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#009 黒獣 その2

 バクンッ!


 俺はボロ布の紙付きを紙一重で避け、思いっきり後方に退いた。

 しかしボロ布は自分の顔を更に伸ばして追撃してくる。


「なんッ……なんだよ、テメェ!」


 ドゴッ!


 ボロ布から完全に飛び出た男の顔を殴り飛ばして、攻撃を回避する。

 

「ひゃい!?」


 パンチを食らって地面にぶっ倒れた男が、俺の目の前でピクリとも動かなくなった。


「死んだか……?」


 だが手応えがない。

 生きていると想定し、警戒しながら男に近づく。


 念の為もう一発ブン殴っておくかと、拳に魔力を込めた瞬間、


「がぁぁぁ!」


 ダッ!


 咆哮を上げながら、寝たままの体制で空中に跳躍する男。

 そのまま男は自在に伸びる手足を使って、空中から俺に攻撃を仕掛けてくる。


 しかしそこまでのスピードはないようだ。


「すっとろいな……」


 ガシッ!


 目の前に迫ってくる男の腕を楽々と掴み、ガッチリとホールドする。

 そして体を回転させ、ハンマー投げのように男の全身をブン回した。


「あばっ! ばばばばっ!」


 遠心力をモロに食らって、両手両足をバンザイしながら、苦しそうな声を上げる男。


「ふんっ!」


 近くに生えてた木の幹に向かって放り投げると、男の体は背中から激突する。

 元の長さに戻った手で、痛そうに背中を押さえる男に近づき、声をかけた。


「人間とも魔族とも違う雰囲気だが、マジにテメェ何者だ?」

「ひっ、ひぃぃぃ! なんで! なんでこんなに痛いんだぁ!」


 逃げようとする男の髪を掴み、話を続ける。


「……テメェが黒い魂を持つ魔族、って奴なのか?」


 俺の言葉を聞いて、明らかに態度が変わった男。


「お前……そうか、だからお前の攻撃が俺に効いて……」


 怯えているようで、怒りに満ちた威圧感のある男の声。

 

「お前、魔王の仲間だな? 俺を騙してたんだな!」

「テメェ! 何でアリシアのことを知ってやがる!」


 お互いに言葉を捲し立てると、突如として感じる身震いするような悪寒。


「!?」


 男の全身から殺気にも似た何かが溢れ出してきた。

 それは黒く、暗く……男の全身を巡る、閃光のようなドス黒い魔力だった。


「俺は、食う……人間も、魔王でさえも! 俺は絶対に生き残ってやるんだ!」


 今までにない必死の形相で、溢れんばかりの魔力を纏いながら男が俺に襲いかかってくる。


 ブチブチブチブチ


 俺に握られた髪がちぎれ、頭皮が剥がれようとも構わず突進してくる男。

 そいつの目を真っ直ぐ見ながら、俺が言った。


「何だよ……お前、アリシアの”敵”か」


 ドゴッ!


「なら、これ以上話す意味はねぇな」


 俺が渾身の魔力を込めた拳で男のボディをブン殴ると、ふらつく男。


「黒い獣を見つけたら、殺さないで連れて帰れとアリシアから頼まれている」

 

 気絶しそうに倒れる男の顔面に、間髪入れず蹴りを叩き込んだ。

 低空に打ち上がった男の体に、容赦無く拳と蹴りの連撃を叩き込む俺。


「だが、半殺しにするくらいなら何も問題はねぇよな?」


 バギッ!


 男の頭部を掴んだまま、全力で地面に向かって顔面を叩きつけてやった。

 大量の鼻血を垂らしながら、地面とキスしたままピクピク震える男。


 しかしその眼差しだけは、未だ戦意を失わず俺の顔を睨みつけている。


「おいおい、まだ意識があるのかよ。タフだな、テメェ……」


 若干呆れ気味に拳を構える俺。


「これが黒い魂の特別な力ってやつなのか?」


 正直、俺は黒い何ちゃらについてそこまで詳しく知っているわけじゃない。

 出会ったのもこれが初めてだ。


 だというのに嫌でも伝わってくるような、この”違和感”はなんだ?

 

「……違う。いや、違わない……そうか、そうなのか……」


 死にかけの声で、しかし笑いながら男が言う。

 まったく気味の悪い相手だ。


 攻撃力じゃ俺の方が遥かに上回っている。

 まるで負ける気がしないが、男も一向に倒されてくれる気配がしない。

 

 タフネスだけが以上に高いんだ。

 睨みつける俺の顔を見返しながら、男が続ける。


「俺もお前も、一緒なんだ……早く気づけよ、マヌケ……」

「あっ?」


 意味の分からないことを言う男に、キレ気味で言葉を返す俺。


「どういうことだよ、それ」

「俺たちなんざ所詮、使い捨ての……」


 男が言葉を出しかけた、その瞬間──


 ザンッ!


 ──鋼の一閃が俺の眼前を通り抜け、男の首が綺麗に切断されていた。


 血を吹き出し、地面に倒れる男の体。

 その背後から剣を握る女の姿が明らかとなった。


「穢らわしい、”魔族”の血で私の剣を汚すな」


 静かで殺意に満ちた声で喋るのは、俺より身長が低いであろう小柄な少女。

 しかしその服装を見て、俺は絶句した。

 

「陸軍の、軍服……」


 軍帽を深く被り、上下キチッとシワ一つない紺色の軍服を着こなす少女。

 間違いない、この少女はシャロア帝国陸軍の人間だ。


 少女の姿を確認して、思わず警戒の姿勢を取る俺。

 

 何でこんなところに陸軍が?

 いや、街の復興に呼んだ援軍なのか?


 だとしても、到着が予定より早すぎる……


「アンタ、俺を助けてくれたのか?」


 頭の中でいくつかの”最悪の可能性”がグルグルと巡る中、何とか言葉をヒリ出す俺。


「よかった。変な化け物に襲われてピンチだったんだよ。兵士さんがやっつけてくれて助かった、礼を言わせてくれ」

「……妙だな」


 剣に付着した血液を払い、鞘に収めながら少女が言う。


「”陸軍の英雄”様が苦戦するような相手には見えないが?」

「なんだ、俺のこと知ってんのかよ……」


 猿芝居は無意味と判断し、敵意全開で続ける俺。


「じゃ、目的はどっちだ? ”親父”の差金か、それとも……」

「そうだな、まずは感謝を告げるべきだろう」


 言って、いきなり深く頭を下げてお辞儀する少女。


「魔族に襲われた街を救っていただいたこと、軍を代表しこの場で礼を言わせてもらう」

「こ、これは……ご丁寧に、どうも……」


 こちらも軽く会釈をするつもりで気を緩めた、刹那──


 ガキンッ!


 凄まじい速度で剣を抜刀するのと同時に、少女が俺に切りかかってきた。

 これを魔力で強化した腕で防ぎ、鈍い金属音と火花が散る。


「なんだ結局敵かよテメェ!」

「当然、それとこれとは話が別だ」


 明確な殺意を持って、俺に対し剣を振るう少女。


 誰の差金か知らないが、人間の軍隊はアリシアにとって害でしかない。

 だったら微塵も遠慮はいらないはずだ。


「俺たちの邪魔をする奴は、誰だろうとブッ飛してやるよ!

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