い替えたという話をする。途中からトミーも打ち合わせに合流してきた。彼も俺の話を聞いて装備でさらに上のグレードが存在するなんて思いもしなかったと言っている。
「ごめん。もっと早く言ったらよかったね」
シーナさんが特別だと思い込んでたよ。
「気にしなくてもいいわよ。こっちだって調査をしていなかったんだから」
取り合えず早速クランとして手分けしてこの森の街と試練の街にある武器屋と防具屋を回るというので俺は早々に彼らのオフィスを後にした。
俺が森の街から自宅のある開拓者の街に戻って庭で4体の従魔達と遊んでいると通話が来た。
「主、お電話なのです」
「うん、ありがとう」
遊んでいても電話があったことは忘れずに教えてくれるんだな。相手はクラリアだった。
「森の街にある防具屋と武器屋の1軒ずつで上級レベル10以上の防具と武器が売ってたの」
興奮した声で言うクラリア。詳しく聞くと情報クランのメンバー総出でこのエリアにある2つの街、試練の街と森の街の武器屋、防具屋を訪ねては自分たちのレベルを言った上で新しい武器や防具があるのかどうか聞いたらしい。
試練の街では全ての店でレベル85以上の商品しかないと言われたが、森の街で1軒の武器屋と1軒の防具屋でこちらのレベルを言うとそれなら上級レベルが10以上の商品があるよと奥から持ち出してきたのだと。シーナさんの店と同じだ。店頭には並べていないんだな。
「値段はかなり高いの。でも店の人が言っているのよ。武器は攻撃力や遠隔攻撃の威力が上がる。防具が素早さ、生命力が高くなるってね。盾も守備力が上がっていたり、後衛ジョブについてもローブも杖も魔法攻撃力がアップするのよ。まさかのまさかだったわ」
店の人によるとマイスターと呼ばれる上級の合成職人が作る武器や防具がそれに該当するらしい。V.UPに合わせてNPCの仕様も密かに変更していたみたいだ。公式には発表しないがこうやって少しずつ裏パッチをあててきているんだろう。
情報クランは金持ちだ。早速メンバーが武器や防具を買ったらしい。もちろんクラリアも短剣と防具を買い替えたのだという。ただね、と前置きしてから彼女が続けて言った。
「印章100枚と200枚のNM戦でも戦利品がドロップしたでしょう?武器屋と防具屋の人にその装備や武器を見せてこれと比較してどうなの?って聞いてみたらさ、店で売っている上級ジョブ10以上で装備できる武器や防具と印章100枚のNM戦で出た装備を比較すると、NMからドロップした装備の方が優秀だって。そしてね、200枚でドロップした装備は100枚でドロップした装備よりもずっと優秀な性能だと言われたの」
100枚の狼、200枚の虎NM戦のドロップ品は上級レベル10の制限はないがそれでも性能が上なんだ。200枚の方はかなり優秀なのか。どおりで印章NM戦の狼や虎が強いはずだよ。それが分かったからNMが強くなるV.UP前に連戦できりゃいいんだけど印章は貯まっていなかった。たまたまなのかも知らないが上手くできてる。
「スタンリーに話をしたら彼らもNM戦で手に入れた武器や防具以外にレベル10以上の装備を揃えるって」
翌日森の街に飛んだタイミングで俺のコテージにいつもの4人がやってきた。庭に来るなりマリアは早速タロウを撫で回している。それに対して尻尾をブンブンと振って喜んでいるタロウ。平常運転だな。
「いらっしゃいませなのです」
頭の上に乗っているリンネが挨拶をした。今は俺の頭の上に乗りたい気分らしい。
「いらっしゃい。どうしたんだい?」
庭にあるテーブルを勧めながら聞いた。4人が座るとスタンリーが口を開いた。
「タクの情報で俺たちも装備を一部更新したんだよ。ただ新しい装備に慣れる時間が必要だ。なのでNM戦を少し延期したいと思ってそのことを伝えに来たんだ。俺たちは装備に慣れながら上級12を目指す。タクは11あるいは12まで上げてくれないか?」
「分かった。こっちも新しい装備に慣れる必要があるなと思っていたところだったんだよ」
スタンリーらが12まであげる間に俺が最低でも11に上げれば良い。NEXTの経験値は10から11に上げる方が少ないだろうから11までは問題なさそうだ。レベル12まで上がればいいがそこまでは正直厳しいだろうな。
スタンリーらはこのままダンジョンで経験値稼ぎと印象集めをするという。クラリアらのパーティも同じくダンジョン攻略らしい。
俺はダンジョンではなくて森の街の北側でやるつもりだ。
「こっちはNM戦のタイミングについて希望はないからさ。スタンリーやクラリアのタイミングに合わせるよ」
「そうして貰えると助かる。それにしてもNM戦の前に上級レベルの武器や防具の上位版があると知ってよかったよ。これに慣れることでNM戦の勝率が少しでも上がるだろう」
スタンリーが話をしている横で3人もその通りだと頷いている。こちらのレベルが上がって強くなったことに加えて装備や防具の強化だ。蹂躙されることはなさそうだ。とは言っても俺が彼らの足を引っ張る可能性もある。従魔のスカーフのためにここは頑張らないとな。
装備に慣れてレベルが12になったら連絡するとい言って彼らはコテージから出ていった。彼らが出ていくとそばに来たタロウと頭の上に乗っているリンネに言う。
「聞いていただろう?これから森の街の外にでて敵をやっつけて経験値を稼ぐぞ」
「稼ぐのです。やってやるのです」
「ガウガウ」
よし、2体ともやる気満々でよろしい。
今までと同じく森の北側のレベルの高い敵がいる場所を狩場にして戦闘を開始した俺たち。新しい装束の効果が凄いんだよ。
シーナさんが素早さが上がると言っていたが完全に実感できる。以前よりもずっと早く動ける。素早さの腕輪HQに忍靴で素早さを上げていたが装束と袴ズボンを変えたことでさらに敏捷に動ける様になった。
格上の敵でも3つくらい上までなら結構避けてくれる。それに蝉があるので殆どダメージを喰らわない。それに加えて俺にはタロウとリンネがいる。
森の中でタロウが唸り声を上げるとまずは手裏剣を投げる。これも以前よりも早く飛んで命中する。ダメージも増えているのだろう。それから戦闘を開始するが危ない場面もなく順調に倒していった。この日と翌日1日を森に出向いた俺は上忍11までレベルアップした。もちろんタロウとリンネも同じだ。頑張って格上を倒しまくった甲斐があったよ。
「主、やったのです。また強くなったのです」
「ガウガウ」
従魔達も喜んでくれた。お前達も強くなったんだぞ。俺は2体の従魔をしっかりと撫でてから森の街に戻ってきた。
「予定通り上級レベル12になったよ」
夕刻に森の街のコテージでスタンリーらに会うと開口一番そう言ってきた。俺も11になったというとそれなら問題ないなと言う。後からやってきたクラリアらも12に上がっていた。新しい装備や武器にも十分に慣れたらしい。俺と同じでその効果が実感できるレベルだと言っている。
印章200枚のNM戦の準備が整った。
相談の結果最初のNM戦は攻略クランが主催し、2日後と決まった。そこから中1日開けて情報クランの主催でやることになった。