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森の街


 それまではどちらかと言えばのんびりと船に乗って川下りを楽しんでいたメンバー達だったが川にかかっている橋を見た瞬間に全員の表情が変わった。


 川に3隻の船が横に並んでいる。周囲を見ると左右ともに森が川まで来ていて接岸できそうな場所は見当たらない。スタンリーの言葉でゆっくりと進み出した俺たちは橋の下を潜って先に出た。川は橋の前方で大きく右に蛇行していて先が見えない。川幅も広くなっている。


「あそこに接岸できそうよ」


 川の左舷を見ていた情報クランのメンバーが腕を伸ばして声を出した。橋の下をくぐってすぐ、20メートルほど行った左手の場所だ。顔をそちらに向けると少しだけ石の河原になっているところがある。今まで休憩をとった河原よりはずっと小さいが一隻ずつ順に接岸すればいけそうだ。


 最初に攻略クランの船が接岸し、船を収納するとすぐに5人で周囲を警戒する。その中を情報クラン、そして最後に俺の船が河原に接岸して全員が船から降りた。タロウが早速周囲を見渡すがタロウのアンテナには何も引っかからない。


 森の方を警戒していたメンバーもタロウが唸り声を出さない様子を見て緊張が解けた表情になった。


「頑丈な橋ね。当然だけど人工物よ」


 船から降りて振り返って橋を見上げているクラリアが言った。


 全員が降りるとこれからの行動について打ち合わせをする。と言っても方針を決めるのは情報クランと攻略クランの連中で俺はやりとりを黙って聞いてるだけなんだけど。


 橋があるということはその両端からは道が伸びているということだ。タロウを先頭にして森の中を抜けてまずは橋まで行ってみようということになった。


「タロウ、頼むぞ」


「リンネも警戒するのです」


「もちろんだ。リンネも頑張ってくれよな」


 タロウとその背に乗っているリンネを先頭にしてその後ろに俺、それから情報クラン、攻略クランと続いて森の中に入ってすぐ左手に見える斜面を登ると木々の間から土の道が見えた。道幅は6メートルはあるだろう。山道の様に狭くないので魔獣と遭遇しても問題なく路上で戦闘ができそうだ。


 道路に出て左右を見ると左手にはさっきその下を潜ってきた木の橋が見えている。その先に伸びている土の道は100メートル程先で左にカーブしていてそこから先は見えない。右手を見ると土の道がこちらは50メートル程先で右にカーブしていてこちらもそこから先は見ることができない。


 どっちに行けばいいんだろうと思っているととりあえず右に行ってみようかとスタンリーが言った。


「誰もどっちが正解なんて知らないんだからな」


 そりゃそうだ。ここもタロウを先頭にして道路を歩き始めたが、タロウが一向に警戒モードにならない。道の左右は森になっていて魔獣が徘徊しているはずなんだが静かで自分たちが土の道の上を歩く音以外の物音がほとんどしない。


 右にカーブをしている地点から先を見ると前方に大きな池が見えてきた。道は100メートル程先にある池の方に向かって伸びている。その道の先、終点には柵に囲まれた場所の中に平屋の小屋が見えていた。小屋と言っても結構大きい。


「何かしら」


 とりあえず道を進んでいくと、柵は高さが1メートルちょっとで頑丈にできている。扉があるが押すとあっさりと開いた。全員が柵の中に入る。


「主、ここは元気になる場所なのです」


 タロウの背中に乗って柵の中にはいるとリンネが言った。ここはセーフゾーンなのか。セーフゾーンは魔獣が襲ってこないので全員の緊張が解ける。


 トミーが小屋の扉を開けて中を覗き込んでから顔を外に出した。


「釣具が置いてある。ここは釣り小屋みたいだぞ」


「近くに街か村があって、そこの住人達がこの池で釣りをしている。そういうことね」


 クラリアが自分の推測を言うと全員、もちろん俺も頷いた。そうとしか考えられない状況だ。俺も小屋の中をのぞいてみたが広い小屋の隅や壁には綺麗に竿やバケツや魚網などが片付けられて置かれていた。その奥にはドアがあり、そこを出ると池に向かって木の板で組まれた桟橋が伸びていてその桟橋には木製の船が2隻ロープで繋がれているのが見える。俺たちの船よりも小さいサイズだ。あれだとせいぜい2人乗りかな。


 あの船に乗って池に釣りに出掛けているのだろう。間違いないな。人がいる街か村が近くにある。


 釣り小屋があるこの柵の中がセーフゾーンでもあるしここでしっかり休憩してから道を戻って、橋の向こう側に行くことになった。


「タクが作ってくれた船があったからここまで来られているけど、そうじゃなければ簡単じゃないぞ。森の中のどこかにあるセーフゾーンを探さないと1日では来られないだろう」


 セーフゾーンはここ以外にも森の中のどこかにあると言うのが攻略クランの見立てだ。そうでないと奥への探索が進まない。実際に森の中を攻略しながら進んでいた彼らの感覚ではここのセーフゾーンに来るまでに最低での2つのセーフゾーンがあるはずだと言う。


「俺たちはまだ見つける事ができていないが、2つはないとここまで来られない。来る時も戦闘をしたがあのレベルの敵が森の中にいるのにその場で野営をするなんてのは自殺行為だよ」


 船小屋のあるセーフゾーンでしっかりと休んで体力を回復すると俺とタロウを先頭にして今度は来た道を戻りながら橋の向こう側を目指して歩き出す。相変わらずタロウが唸り声を上げない。


