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#005 従者、グロリア その1

「ライアー、探し物は見つかったのか?」


 大人しく抱っこされたアリシアが、俺の顔を両手で揉み揉みしながら尋ねてくる。


「ちょうど今、探してるところだよ」


 俺がアリシアの頭を撫で撫で仕返すと、可愛らしい笑顔でムフ〜と笑うアリシア。


「ま、魔王ッ! アリシア様ぁぁぁ!!!???」


 そんな俺とアリシアの蜜月を邪魔するように、蝙蝠男が素っ頓狂な声を発する。


「ほ、本物なのかッ!?」

「本物だよ」


 アリシアを優しく地面に下ろしながら、俺が続ける。


「さてと改めて、魔王様直々のご命令だ。黒い魔族についての情報を吐いてもらおうか」

「認めんッ! こんなことは断じて認めんぞォォォ!」


 突然、発狂しながら俺たちへ向かって突進してくる蝙蝠。


「馬鹿が……」


 俺がブン殴って止めようとすると、


「いやライア、ここは余に任せてくれ」


 そう言ってアリシアが俺の前に立った。

 軽く拳を振り上げて、そのまま蝙蝠のボディをアリシアがパンチ。


 ドゴォン!


 一発で蝙蝠の体がバラバラになって消滅した。


「アッギャース!」


 しかしそれでも絶命に至らなかった蝙蝠が、首だけの姿で叫び声を上げながら俺たちの目の前にポツンと落下してくる。


「凄いなアリシア、首だけ生かすなんて力加減ができるなんて」

「いや、普通に思いっきりパンチしただけだぞ!」

「もう、無計画なところも可愛いんだから!」


 再び抱き合ってイチャイチャを始める俺とアリシア。

 すると、また邪魔をするように蝙蝠が声を荒げて割り込んでくる。


「魔王様! 貴方は今、自分が何をしているのか理解されておられないのか! 魔族と人類は、決して分かち合うことなどできぬ! そういうルールなのだ! 世界が決めた”理”なのだ! それでも貴方は、人間を守るなどという戯言を吐けるのか!」


 蝙蝠の必死の訴えを聞いて、アリシアが歩み寄る。


「うむ、それをどうにかするのが余の”夢”なのだ! 魔族と人類が手を取り合う、平和な世界を作るのが余たちの目標である!」


 堂々とした表情と立ち振る舞いで、ハッキリと宣言するアリシア。


「そうそう、そのために俺もアリシアと協力してるんだ」

 

 生き返らせてもらった恩、というのもあるが、やはり俺がアリシアに協力する一番の理由は、彼女の夢を応援したいからという部分が大きい。


「くだらぬ、とんだ夢物語だな……」


 それをくだらないと一蹴する蝙蝠。


「ならばこの街を守ってみせろ。既に残りの魔獣人、魔獣全てを避難所とやらに向かわせ……た」


 それだけ言い残して絶命する蝙蝠。


「それにしてもアリシア、良く言えました」


 蝙蝠なんかには見向きもせずアリシアを褒める俺。


「カッコよかったぞ」

「いや早く避難所に向かえよ!」


 息を吹き返したように怒鳴る蝙蝠。


「なんだ死んでなかったのかよ」


 落ち着き払った様子で俺が言う。


「まあ、あそこは”グロリア”さんが守ってるからなぁ……」


 グロリアさん──アリシアの従者で、魔界から一緒に人間界にやってきた、おっとり笑顔が魅力的なお姉さんだ。


 家事全般のスキルが非常に高く、俺が魔族になってからというもの、日常生活はほぼグロリアさんが面倒を見てくれていて、俺もアリシアもグロリアさんには頭が上がらない。


 その後、ややあって避難所へ合流した俺とアリシア。

 

 そこには避難してきた人たちを無傷で守り通しながら、笑顔で出迎えてくれるグロリアさんの姿があった。


「あら、お二人ともお疲れ様です」


 汚れ一つない真っ白なメイド服を身につけながら、その背後には全身が潰れて血の塊と化した魔族の死体の山が出来上がっていた。


 そう、グロリアさんは果てしなく強いのだ。

 魔族になってから戦い方を学んだ、俺の師匠でもある。


「グロリア〜!」


 グロリアさんの姿を確認すると、アリシアが俺の肩から降りてすぐにグロリアさんの側へ駆け寄る。


 コロッ


 しかし途中でアリシアが派手にすっ転んでしまった。

 顔から思いっきり顔面にダイブするアリシア。


「アリシアァァァ!!!」


 すかさず俺がアリシアを抱き上げ、顔を確認する。


「ああ、おでこがこんなに赤くなって……擦りむいてはいないみたいだが、痛みはないか?」

「うん、ヘーキだぞ……」


 涙目で痛みを我慢しながら、震えた声で答えるアリシア。


「このくらいへっちゃらだ、ぞ……」

「アリシアァァァァァァ!!!!!!」


 俺が必死の形相で猿叫を上げていると、グロリアさんがゆっくり近づいてくる。


「もう、アリシア様ったら。足元が悪いんですから、ちゃんと見ながら歩かないと駄目ですよ」


 優しく言いながら、俺に代わってアリシアを抱き上げるグロリアさん。

  

「ほら、痛いのはこの赤いところですか? 自分の手でゆっくり触って、痛いの痛いの飛んでけ〜!」

「グスン……痛いの、飛んでけ〜」


 落ち着いた様子でアリシアの介抱を行うグロリアさん。


 クソッ! それに比べて俺はただ慌ててただけ!

 俺はまだまだグロリアさんの足元にも及ばない……


 このままじゃ俺はアリシアの下僕失格だ!

 などと自己嫌悪に陥っていると、


「あ、いたいた! お疲れ様です、ライアさん!」


 どこからか聞いたことのある声が聞こえてきた。

 見ると、その声の主はどうやらちょっと前に助けた兵士のようだ。


「先程はありがとうございました! ライアさんも無事、魔族退治を終えたようですね!」

「いや俺は、大したことは何も……」


 ほぼグロリアさんが倒しちゃったし。


「それより、あの親子は無事……」

「はい! お二人もライアさんの帰還を聞いて、お礼が言いたいと……」


 言いながら兵士が背後を指さすと、そこにはあの時の親子が笑顔で立っていた。


「さっきはありがとう、お兄ちゃん!」

 

 娘の方が元気よくお礼を言いながら、手に何かを持って近づいてくる。


「これ、あげる……」


 恥ずかしそうに赤面しながら少女が俺に手渡したのは、小さな花だった。


「道に生えてたやつだけど、こんなのしかあげられなくてごめんね……」

「いや、すっごく嬉しいよ。ありがとうな」


 俺は花を受け取り、笑顔で少女の頭を撫でた。

 少女も満面の笑みを浮かべて喜んでくれる。


 すると突然、後方からアリシアが涙する声が聞こえてきた。


「グスン……グロリアぁ、ライアがうわきしてるぞぉ……」

「本当だ、浮気とか最低ですねライアさん」

「いやこれは違うから! 浮気じゃないから! ごめんアリシアァァァ!!!」

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