上級レベル10
メンテナンスとV.UPが終わった。いつも通りに開拓者の街の自宅にインした俺。早速従魔達が寄ってくる。V.UPがあったとしても自分の日常は変わらない。
「まずは畑の見回りなのです」
その通りだ。ルーティーンは変えてはいけない。従魔のスカーフをランとリーファに交互に巻きつけて畑の見回りと果樹園、そしてビニールハウスをチェックする。明日には収穫できそうだ。
その後はビニールハウスで従魔達としっかり遊ぶ。遊び終わったらようやく活動開始だ。ランとリーファに留守番を頼んだ俺は森の街に飛んだ。タロウとリンネと合流すると2体の従魔を前にして言う。
「今日は街の北側の森に行くぞ。敵が強くなってるのは知ってるだろう?油断するんじゃないぞ」
「ガウガウ」
「タロウは任せろと言っているのです。リンネも任せろなのです」
よしと俺たちは正門ではなく、最初に街に入ってきた西門から外にでた。釣りができる池まで土の道が続いているがその途中から右の森の中に入って5分程進むとタロウが低い唸り声を上げた。木の間からオークが現れた。右手に棍棒を持っている。
(フォレストオーク。上級レベル11です)
上級レベル11か。強いがタロウとリンネがいる。そう思って戦闘を始めると想像以上に相手が弱いというかこちらが強くなっているというか、さっくりとオークを倒した。
「よし!この調子でガンガンやるぞ」
「やるぞ、なのです」
「ガウガウ」
北の森の中の上級レベル11や12の魔獣、獣人を倒していると上忍がレベル8に上がった。タロウとリンネも8に上がって一段と戦闘が楽になった。森の中で持参していた食事をしながら夕刻まで狩りをした俺たち。上忍9にはならなかったが結構な経験値を得ることができた。うん、満足だよ。
森の街のコテージに戻ってくるとタロウとリンネを労ってやる。左手でウッドデッキに寝ているタロウの背中を撫で回し、右手は膝の上に乗っているリンネの背中を撫でる。2体とも尻尾をゆっくりと振っていた。
「タロウもリンネも今日は頑張ったな」
「ガウ」
「タロウもリンネも主のために頑張るのです。明日も今日行った森へ出向くのです?」
「いや、明日は釣りに行こうと思ってるんだよ」
そう言うと2体の尻尾の振りが少し早くなった。これは喜んでるな。
「お船は気持ちがいいのです。楽しみなのです」
レベル上げばかりじゃつまらないしな。
2体を撫でていると夕刻になってコテージに宿をとっているプレイヤー達が戻ってくるのが見える。しばらくするとトミーとクラリアがやってきた。
「こんにちは」
「ガウ」
「こんにちはなのです」」
挨拶をされたらきちんと挨拶を返す出来た従魔達だよ。俺は2人に軽く手を上げた。
「今日の活動は終わりかい?」
近づいてきたトミーが聞いてきたので北の森で1日レベル上げをして上忍8になったと言うとなるほどと頷く2人。情報クランは今日もダンジョン攻略をしていたらしい。
「フロアが広くて敵は強い。4階を攻略しているがフロアが地上と同じく森になっているので視界が良くない。なかなか前に進めないんだよ」
彼らは転移の腕輪を持っているからある程度は強気で行軍できるのかと思いきやなかなかそうはいかないらしい。
「4階になるとリンク必至なのよね。事故はしたくないから慎重になるのよ。経験値と印章はそこそこ集まるけど肝心の攻略がむずかしいのよ」
攻略クランも同じ4階を攻略しているらしいが、ゲームの仕様で同じフロアを攻略していても会うことはないらしい。
「おそらくパーティ毎に攻略フロアが割り当てられるみたいなの。だから助けも呼べなくなってるのよ」
「それはきついな」
情報クランは転移の腕輪で戻ってきたがそれを持っていない攻略クランの連中は戻ってくるのがもう少し遅くなるだろうと言うことだ。転移の腕輪の話になったところでマリアから200枚の印章NM戦のヘルプを頼まれているんだよと言った。
「当然俺たちも考えている。あっちと同じで従魔のスカーフがタク持ちなら参加してくれるかい?」
「もちろん。従魔は4体いるからね。俺も印章を貯めないといけないな」
トミーによると攻略クランとの話の中で、次回からはクラン毎に挑戦しようかという案も出ていたが、V.UP後のNMのレベルを考えると協力した方が勝率が上がるだろうという話になったらしい。
