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野良紋章 探偵

ザァザァと雨は降り続き、蓮は倒れた二人をアパートの自分の部屋まで運び少女を招き入れた。


「これ、使っていいよ」


そう言ってタオルを少女に渡して男性の上着を剥いだ。

腰の辺りから血が広がり顔色も悪い。

このままにしておけば確実に死ぬだろう。


本当は緊急通報で救急を呼びたいのだが…先ほどの状況から呼ばないことを望んでいることが分かった。


だが。

だが。


蓮はもう一人の男の身体を調べ怪我もなく糸が切れた人形のように気を失っているだけなので動けないように取り敢えず後ろ手に手と足をタオルで縛って

「問題はこの男性だよな」

と今にも死にそうな男性を見下ろした。


医療レベル0である。

というかそう言う称号を受けることが出来るほどレベルが高くない。


ピラミッドで言えば底辺レベルの正に一般人である。


蓮はふんっと息を吐き出すとバスタオルと救急道具箱と包帯をクローゼットから取り出し

「言っとくけど俺は医療系の称号は無いから知識0だからな」

出来るだけのことはするけど

「無駄だったらごめん」

と気を失っている男性に告げた。

「でもさ、人が目の前で死んでいくのを見るのは嫌だよな」

そう思うだろ?


少女に泣きそうになりながら告げタオルで傷口を押さえた。

それに少女は蓮を見つめると

「ナイフ…酒…糸…針…」

ナイフは火に焙る

と呟いた。


蓮は「え?」と顔をあげて少女を見た。


少女は表情一つ変えず

「四季を助けたい、でしょ?」

用意…する…

と告げた。


蓮は男性と少女を交互に見ながら腰を浮かして

「あ、あの」

と言いかけたが、頭を傾げながら台所のコンロでナイフを火で焙り、酒と糸と針を用意した。


少女はそれらを受け取ると蓮に意識を失った男性の下にバスタオルを敷かせるように指示しナイフに酒を掛けると

「手術…する」

四季、舌噛まないように

「タオル、口に突っ込む」

と告げて、傷口の包帯を切ると手術を始めた。


蓮は初めての光景に息を飲み込み

「げー!」

な、なんなんだ!?

「この子なんなんだ!?」

と心で雄叫び、手にタオルを巻くと呻く四季が舌を噛まないように口へと突っ込んだ。



名探偵の紋章 ~Coat Of arms of Detective~



夜明け前には雨も上がり雲の切れ間から陽光が地上へと降り注いだ。


土方蓮は小さな欠伸をするとハッと目を覚ましキョロキョロと周囲を見回して

「俺…確か…」

と言うと布団で眠る男性と後ろ手に括ったままの男と男性に寄り添うように眠っている少女を見て

「そうか」

手術してそのまま寝たんだ

と呟いた。


だが。

だが。


まだ10歳になるかならないかくらいの少女がナイフで手術をしたのだ。

俄かには信じられない出来事である。


だが現実は現実である。


そして今、その手術で救われた男性が眠っている。

彼は助かったのだ。


蓮は長い髪をツインテールに括っている愛らしい少女を見て

「本当に信じられない」

凄い子だよな

と心で呟いた。


朝食はお米ではなくパン食であった。


蓮は立ち上がるとパンを四枚焼いてスクランブルエッグも作ると盆に乗せて部屋の片隅に置いた。


その時、男性が目を覚まし

「俺は…生きている…みたいだな」

と呟くと

「昨日は済まなかった」

と蓮に告げた。


蓮は首を振ると

「いや、俺は何も」

この子が手術をしたので

と笑みを浮かべた。

「でも、助かって良かった」

救急通報するなというし


そう言ってはっ!とすると手と足を括ったままの男を見て

「あぁ!この人…あれから眠ったままだけど」

拘束やばいよね

と立ち上がり、タオルを外そうとしかけて男性に

「そいつはそのままでも問題ない」

と止めた。


男性は沿うように眠っている少女の頭を優しく撫でながら

「俺の名前は文月四季」

この子は文月輪廻

「そして、そいつは輪廻の従者だ」

通信部分を破壊したから修理するまで動かないだろう

と告げた。


蓮は「は?」と首を傾げ

「その…状況が全く見えないんですけど」

と呟いた。


四季は僅かに視線を伏せ、そっと輪廻の小さな手を握ると

「俺は輪廻の本当の親で…一緒に暮らすために攫ってきた」

と言い

「俺が愛する女性とセックスして生まれた子供が輪廻だ」

愛の結晶だ

「だがこのままでは輪廻は心を無くしたまま…」

と唇を噛みしめた。


「社会保育システムのせいで」

いや、いま世界を支配しているAIシステムで…人は人を失って行っている

「このままでは恐ろしいことになる」


蓮は考えながら

「あのーすみません、言っている意味が良く分からなくて」

と困ったように告げた。

「その、まず親って…3歳まで保育するシステムの名前ですよね?」

輪廻ちゃんは10歳前後くらいなのでそのシステム期間は終わっているので社会保育施設に入るのは普通では?