「タロウもおとなしいがリンネも何も感じないか?」


 俺は目線を上にして、頭の上に乗っているリンネに聞いた。


「敵の気配がないのです。いいお天気なのです」


 タロウ程ではないがリンネも九尾狐で気配感知の能力がある。2体の従魔が大人しくしている中、橋を越えて道なりに進んで左に曲がるとその先に門が見えた。全員が歓声を上げた。


 街だ。


 見る限り頑丈な木の柵が左右に伸びていている。開いている門から見える街の中は奥が見えない。森の中にあるが広そうな街だ。タロウはガウガウと声を出し、リンネはタロウの背中の上でミーアキャットポーズになって街の方を見ている。


「やっと次の街を見つけたな」


 門を見ながらスタンリーが呟いている。


 俺と従魔が後ろに下がってクラリアとスタンリーが出て彼らを先頭にして街の中に入って行った。この街も試練の街と同じく従魔達もそのまま街の中に入れる。よかったよ。


「おや、プレイヤーさん達ね。森の街にようこそ」


 街に入っていくと近くにいたNPCが声をかけてきた。エルフだ。


「森の街って言うのね」


「そうよ、この街は周囲を森に囲まれているでしょう?」


 彼女から冒険者ギルドの場所を聞いた俺たちは門から冒険者ギルドに歩いていくが、他の街と違って門の近くにはない。


「私たちが入ってきた門は正門じゃないのかもね」


 通りを歩きながらクラリアが言った。大きな通りが交わっている交差点を右に曲がって進むとその通りの先に俺たちが入ってきた門よりも立派な門が見えてきた。そしてその門の近くに目指す冒険者ギルドがあった。中に入って奥の部屋にある転送盤を登録する。これでまた移動が楽になる。


 全員が転送盤を登録し終えると冒険者ギルドのロビーに集まった。


「無事に新しい街に着くことができた。これで一旦解散しよう」


 スタンリーの言葉で解散、と言っても実際には情報クランと攻略クラン、そして俺たちの3つのパーティがそれぞれ別行動をするということだ。


「タクはテイマーギルドかい?」


「先ずはテイマーギルドだね。試練の街の様な別宅があるのかどうかも確認しないと」


 そばに来たトミーと話をしているとそのあたりの情報があれば教えてくれと頼まれた。情報クランも攻略クランもメンバーの1人が転送盤で試練の街に戻って再び船でメンバーを運んでくる。その間に他の4人でこの街でオフィスを借りられるかどうかも含めて街の調査にはいるのだという。


 冒険者ギルドの受付に聞くと地図作成クエストがあるというのでそれを受けてギルドを出ると市内を歩いてマップを作成しながら街の中の様子を見る。


 試練の街ほどじゃないが森の街も結構広い。山裾の街くらいの広さはありそうだ。そして何よりもこの街の特徴は森の街というだけありほとんどの建物が木でできている。しっかりと木を組んで作られた建物が通りに沿って綺麗に並んでいる。高さも揃っていて見ているだけで感動するよ。


 街の中を歩いているNPCを見るとエルフの比率が高い。森の中ということでそうなっているのかな?今のところ、街を見ている限りだと、エルフが3割、残りの7割が人族、ドワーフ、猫人、狼人がそれぞれ均等にいる感じだ。


 大通りをまっすぐに奥に向かって歩いていると隣を歩いているタロウの耳がピンと立った。ん?どうした?


「主、水が流れている音がするのです」


 リンネの言葉に思わず立ち止まったが俺には街の喧騒以外何も聞こえない。


「タロウとリンネには水が流れている音が聞こえるのです。川があるのです。行ってみるのです」


 従魔が言う方向に歩いていく。通りの交差点を左に曲がり、2つ目の通りの交差点を右にまわると正面に桟橋が見えてきた。タロウとリンネの言った通りだ。近づいていくとNPCが2人そこに立っていた。川幅が広くなっている場所に作ってある木の桟橋は河岸に沿う様に左右に長く伸びていた。河川港というのかな。立派な桟橋だよ。川幅も今までよりもずっと広くなっていた。100メートル近くはあるんじゃないか。


「こんにちは。ここは桟橋なのかな?」


「その通り、川を上ってきたり、下ってきたりした船が着く桟橋だよ」


 2人のNPCのうち人族のおっちゃんが教えてくれた。もう1人のおっちゃんは狼人だ。上ってきたりか。この下流にも街があるってことだな。


「えっと、俺たちプレイヤーの船を着けても大丈夫?」


「ああ。問題ないな。今は下流から船が来ないから桟橋の好きな場所に着けてくれて構わないぞ」


「ありがとう」


 下流から船が来ない理由は何かあるの?と聞いてみたがさぁなと惚けられたよ。こっちのレベルが足りないか、あるいはキーワードか何かを入手していないからなのか、まだ教えてくれない様だ。


 とりあえずこの情報はクラリアに言った方がいいだろう。その場から電話をするとそう時間をたたずに情報クランのメンバー4人がやってきた。皆立派な桟橋だなと言っている。


「俺たちが橋を潜って降りた場所から川が蛇行していただろう。あのまま進んでいたらこの桟橋に着いたみたいだ」


「なるほど。じゃあ船で来たら次からはここに着けられるのね」


「大きな桟橋だ。おそらく他の街との取引に使っているという設定になっているのだろう」


 桟橋を見ながらそんな話をしている2人。俺がNPCの言葉を伝えると2人がなるほどと頷いた。


「この川の下流にまた別の街があるのは決まりね。ただそこから船が来ないのは何か理由があるってことなのね」


「そう言っている。ただ船が来ない理由がこの街にあるのか、次の街にあるのかは分からないんだけどね」



 俺たちはしばらく桟橋に立って流れる川を見ていた。


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