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その10 最終回

東日本のAI政治システムは完全に沈黙した。

蓮たちは再びシステムが甦らないように完全に破壊する形を選び、文月四季がロボットを修繕した後の最初の仕事としたのである。


その日の夜半に京都へ向かった黄翁ゆりと朱雀章がぐったりとした様子でボロボロになった中野アパートに姿を見せた。


蓮を始めとして誰もがアパートから駆け出して2人を出迎えた。


ゆりは出てきた彼らを見るとヘタっと座って

「途中で新幹線が急に止まって…復旧の見込みがないって下ろされたから京都へ行けなくて」

戻ってきた

と息を吐き出し

「それでも多摩川辺りで渋谷と新横浜の間で良かった」

これが静岡だったら今日中に帰ることはできなかった

「一緒した子なんか九州行く途中だからって新横浜の方へと歩いていった」

あの子どうするんだろって感じだったけど

とぼやいた。


それに話を聞いていた誰もが

「「「「「うっわ、確かにそれは大変だ」」」」」

と同時に心で突っ込んだ。


考えるとそういう人は少なからずいるだろう。

西日本と東日本を繋ぐ電鉄系は恐らく全滅している。


無理に移動するとすれば車か徒歩になってくるだろう。


息を吐き出しながら「かなり歩いた」と告げる章を見ながら蓮はバツが悪そうに

「命の掛かった緊急事態だったとは言え」

少し考えなしだったと思う

「ごめん」

と告げた。


ただ、殺されるか、破壊するかの二択だったので…やはり同じ状況だったら同じ選択をしただろうことは誰もが感じていた。


ゆりは小さく笑って

「でも、しょうがないでしょ」

命が掛かっているんじゃ

「それに皆に死なれたら寂しいし」

無事で良かったわ

「それでAIシステムの攻撃は回避できたみたいね」

アクセスして何したの?

と聞いた。


それに全員が顔を見合わせた。


章も大きく息を吐き出しながら

「何したか分かんないけど成功したんだろ?」

生きているのが証拠ってことだよな

と言いながらアパートを見ると

「しっかし、凄くボロボロのアパート住んでいるんだな」

紋章持ちってもっといいマンションとかに住んでいるのかと思った

と笑った。


あちらこちらに焦げ跡。

しかも壁に穴が空いている。


雨露防げていたのか?

半壊だろ、これ。

という具合である。


蓮は困ったように

「いやいや、元々がボロボロだったわけじゃなくて、壊れたんだけど」

その抹殺命令で鷲尾さん達が大暴れしたから

と説明しつつ苦く笑った。


蓮は二人を誘って、半壊したアパートの中で無事だった一番奥の203号室に全員を集めた。


そして、今後のことを話し合う事にしたのである。

いま愛知県の手前を境界線として東と西では政治システムが違う形になっている。


西日本はAI政治システムを守ったままだ。

東日本は旧システムに戻っている。


勿論それで終わるわけではない。

全てはこれからなのである。


一気に崩した社会体制を立て直すことこそ一番大変な作業なのだ。

ゆりと章はそれを聞き驚いて暫く目をカッと見開いたまま固まった状態だった。


新幹線が突然停止した原因が蓮たちにあることは分かっていた。

AIシステムに抹殺命令を出されたのに現在も生きているのだ。


AIシステムに何かしたのだろう。

それは凄く良くわかっていた。


が、だがしかし。

まさかAI政治システム自体を破壊したとは思わなかったのである。

正に想定外の話である。


言い換えれば彼らは社会の構造をひっくり返してしまったのだ。


ゆりは暫くすると一つ息を吐き出し

「まあ、今はまだ混乱していないからいいんじゃないかな?」

とアハハ―とやけくそ気味に笑った。


やってしまったことは仕方がない。

そう言う事だ。

それに今はまだ西日本へ繋がっている列車が止まってしまった。


誰もがその程度の認識に違いなのだ。

自分たちもそうだからである。


章もヒタリと汗を浮かべつつもハハハと笑って「だよな、うんうん」と答えた。

半分以上現実逃避だろう。


四季は壊れた鷲尾惣と高尾参と七尾汎を直しながら

「それで?東半分ならどうなるんだ?」

とチラリと蒼槻きずなを見た。


きずなは笑むと

「俺と家康だけで何とかなるかと」

西日本との鉄道接続も問題なく復旧できると思う

と告げた。

「神楽さんは蓮君たちに歴史を通じて今後の指標を」

文月さんは停止している全てのロボットたちの修繕をしてもらわないといけないからな

「当分それに専念してもらう形になる」


その意味。

四季は正確に理解すると

「確かに毎年行われている適性検査の検査員がいなければ現場は混乱だ」

と苦く笑った。

「4月1日まで二ヵ月ほどか」

100体は復活させないとだな


蓮と青夜とゆりと章は同時に

「「「「100体!?」」」」

と叫んだ。


四季は笑むと

「まあ通信部分だけの修復だ」

二ヵ月で100体は無理な話じゃない

と答えた。

「その代わり飯食う以外は何もしない」

そう変な断言をした。


勇武は笑いながら

「では、ロボット修復はお任せします」

と言い、蓮たちを見ると

「そして、生徒諸君!歴史から学ぶべきことは沢山ありますよ~」

より良い世界を作るためにも

「しごきますからね!」

と明るい声で告げた。


…。

…。


蓮も青夜もゆりも章も心で

「「「「しごくって言葉を…そんな眩しい笑顔で言われても」」」」

と突っ込んだ。


蓮は「しかし」というと

「問題は西日本だね」

と呟いた。


それに青夜は

「え!?」

それって西日本のシステムが介入して来るかもってこと?

