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#008 黒獣 その1

 振り下ろす刃に意思はなく

 ただ身を任せ切り伏すのみ


 貴方がそれを望むなら

 私は刃に成り果てよう

 

 ──────────────────


 魔族の襲撃を退けてから一晩が経った。


 街の有様は散々なもので、復興には時間も人員も資材も何もかもが足りない。

 なので軍に応援を要請したようだが、到着まで数日はかかるらしい。


 そこで俺たちの出番だ。

 まだ近場でやることが残っている俺たちは、この街にいた方が都合が良い。


 だから居付かせてもらう代わりに、街の復興を手伝うことになった。

 といっても魔族の俺たちにとっては、街の復興なんて簡単なもので……


「木、ここら辺に置いときますよー」


 切り落としたばかりの木を丸々三本、楽々と担いで運ぶ俺。

 建築の資材に必要な木を、近くの森で伐採して街に運び入れている最中だ。


「ありがとー! いやぁ、やっぱ兄ちゃん運ぶのが早いな!」


 木を加工している職人さんが俺に礼を言ってくれる。


「しかも一気に三本とか、どんだけ力持ちなんだよ!」

「いや〜、それほどでも」


 などと褒められたことに調子づいてカッコつけていると、


「ライアー、余も持ってきたぞー!」


 アリシアが片手に三本、合計六本の木材を運んで走ってきた。


「うお、こいつはすげぇな!」


 運び込まれた木材の量を見て驚愕する職人さんたち。


「嬢ちゃんありがとうな! 小さいのに偉いこった!」

「当然だ! 何故なら余は魔王なのだからな!」


 あっさり口を滑らせるアリシアだったが、職人さんたちは冗談と聞き流している。


 その横で、建築の手伝いをしているグロリアさんの姿が見えた。


 伐採したばかりで、加工されていない剥き出しの木材をグロリアさんが女心は小宇宙(コスモスペース)の空間に送り込むと、中から加工の完了した木材のパーツが排出された。


「グロリアさんアンタ、凄いんだなぁ……」


 加工された木材を受け取る職人さん。


「加工の仕方を一回教えただけなのに、魔術を使ってこうもあっさり……」

「いえいえ、皆様の教え方が丁寧で分かりやすかったおかげですよ」


 グロリアさんのニッコリ笑顔に、鼻の下を伸ばして照れる職人のおっさんたち。


「……こうしちゃいられねぇな」


 グロリアさんみたいに特別な魔術も扱えない俺は、アリシアより更に多くの木材を運んでやろうと意気込んでいた。


「あんまり比較したくないけど、あの二人と比べたら俺はまだまだだな」


 すぐさま行動に移そうと、森へ向かって走っていく俺。


「アリシアが片手で三本なら、俺は四本……いや、五本は持ってってやろう」


 そしたらきっとアリシアも驚くだろうな。

 そのままギュッと抱きしめて、俺のことを褒めてくれるかも。

 

『よくやったぞライア!』

『でへへぇ……』


 なんて妄想が捗るなぁ。


「って、そんなこと考えながら走ってるから、森の奥まで来ちまったじゃねぇか」


 つーか、ここどこだよ……

 まあ、来た道を引き返せば帰れないことはないだろう。


「せっかくだし、ここら辺から木材を貰って……」

 

 ベチャア


 すぐ側に生えていた木に触れると、何だか気色の悪い肌触りを感じる。

 見ると俺の手も、木の表面も真っ赤な物質がネッチョリ付着していた。


「……なんでこんだけ濃い匂いがしてて、今まで気づかなかったんだよ」


 匂いを嗅いで、気づく。


「こりゃ死体の血の匂いだ。しかも人間も魔獣も関係ない、無差別に森の奥へ引っ張ってきてるな?」


 街の方から続く血の痕跡を見て、確信する。

 昨日の襲撃でできた死体を、森へ運び込んでいる”何者”かが近くにいる。


「何でこんな気味の悪いことを……」


 まあロクなことやろうとしてる奴じゃないんだろうなと考えながら、音で俺の存在を気づかれないよう静かに周囲を見渡す。


「こういう時に魔術ってのは便利だよな」


 魔術で強化できるのは、パワーやスピードといった身体能力だけではない。

 視覚や嗅覚といった五感を強化することもできるのだ。


「森の中で木がそこら中に生えてるから、視界は悪い……が、見つけたぜ」


 目と鼻、そして耳を頼りに犯人の居場所を突き止めた。

 百メートルくらい先で、ボロ布を被った何かが死体の肉を食ってやがる。


「せめて火ぃ通してから食えよ」


 なんて軽口を叩いちゃいるが、得体の知れない相手だ。

 

 いったん戻って、アリシアたちと合流してから接触するか?

 とも思ったが、戻ってくるまで大人しくこの場所にいるかどうか確証がない。


 とりあえず声をかけてみよう。

 意思も通じて、死体を食う理由が納得できるなら見逃してもいい。


 だが意思が通じた上で理由に納得できないか、意思も通じずいきなり襲いかかってきたら、始末してしまって構わないだろう。


 側に近づき、声をかける。


「おい、そこのボロ布」

「ひ、ひぃぃぃ!」


 驚いた様子で腰を抜かし、尻餅をつくボロ布。

 

「だ、誰だアンタ! 構わないでくれ、俺を見ないでくれ!」


 随分と怯えた声でそっぽ向きながら応答するボロ布。


 意思疎通はできる、か。

 なら一応理由も聞いておこう。


「お、落ち着けよ。何もそんなにビビることはないだろうが、取って食おうってわけでもないのによ」

「ほ、本当に……お前、俺に意地悪しない?」


 涙を流しながら答えるボロ布。


「本当だよ。ただ、何で死体なんか食ってんのかなーって気になってさ」


 俺はあんまり刺激しないように、できるだけ笑顔で尋ねてみる。

 するとボロ布が顔をこちらへ向けながら言った。


「お、俺よう……どうしようもなく腹が減って仕方ねぇんだ。けど金はねぇし、動物を倒す力もないからよぉ……」


 なんだそんな理由か、と安堵する俺。

 

「だからって生で死体を食うのもどうかと思うけどな……まぁ、腹が減ってんなら街に来いよ。グロリアさんっていう、スッゲー料理の得意な人が作った美味い飯が食えるからさ」

「心配、してくれるのか?」


 そう言ったボロ布の素顔がようやく確認できた瞬間、俺は絶句する。


「ありがとう、でも必要ねぇ……だってここに……」


 男の肌は真っ黒で、牙と歯茎がむき出しになっていて……どんな魔獣人よりも異形な、化け物じみた顔をしていた。


「こんなに活きの良いタダ飯が現れてくれたのだから!」


 瞬間、男の頭部が肥大化し俺を飲み込もうと襲いかかってきた。

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