「どっちの場合もタクと従魔は最初から数に入っているんだけどね」
情報クランはすでに転移の腕輪を持っているがあれはいくつあっても困らないというのとそれ以外の装備も戦力アップには必要なので何度も200枚の虎NMに挑戦するつもりらしい。
「主に任せるのです。主とタロウとリンネがいれば安心なのです」
やりとりを聞いていたリンネが言った。確かに200枚の虎相手だと従魔がいないとかなりきついだろう。タロウの王者の威圧とリンネのレジストされない精霊魔法は必須だ。それと多分俺の蝉も。
「リンネの言う通りだ。200枚のあの虎のNMはタロウとリンネとタクがいないと相当きつい戦いになるからな」
トミーがそう言うとタロウもリンネも尻尾をブンブンと振り回す。
「主は負けないのです。だから問題ないのです」
「たのむわよ。ヘルプの報酬が従魔のスカーフだと思ってくれていいわ」
「分かった。それまでにもう少しレベルを上げておくよ」
コテージで話をしていると攻略クランの連中が森の街に戻ってきてマリアとスタンリーが俺のコテージにやってきた。2人ともぐったりした表情だ。聞くとダンジョンの敵はもちろん強いがそれ以上に移動手段がないのが辛いのだという。
「転移の腕輪がないときついな。出来るだけ早い時期に手に入れたい」
「タクは上級レベルいくつなの?」
「上級8になったよ」
2人にきかれてそう答える俺。
俺以外の4人は皆上級11らしい。NMは挑戦者の中で最高レベルのプレイヤーをベースにその強さを調整するらしいので、NM戦に勝利するために彼らはしばらく強い敵ではなく印章が手に入るぎりぎりの弱さの敵、具体的には試練の街の周辺の敵を倒して印章集めをするのでその間に上級9、できれば10まで上げてくれないかと頼まれた。
「主、ここは受けるのです。強くなるのが一番なのです」
「ガウガウ」
戦闘好きのお前達ならそう言うよな。でも俺自身のレベルを上げることがNM戦での処理の確率が上がるのは間違いない。俺は4人に分かったというとタロウとリンネを見て言う。
「お前達も聞いただろう?虎のNM戦のために俺たちは強くならないといけない。なので明日の釣りは中止だ。今日と同じ北の森で敵を倒しまくるぞ」
「ガウガウ」
「分かったのです。敵をぶっ倒して片っ端から蹴散らしてやるのです」
おいおい物騒だな。そんな言葉を一体どこで覚えるんだよ。
リンネの言葉に4人から期待しているわよと言われて尻尾を振って応えてるリンネとタロウ。ここまでやる気になってくれているのなら俺だって手を抜けないぞ。
翌日から3日間、毎日森の街の北側で敵を倒して経験値を稼いだ俺たちは上級レベルが9になった。ただもう少し頑張ると10になりそうだと言うといつもの4人はそれまで待つと言う。ということでそれからさらに2日かけて俺達は上級レベル10になった。
流石に疲れたよ。インして自宅の畑を見てからすぐに森の街に飛んでそれから夕方までひたすらに森の中で敵を倒しまくっていたからな。ここまで戦闘漬けになったのは久しぶりだよ。最近のんびりしていた俺にはきついわ。タロウとリンネは相変わらず元気だけどな。
ただ根を詰めた甲斐があり無事に上級レベル10になった。印章も溜まって全部で50枚程になった。
情報クランのオフィスになっているコテージでレベルの報告をするとクラリアとトミーからご苦労さんと言われた。いや、本当にここ数日は頑張ったと自分でも思う。情報クランも攻略クランもパーティ単位で200枚近く印章が貯まっているということで俺の50枚を使えばどちらも200枚を越える計算らしい。こっちは印章を他に使う予定がないし印章を出さずに従魔のスカーフをもらうってのも気が引けるからぜひ使ってくれと言っておいた。
NM戦の日時については攻略クランと相談してまた連絡をくれるらしい。タロウの王者の威圧は戦闘中ずっと有効だがリキャストが24時間なので連続して戦えない。彼らはその事情を知っているので戦闘の日時を攻略クランと調整するんだと言っていた。
V.UP後のNM戦、勝てるのかどうか、NMの強さがどこまで強くなっているのか分からないが負けたらまた印章を貯めて挑戦すれば良いだけの話。まあ蝉も4枚に増えているしタロウとリンネも強くなってる。なんとかなりそうな気がするよ。