「何がおかしいのか分かりません」


四季はふっと笑うと

「そうだな」

そう教育されているんだったな

と言い

「親というのはシステムではなく遺伝子…つまり子供にとっては生命形成の根源だ」

だからAIが今の教育システムを始める前は子供が独り立ちをするまで親が子供を育てていた

「子供はある意味において愛の結晶でもある」

と蓮を見た。


蓮は難題を出されたような難しい表情で悩みながら

「はぁ」

と返すしかできなかった。


四季は笑みを浮かべると

「急にそういう話をされても難しいか」

と言い

「そう言えば君には礼をしないといけないな…かなり奮闘してくれて」

ありがとう、何が欲しい?

と話題を変えた。


蓮は困ったように

「いえ、俺は止むにやまれずだし…結局、助けたのはこの輪廻ちゃんなので」

と答えた。


四季は笑みを深めて

「まあ、聞ける頼みと聞けない頼みがあるから」

取り敢えず言ってくれ

と告げた。


蓮は悩みつつ

「あー、じゃあ」

と絶対に無理な頼みを言うことにしたのである。


あの状況では自分も殺されたかもしれないので奮闘しただけで、礼など期待していなかった。

だが気を使って申し出てくれているのだ。

無碍にするのも気が引ける。


蓮はさっぱりと告げた。

「紋章をください」

俺は称号が学問と低級事務しか取得できないレベルのダメダメ人間なんですよね

「中級事務とかじゃなくてもっと違う何かを選びたいけど…それをすると間違いなく生活できなくなってしまう」

紋章があればひっくい天井人生だとあきらめなくていいかなと思うので


「な~んて、冗談ですけど」


情けなさげに笑いながら言う蓮に四季はふっと笑うと

「いいさ、紋章をやろう」

と告げた。


蓮は「え?」と目を見開き

「あの、冗談なので」

というかそう言うの有り得ないですよね?

とハハッと笑った。


四季は自分が来ていた服を見て

「悪いが、俺の服から携帯電話を出してくれ」

と言い、恐る恐る服のポケットから携帯電話を取り出した蓮を見て

「これは撃たれてなかったか」

機能が生きていたら…できる

と呟いた。


蓮は興味津々で覗き込み

「それで?」

携帯電話…ではないんですか?

と聞いた。


四季は笑むと

「君は面白いな」

極々平凡な思考の持ち主かと思えばこういうのは拒絶しないんだな

と言い

「結局、緊急通報せず立ち向かってくれたし普通ではありえないけどな」

と告げた。


蓮はふむっと考えながら

「俺は俺自身が良く分からないから…でも貴方は嫌がっているようでしたし」

かといってあの時立ち向かわなかったら貴方も俺も死んでいたし

と答えた。


四季は「なるほど」と呟き

「そう言う意味では君に与える紋章は君にあっているのかもしれないな」

と言うと

「これは君に紋章を与えられるアクセスボードだ」

ただし

「一回きりで紋章は唯一つ」

と告げた。


「君に与える紋章は…野良紋章・最上級探偵だ」


蓮は「は?」と首を傾げた。

そんな称号聞いたことが無い。


そもそも野良紋章ってなんだ?の世界である。


四季はくすくす笑いながら

「その気があるなら手を乗せてくれ」

と差し出した。


ひっくい天井の人生か。

天か地か分からないが突き抜けた人生か。


蓮は息を吸い込むとそっとアクセスボードと言われた携帯電話の形をしたものの上に左手を乗せた。


四季は笑みを深めて

「やはり君は面白い」

と言うと

「動いてくれよ」

と電源ボタンを入れた。


瞬間にアクセスボードの表面が淡く光り

「ID9203943284031…ヒジカタレンと判断しました」

モンショウ サイジョウキュウタンテイ ヲ フヨ イタシマス

と声が流れた。


「四季…最期のアクセスね」

輪廻をお願いね


…愛しているわ、さようなら…


女性の声が最後に流れるとフッと文月輪廻が目を覚まして顔を上げた。

「おか、さま…」


四季は静かな笑みを浮かべて

「ああ、そうだ」

と答え

「俺も愛してるよ」

さようなら…霞

と囁き、瞼を伏せた。


アクセスボードは画面に『全消去が完了しました』と表示して、シュンッと音を立てると電源を落とした。


四季は蓮を見ると

「野良紋章だが働きはちゃんとする」

と言い

「土方君、君は知らないだろうがギフテッドとして3歳で紋章を手にした子供ほど脱落者が多くシステムに処分されている」

自分たちが奴らに都合よく改変されていると幼いうちに気付くからだ

「それが現実だ」

と告げた。


「君はそう言う意味では世界で唯一の有り得ない紋章の持ち主だ」

これで何に囚われることなく行動し住むところも自由に選択できる

「ただ一つ」

君の元にはこれもまた有り得ない仕事が舞い込んでくるだろう

「それを君がどうするか俺はそこに期待する」


蓮はボードに乗せた左手を見つめながら

「はぁ…」

と答え

「でも、探偵って称号は何する仕事なんだ?」

と心の中で突っ込んだ。


部屋の窓の外には青い空が広がり、遠く大都市東京が幻のように霞んで浮かんでいた。


最後までお読みいただきありがとうございます。


続編があると思います。

ゆっくりお待ちいただけると嬉しいです。

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