従魔のスカーフ
この日はインするとまずは従魔達を呼んだ。タロウ、リンネ、そして木の枝に座っていたランとリーファも飛んできて俺の肩の上に乗った。4体の従魔が集まったところで端末の収納から真っ青なスカーフを取り出して彼らに見せる。
「これは従魔のスカーフだ。身につけると従魔の能力が上がるらしい。俺は考えたんだけど自宅にいる時はランとリーファに身につけてもらう。種を蒔く時はラン。水やりの時はリーファにしようと思うんだけどどうかな?」
俺の肩の上で羽をパタパタと動かしていたランとリーファは肩から飛ぶと俺の前の空中で止まってサムズアップをしてきた。
「ランとリーファもそれで良いと言っているのです。タロウもリンネも問題ないのです」
よし、OKだな。
「自宅から外に出るときはタロウかリンネのどちらかだな。これは街の外で検証しよう」
「分かったのです。やってみるのです」
「ガウガウ」
リンネはそう言ってくれるし、タロウも嬉しそうに吠えてくれる。4体の従魔達の了解は取り付けたぞ。TPOで使い分けしないと。なんと言っても1つしかないからな。
この日は丁度収穫の日だった。俺は早速従魔のスカーフをランの首に巻いた。ゲームなので巻かれる従魔に合わせてスカーフの大きさが変化するので問題ない。スカーフを巻いたランは大喜びでリーファと空中で歓喜の舞を踊っていた。久しぶりに見たけど、これ好きなんだよな。
タロウの背中に左右に収穫用の籠が付いている鞍をつけて畑を歩きながら野菜を収穫してく。これは俺の仕事だ。俺が先頭を歩いて後ろにタロウが続く。リンネとラン、リーファはタロウの背中に乗っていて、俺が野菜を収穫するとランがステッキを土に向かって振ってくれる。
畑が終わると次は果樹園だ。ここでスカーフをランからリーファに付け替える。畑と同じ様に俺が果実を収穫すると、タロウの背中に乗っているリンネが魔法で木々に水をやり、最後にリーファが収穫したりんごと梨の木にステッキを振ってくれる。最後はイチゴのビニールハウスだ。ここでも同様に収穫を終えるとリンネが水やりをしてリーファがステッキを振る。
従魔に留守番を頼んで開拓者の街にある農業ギルドで収穫した野菜と果物を買い取ってもらい、次の種を買ったおれが自宅に戻ると。再びスカーフをランの首に巻いた。野菜の種を蒔いた後からタロウに乗っているランが地面にステッキを降りながら続く。
「うん。これでばっちりだな」
「バッチリなのです」
「ガウガウ」
畑仕事が終わって縁側に戻るとお礼を言ってランの首からスカーフをとった。2体の妖精はすぐにいつもの精霊の木の枝の上にちょこんと座り、羽根をゆっくりと動かしてリラックスする。
行ってくるよと妖精に留守番を頼んで俺たちは試練の街の別宅経由で東門から街の外に出た。今日は船には乗らないで川沿いを進みながらタロウとリンネにスカーフを装備してその変化を見るのが目的だ。
門の外に出るとまずはリンネの首にスカーフを巻いた。白い体毛に鮮やかな青色のスカーフが似合っている。
「似合ってるぞ」
「やったー!なのです」
7本の尻尾をブンブンと振り回して喜んでいるリンネ。
タロウに乗って川沿いから森の入り口まで移動すると、森に入る前にリンネが強化魔法、バフをかけてくれた。気のせいかいつもより強いバフがかかっている気がする。森に入るとタロウが低い唸り声を出した。丁度良い相手、トレントだ。
「リンネ、頼むぞ」
「任せるのです」
俺とタロウが見ている中、四つ足で踏ん張って体を震わせたリンネから精霊魔法が飛び出したかと思うとトレントに命中し、木が爆散する。かなりの威力になってるな。
「リンネ、すごいな」
「任せるのです。これくらい朝飯前なのです」
いや。リンネの実力もあるけどスカーフの威力もあるんだぞ。その後はスカーフを外してトレントに精霊魔法をぶつけるリンネを見て比較をする。感覚的にだけど2割増くらい威力が上がっていそうだ。これは使えるぞ。
次はタロウだ。最初はスカーフ無しで攻撃させてみた。威圧などのスキルは使わずに戦闘させる。相手が格下というのもあるが全く危なげない。
「タロウ、本気出してくれるか」
「ガウ」
