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終焉のパンドラ  作者: 萩オス
巨茴香の火 - Fire of the Giant Fennel
13/21

謎のメッセージ

 この時間のパーク街はまだ観光客でもにぎわっている頃だ。急いで三人が現場へ駆けつけた頃にはあらかた避難は済んでいたようだった。しかし道路は置き去りにされた車で溢れ、人間を探して歩き回るマキナントは、空車となった車を次々と踏み潰している。


「壊れろ化け物ォオオオオ!!」


 野太い男の咆哮が聞こえた。

 見れば、車の上に一人の大男が陣取り、マキナントに向けて発砲していた。男の着ているのはゼーロスに支給されるジャケットだ。間違いない、ゼーロスの人間だろう。筋骨隆々とした前腕はマシンガンに改造されており、マキナントに風穴を開けてゆく。

 銃の所持が許可されているエリア1だ。初めて見る光景に、アルファも理人も唖然としていた。

「跳弾が当たったら大変だ。二人はここに」

 英生に言われるまま、二人はビルの影に身を隠す。そうして英生は身を翻してマキナントへ接近した。

「! 来やがったなエオース!」

 金髪の大男は忌々しそうに英生を睨む。

「この獲物は俺のだ!お前らの出る幕じゃねえ!」

「我々は協働関係にある筈だ。戦績は関係ない。それに、街中でマシンガンを使用するのは感心しないな」

「ンだとォ!?」

 額に青筋をたてる男をよそに、英生は懐から大口径の拳銃を取り出した。エリア3では徒手空拳の英生だが、エリア1では火器を使用するようだ。

 その様子を唖然と見つめるアルファと理人の目の前で英生はマキナントの頭部へ二、三度続けざまに発砲し、マキナントは一拍の間を置いて崩れ落ちた。


「ああああコア、コアをやったな?!」

 大男は慌てふためいた様子でマキナントへ駆け寄り、大きな穴の空いた頭部の装甲をひき剥がす。どうやらもう片方の腕も機械化しているらしく、人間ではありえない怪力でマキナントを解体していった。

 果たして、現れたコアはものの見事にスクラップと化していた。

「あーあーあー……だからお前らエオースはよお!」

「街中でコアに構っている場合じゃないだろう」

 英生は拳銃をホルスターに仕舞い、辺りを見回す。人的被害こそ無いが、ぐしゃぐしゃに踏みつぶされた車だらけだ。暫く撤去作業に難儀するだろう事は想像に難くない。


「……見ねぇ顔だな。コードネームは」

「ディガンマだ。名を聞くなら先に名乗るのが礼儀だと思うが」

「フランクリンだ。レナード・フランクリン。……ったく、折角コアを手に入れる絶好のチャンスだったってのに」

 レナードはぶつぶつ言いながらも素直に名乗った。


「うわ。エリア1本部のお偉いさんじゃん」

 理人は思わず目を丸くする。

「知ってる人?」

「名前だけな。ゼーロスの幹部だよ。確か前コアを取り出して解析しかけたのがあのおっさん」

 PC壊れたけど。などと言いつつ理人もアルファも再び二人の様子をうかがう。


「んん?」

 レナードは怪訝そうにコアだった残骸を取り出す。

「危ないぞ」

 コアは謎のエネルギー体を内包している。停止したとはいえ、安全とは言い難い。英生は思わずレナードの肩に手をやりかけて、コアを見つめたまま止まってしまった。


「? なんかあったのかな」

 理人とアルファは黙り込んでいる二人を見つめ、その傍まで駆け寄った。茫然としている二人の肩越しに、破壊されたコアが見えた。コアは完全に機能を停止しているようだが、空中に光で文字を映し出していた。文字は、こう綴られている。



 |2.15を思い出せ《Remember 2.15》



「2.15……やはりあれはマキナントの仕業だってのか?しかしなんだって――」

 首をひねりつつコアを眺めまわすレナードの前で、やがて文字は消えてしまった。

 一方の英生は微動だにせず、文字の消えたコアをじっと見つめているようだった。だがよく見ると、両の拳は固く握りしめられ、まるで怒りに震えているかのようにも見えた。


「ヒデちゃん……」

 コードネームの事も忘れ、アルファは不安げに英生を見上げた。その声でまるで呪縛が解けたかのように、英生は漸く二人に気付いて振り返った。

「あ。ああ。二人とも、怪我はなかったか」

 無言で頷くアルファと理人の背後からサイレンの音が聞こえ始めた。処理班だ。

「後は彼らに任せて、さあ、ホテルに戻ろう」

 促されるままアルファも理人も元来た道へ引き返す。先を行く英生に聞こえないよう、アルファは理人に耳打ちする。


「あれ。何だと思う」

「……やっぱり事故じゃなかったんだと思う」

 理人は硬い表情のまま小さく頷いて続ける。

「何かあったんだ。あの日。で、たぶん」

「チーム・エテルナの研究内容と関係もあった……」

「うん」

「あとあれ……英語だったよね」

「英語がわかる地球外生命体か、それとも――」


 同じ人間か。


 そこまで思い至って、二人は口を閉ざす。

 あの文字を見た時の、我を忘れたかのようだった英生の様子も気にかかる。多くの謎を抱えたまま、雪の勢いは更に増していった。

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