と聞いた。


西日本のシステムは今回壊されたAI政治システムの西日本版だ。

言い換えれば片割れである。

東日本も元に戻そうとするかもしれないという心配である。


しかし、きずなは首を振ると

「そういうプログラムはされていないだろ」

恐らく東日本への通信が途絶えたのでアクセスを繰り返す程度だ

「人間のような領地を奪い合ったり取り返そうとしたりするような合戦ロジックは組み込んでいないと俺は思っている」

それこそシステム創始者の『平等思考』から外れることになるからな

と告げた。


蓮も青夜もホッと安堵の息を吐き出した。

それこそ西日本のAIロボットが攻め込んで来たら大変な事になる。


日本の中で合戦が起きてしまう事になるのだ。

所謂、西日本と東日本のAIシステム戦国時代ということになる。


しかし、そういうロジックがないという事は西日本のAI政治システムは東日本を感知しないという事である。

つまり東日本にAI政治システムが復活することは無くなったという事になるのだ。


四季は腕を組むと

「ただ西日本を今後どうしていくかも考えないとな」

と告げた。

「西日本のギフテッドの粛清や人の法がない状態は続いていくわけだからな」


きずなはそれに口元に笑みを作ると

「九州はずっとAI政治システムから独立して旧システムが支配している」

そこを目指している人間がいるなら

「問題ないだろう」

きっとその人物が西日本を動かしてくれると思う

「それよりも俺達は東日本が混乱しないように現状を保ちつつ人の世に戻していかなければな」

それが最優先だと思っている

と告げた。


そして、どこか遠くを見つめるように目を細めて

「きっとやってくれるさ」

西日本の人々が人の世を望んでいたなら

「そこに住む人々が気付いて変えていくしかない」

土方君たちのようにな

と小さく独り言のように呟いた。


日本の半分だが新しい時代へと入ったのである。


名探偵の紋章


東日本でも紋章や称号は残った。


しかし本人が希望しなければ推奨を行う事は無くなり自由に称号選択できるようになったのである。

その為、これまであった推奨以外の称号を選んだ際のレベリングペナルティは廃止され、代わりに労働量と内容の対価としてレベルが上がっていくシステムに切り替わったのである。


その労働量と内容の報告システムについては、それが正しくされているかを復活したロボットが定期的に査察に入るようになり、始めこそ報告者は戸惑ったものの直ぐに順応しすんなりと受け入れて正確な報告を送るようになっていった。


住居場所ももちろん自由である。


表面上は微々たる変化であったが、その裏ではAIシステムはなく旧システムが情報を集積し整理し、蒼槻きずなが咲良家康のフォローを受けながら日々決済をして各方面に指示を出していたのである。

正に寸暇を惜しんで働いている状態であった。


更に新しいシステムに切り替わって初めて行われた適性検査の日。

つまり4月1日に同時に旧憲法の復活と裁判所と警察、そして弁護士の称号が復活した。


AI政治システムが日本のスタンダードになってから人の法が無くなり無法地帯となっていたが、人の法が東日本で復活したのである。


それは人々にシステムから告知されメディアなどでも流れた。

ただこれまで人々はあらゆる事に無関心であったために、このニュースもそれほど人々に衝撃を与えることはなかった。


蓮は四季が直したロボットたちが修繕した中野アパートの201号室で目を覚まし学校に行く準備を整えた。


あの日から203号室には黄翁ゆりが303号室には蒼槻きずなの代わりに朱雀章が住むようになった。


きずなと家康は時折帰ってきては夕食会に出て再び旧システムのアクセスボードのある場所へと戻っていく。

そんな日々を繰り返している。


そして、様々な事件の情報が警察と共に蓮と青夜のパソコンにも届くようになった。

探偵事務所は103号室と変わっていない。

修繕された鷲尾惣も102号室で働いている。


七尾汎は農業管理者として野菜を育てている。


人々の絆の薄さも殆ど変わってはいなかった。

まだまだ人の世の復活には程遠いものがあった。


が、それでも。

蓮と青夜とゆりと章が教室に入ると先に来ていた生徒たちが

「よ」

やら

「おっす」

やらと声を掛けるようになっていた。


少しずつだが互いに話をしたりするようになっていたのである。

人の絆の小さな復活であった。


そして、蓮がタブレット授業を受けている最中にガラリと扉が開いた。


鷲尾惣が立っており

「事件の依頼が届きました」

先に警察が向かっております

と告げた。


青夜もゆりも章も同時に目を向けた。

いや、勉強していた教室にいる全員が顔を向けた。


…。

…。


TOP関係なし!ここは変わっていないみたいだな。と生徒の全員が心で突っ込んだ。

しかし、それももう今では慣れた光景であった。


蓮は苦笑してタブレットを鞄に直すと立ち上がった。

それに青夜もゆりも章も続いた。


教室にいた生徒が

「頑張れよ」

と声を掛けた。


これまで全くなかった声である。


蓮は笑みを浮かべると

「ああ、頑張ってくる」

と答え、青夜達をみて

「じゃあ、行こうか」

と呼びかけ教室を後に一歩を踏み出したのである。


…事件を解決に…



最後までお読みいただきありがとうございます。

このお話はここで終わりですが、西日本編 名探偵の系譜へと続いていきますので暫くお待ちいただけると嬉しいです。

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