タロウが本気を出すとトレントの蔓をスイスイと躱して襲いかかってトレントを倒した。次にスカーフを巻いて同じ様に攻撃させる。動きが全然違う。さっきも軽かったが今はそれ以上だ。まるで蔓なんて存在していないかの様にガンガン本体に蹴りや前足の攻撃をしてあっという間にトレントを倒した。
「タロウもすごいな」
「ガウガウ」
どうだと言わんばかりの声だ。
従魔のスカーフの効果は想像以上だった。タロウもリンネも見違える様に攻撃力や魔法の威力がアップしている。これは悩むな。タロウかリンネか。
その後俺たちは森の奥に進んで行き、蜂を倒し、狼を倒して虎のゾーンまで進んでいきながらスカーフをタロウとリンネに巻いてはその威力の差を検証していった。こっちのレベルが上がったこともあり虎が出てきても全く危なげがない。
その日の夕方、森の奥から自宅に戻ってきた俺はタロウとリンネをそばに呼んで言った。
「俺たちは普段タロウとリンネのメンバーで活動している。その時に敵と対峙しているのは俺とタロウだ。リンネは後ろで頑張ってくれている。強い敵と対峙しているタロウが強くなるとリンネも俺も今まで以上に楽になる。ということで普段はタロウにこのスカーフを装備してもらおうと思う。もちろん時にはリンネの魔法に頼ることもある。その時はリンネだ。これでいいか?」
「ガウガウ」
「それで問題ないのです。主が決めることに間違いはないのです。リンネもタロウも主のためにこれからも頑張るのです」
タロウは異論がなさそうだ。尻尾を振り回しながら元気に吠えてくれた。俺はスカーフをタロウの首に巻いた。リンネも尻尾をブンブンと振っている。
その後は自宅の縁側に上がって隣に寄ってきたタロウを撫でまわし、膝の間に座ったリンネを撫で回す。ランとリーファもやってきたので彼らもしっかりと撫でてやる。
印章がまた200枚貯まったら従魔のスカーフ狙いで印章NM戦に再挑戦しよう。
真っ青なスカーフを巻いたタロウは試練の街ですぐに有名になった。そうでなくても1体しかいないフェンリルで普段から注目を浴びているタロウ(とリンネ)。そのタロウが大きな体の首にスカーフを巻いていると目立つ。
「皆タロウに注目しているのです。リンネは鼻高々なのです」
「なんでリンネが鼻高々なんだよ?」
「主の従魔が注目されるのはリンネもタロウも嬉しいのです」
「俺はあんまり注目されたくないんだよ」
俺の頭の上に乗っているリンネとそんな話をしながら通りを歩いて情報クランのオフィスに顔を出した。
「スカーフはフェンリルのタロウにしたのね」
部屋にはタロウとリンネもいる。部屋に入ってきたクラリアとトミー。タロウの首元を見てクラリアが言った。
「敵と真正面から対峙するタロウの能力が上がる方が良いかなと思ってね。もちろんケースバイケースでリンネが装備することもある」
「その時は任せるのです」
俺の膝の上に乗っているリンネが言った。トミーもタロウが普段装備している方が良いだろうなと言う。
「警戒、威圧、タロウの能力がアップすればそれだけ事故の確率が減るだろう。ソロで動く時にはタロウでいいんじゃないか」
情報クランのトップが俺と同じ考えをしていると分かって少し安心したよ。その後はNM戦でゲットした装備や武器の情報を聞いた。転移の腕輪の便利さに感動したというクラリア。パーティメンバー全員が飛べるので今まで以上に探索の範囲が広がりそうだという。トミーは大剣を使ってみてその攻撃力の高さに驚いたらしい。アーマーや重装の盾も同じ様に今までのよりもずっと性能が良いらしい。
「上級ジョブの専用の武器や防具は今までのと比べてずっと上のものばかりだ。これで強くなるが逆に言えば敵のレベルも上がるということだろう。NM戦も終わったので攻略クランとも協力しながらエリア開拓、探索をするつもりだよ」
タクはどうするのかと聞かれたので釣り、農業、そして時々探索だよと答える。実際その通りだし。クラリアがタクはマイペースの方が色々と見つけてくれそうよねと言うがそんなにしょっちゅう見つけられないだろう。
「そう言いながらも何かしら見つけてくるんだよな」
「そうなのよね。期待しているわよ」
二人がそう言うったタイミングでリンネが言った。
「主にできない事はないのです。一番なのです。だから期待して良いのです」