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名探偵の紋章 ~Coat Of arms of Detective~  作者: 如月いさみ


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雨の中の逃亡者

AI政治が世界のスタンダードになると人間の在り方もまるでゲームのようになった。


3歳を迎えて社会保育期間が始まると第一次適性検査を受けて進むべき道の最初の称号が与えられる。

称号と言っても勇者や賢者や魔法使いではない。


運動。学問。

最初はその二つだ。


稀に生まれてくるギフテッドと言われる子供には特別な紋章が与えられる。

20歳くらいになって最終的に与えられる最上位の称号の特別な教育や権利を得ることができる手形である。


それは100万人に1人くらいの割合の子供に与えられが、3歳で与えられなかった場合はただ只管に地道に努力するしか道はなかった。


全てがAIの管理下に置かれた親の役割は子供が3歳を迎えると同時に社会保育施設に入れて終わる。

2000年代の初め頃に流行った子供ガチャや親ガチャと言う文言はこの頃には既に死語となっていた。



名探偵の紋章 ~Coat Of arms of Detective~



梅雨の夕刻。

激しい雨が降っていた。


街灯も少ない郊外の一角から見える大都市東京の明かりはぼんやりと遠い幻のように見えて、思わず小さな溜息がこぼれた。


土方蓮(ひじかた れん)は傘を畳むと住んでいるアパートの階段に足を掛け

「後3年で最終称号選択なんだよなぁ」

どうしよう

と小さく呟いた。


3歳になって第一次適性検査で学問の称号を受けて第2次適性検査まで基礎的な勉強をしてレベルを上げた。

レベルは100カンストの内の12止まりだった。

一般的なレベルは1年で+1レベルなので正に可もなく不可もなくということだ。


そして13歳で2次検査を受けて学問の称号の上位として4つの内の一つを選ぶように指示を受けた。

低級事務。

低級経理。

低級販売。

低級営業。

迷いに迷って低級事務を選んだ。


その後17歳まで学問レベルを上げる勉強をしつつ、事務レベルを上げるために『松本商会』という会社で毎日学校が終わった後1時間だけ仕事をした。


松本商会は松本金一という人物が経営する小さな物販会社で書類などを作りながら事務レベルを上げ、最終的には6まで上がった。


この調子で行けば最終選択の20歳で学問レベル20低級事務レベル10くらいだろう。

本当に可もなく不可もない…一般レベルである。


最終称号には推奨はあるが基本は自由選択。

だが学問レベル20と低級事務レベル10というファクターが掛かり、全くお門違いの称号を選ぶとレベルが上がらず、その分だけ生活水準や住む場所のレベルが低くなる。


選んだ称号を上げる仕事や勉強の支援がないということだ。

つまりこの時点で暗黙の内に自分の未来も決まっているということになる。


蓮は仰ぐように天井を見上げ

「俺の人生もこんなひっくい天井なのかな」

とぼやいた。


瞬間に

「そう言っている間はお前の天井はそのひっくい天井のままだ」

と声が響いた。


ザァザァと雨が降る薄暗い中に一人の男性と少女がずぶぬれで立っていた。


男性は血の滲む脇腹を押さえながら

「俺の最期に居合わせるのも何かの運命だな」

お前にこの子を託してやる

「大事にしろ、運命を開く子だ」

とアパートの壁にズルズルと凭れて座り込み、少女の背を蓮に向けて押し出した。


蓮は驚きながら振り向いて

「は?いや、あの…貴方は?」

とドン引きしつつ、男性の座った場所から血が広がるのに目を見開き

「それよりその怪我の手当てをしないとだめだよね」

と慌てて携帯を手に緊急通報ボタンを押しかけた。

が、男性はそれを手で止めると

「やめろ」

知られたら…計画がおじゃんになる

と言い、近付いてくる泥を踏む足音に

「こんなところまで」

と雨の中を睨んだ。


ただでさえ暗い雨の夕刻。

その薄闇の中に一つの影が浮かびあがった。


蓮はちらりと男性と彼に付き添うように立っている少女を見た。

恐らく。

状況的に二人を追ってきたのだろう。


蓮は携帯を手にしたまま

「何をしたんだ?この人」

と思ったものの影が手にしているものが銃であることに気付くと固唾を飲み込んだ。


自分は関係ありません、と両手をあげても何となく撃たれそうな気がする。

かといって逃げても追いかけてきて撃たれそうな気がする。


つまり、最終結論は撃たれるんじゃないのか?である。


蓮は傘を持つ手に力を込め、息を静かに吸い込み吐き出した。

その間に影は確実に一歩一歩近づいてきていた。


男性はハハッと暗い笑みを浮かべると

「ああ、そうだ。運の悪い君に一つ助言をしてやる」

と言うと

「今ここでひっくい天井の人生であの世に行くか」

天か地か分からないがどちらかに突き抜けた天井の人生を進むか決めろ

と告げた。


…ひっくい天井で良いならそのまま俺が死ぬのを見てろ…

「違う天井を見たいなら協力しろ」


蓮はヒタリと汗を浮かべ

「すっごく嫌な最低二択ですね」

と呟き、男性の側に立ってじっと自分を見ている少女を見つめ返して息を吸い込んだ。


最悪、最悪、最悪である。

が、せめて

「学問レベル20の最上級事務くらいにはなりたい!」

と言うと持っていた傘の先を手に足を踏み出した。


「どっせいー!」

そう叫んで銃を向けた影に思いっきり傘を振り下ろした。


その影はシュッとした綺麗な顔をした男で切れのある身のこなしで蓮の傘攻撃を避けると一瞬目を閉じて直ぐに目を見開いた。


反対に蓮は足を滑らせて前に倒れ込み慌てて振り向き、大きく息を飲み込んだ。

大粒の雨が降り注ぎ目の前に綺麗な顔の男が銃を向けて立っている。


これは…完全に撃たれて死ぬケースである。


蓮はずぶ濡れになりながら

「あ…」

と声を零し

「くっそぉ!」

と最後の抵抗とばかりに手に掴んだ泥を投げつけた。


ビチャッと白い肌が泥に汚れても男は銃の引き金に手をかけてじっと蓮を見つめている。

冷静に。

いや、感情なく。


蓮は動くことができずに息を飲み込んだその瞬間に男はふぅと目を閉じると圧し掛かるように倒れた。


「…まさか…学問と事務の称号しか持ってない人間がこんな大立ち回りをしてくれるとはな」


男性は倒れた男の後ろに立ちふっと笑うとそのまま倒れ込んだ。

蓮ははっはぁはぁと肩で息をしながら男二人を押し退けて立ち上がるとぽつんと立っている少女を見た。


ツインテールの長い髪に愛らしい容貌の10歳くらいの少女だ。


蓮はドロドロになりながら

「あの…その…俺…どうしたら」

と思わずそう呟いて、情けない顔を濡れた袖で拭った。

最後までお読みいただきありがとうございます。


続編があると思います。

ゆっくりお待ちいただけると嬉しいです。

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