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#三日月:人気配信者は伝統の因習に強いられた束縛と訣別し、いつも心を照らす愛おしい幼なじみと一緒に始動する新しいプロジェクトに、ハッシュタグを追加します

 指紋認証で開く扉。3枚の巨大なディスプレイにアラート表示が次々ポップアップ。


 ――カネの流れ、完璧。あとはルーティンで行けちゃう。今日はマイルドでラッキー。次は、#KatouKoh(ハッシュ、カトウコー)新プロジェクト仕上げ。


 一息ついて、広々としたピクチャーウィンドウに目を向ける。数日続いた雨は上がった。藍色の空に細い月が輝いている。

 

 ――あっちの「新案件」アラート、大丈夫かな?

 

 自宅の壁は厚く、今は音が聞こえない。


 先ほど、別室にいた孝太(こうた)は、「新案件」対処への参加を貞子(ていこ)に止められた。

 

Our (おれたちの)New Alert(あたらしいアラート)

 そう抗議しても、彼女はニヤリと笑うだけで、手際のよい対処の手は止めない。慣れない、しかし愛しい匂いが部屋に漂っていた。

「うん。でも、今はわたしが対応。Koh(コー)はオフィスのアラート対応を」


 ――大丈夫さ。Tei(テイ)は最高。


 孝太と貞子は伝統芸能華踏(かとう)新月流継承者の道を歩む運命に生まれた。幼児期から先達の厳しい指導に従い、期待と伝統の重みを背負った。孝太と貞子は共に叱責に耐え実力をつけていった。しかし、孝太は鍛錬の合間、秘かに英語とプログラミングの学習に没頭した。IT学習サイトで頭角を現し、各国のプロジェクトに誘われ、型落ちのタブレットを使い実績を重ねた。


 中学二年生の文化祭の後、サイトの仲間を頼り故郷を離れた。成人前に動画配信プラットフォームを立ち上げ、自ら経営者となる。

 華踏を描いた視覚芸術と和風ビートのEDMを背景に、演者がダイナミックに動く綜合芸術#KatouKohは経営者自ら主宰する高収益のコンテンツだ。貞子が担当する視覚芸術が魅力を添えている。


 新進気鋭の演者貞子を家元の後妻とする理不尽な決定を知ったとき、すぐ故郷へ迎えに行く力を持てた自分をKohは誇らしく思っている。


 新月のころからの雨が止み、晴れた空に三日月が輝く今夜、Teiの視覚芸術新作発表を予告した。殺到するオープンチャットに久々の新作への喜びと祝いが混じる。新作のモチーフは文化祭での華踏。その直後、孝太は新しい世界に旅立った。文通で貞子が同封した華踏をテーマとした無数のスケッチは今の視覚芸術に発展した。


 ――Tei、Baby、俺の心の光。

 

 紹介文の最後に特別なハッシュタグを打ち込む。


 #BabyArrival| #こどもがきてくれた #OurFamilyTraditionGrows #家族の伝統は育つ #OurNewLifeStarts #新しい生活が始まる

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