大切”だった”仲間に裏切られたので、皆殺しにしようと思います【王国編】
この作品は、続編になります。
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王にとって、”人類最強”は邪魔な存在であった。
それは単に脅威というだけではなく、自分の欲望を満たすために邪魔であったのだ。
確かにアレは強力だが、なにかミスを犯さない限りエリスであれば上手く抑え込めていただろう。ただ、それが問題だった。
王はエリスが欲しかった。
彼女の豊かな身体を貪り、己のものにしたかったのだ。
その為には彼が邪魔だった。
自分の権力であればどうにかエリスを従わせることはできる。だが、アレが一人で反逆でも起こそうものなら、その時点で自分の命運は決まったようなもの。
とは言え、英雄を殺すことを是とする民が居るはずもない。
故に、”ユウキの持つ力は強大で危険過ぎるので、処理するべきである”という旨を国民に伝え、多くの民からの賛成を得ていた。
実際、王の私利私欲から始まったこととは言え、多くの民がこれに賛成していることは事実である。
「すまないな、ユウキよ。我が欲望のために死ぬが良い」
王は今、世界で最も幸福な人間だろう。
もうすぐだ。もうすぐ自分が最も欲しかったものが手に入るのだ。
「随分嬉しそうだな、王様」
「え?」
この部屋には誰も居ないはず。
部屋の前にいる警護兵には誰も近付けないよう命じてある。
それなのに、室内から声がした。
しかもその声の主は絶命している筈の人物──
王は声の方に振り向く。
そこには案の定、声の主である男──ユウキが居た。
「あ、────だッ、誰かッ! おらぬか!!」
動揺と恐怖から膝が震え、立っていることもままならない。
情けなく膝を地につけ、その男から離れんと床を這いずる。
あれはここに居ていい存在ではない。
「厄介だな、お前。<静寂>」
王の声が届いたのか、部屋の前にいた2人の警護兵はすぐさま扉を開け、部屋へと侵入してきた。
もちろん、武器を構えた状態で、だ。
王は安堵する。
まだ殺されていなかったのか、と。
「どうされました──」
冷静に声を掛けた兵士。
その言葉は途中で途切れた。
「ひぃっ──!?」
何が起きたのか。
王は彼らを見て理解する。
彼らの顔は──頭から上が既に存在していなかった。
こんな事象を引き起こす人物は1人しか居ない。
音もなくこの部屋に侵入してきた人物──そして、”人類最強”の二つ名を背負う男。
そんな男がゆっくりと口を開き、問うた。
「俺を殺すことに国民が賛成していると聞いたんだが……それともただ、お前の欲望の為だったのか?」
「ち、違うっ!! 国民が賛成しているのも本当だ!!! 魔王が倒れた今、既に英雄は不要だと! ただの化け物だと!! それに賛同したのだ!!!」
股間が濡れるのを感じる。
人生で感じたことがないほどの殺気によって。
ただ、受け答えは怠れない。
今自分が嘘を付けば──その時自分は死ぬだろう。
それを悟って、全てを正直に話す。
1秒でも多く、この世に生きていたいのだ。
「そうか。ならばお前に用はない。死ね」
「ひっ! ま、待ってください! どうか!! お話だけでも…!」
冷たい殺意が王に向けられる。
全身が震え、土下座の姿勢から抜け出すことができない。
どうするのが正解か。
金銭を与えるべきか。地位を与えるべきか。
そもそも相手は理性的なのか。
何も分からない。
唯一分かることは、何もしなければ殺されるということだけ。
少なくとも今殺されてない以上、チャンスは与えられたと見るべきか。
「か、金! 金を与えよう! 一生豪遊して暮らせるだけの金を! ち、地位もだ! 王の次と言えるくらいの地位を与えよう!! どうだ!」
「価値を感じないな。────あぁ、でも、そうだな。1つだけ条件を出そう。それを満たせるならばお前を生かしておいてやる」
返ってきた答えは冷たいものだったが、それと同時にもう一度チャンスを与えられもした。
機会を与えるということは現状、王に価値があると見ているのだろう。
「な、なんなりと……!」
一拍置いて、ユウキが口を開いた。
「この国に展開されている魔術結界を解除しろ。お前ならば解除できるだろ?」
「魔術結界を…ですか?」
「あぁ。面倒だからな」
嫌な予感がする。
王国に貼られた結界は、数百年解除されたことはない。
その解除の手段を知っているは自分だけだ。
「か、かしこまりました!! 付いてきて頂けますか!!」
ただ、逆らうわけにはいかない。
命の助かった王は、早足でユウキを連れて部屋へと向かった。
◆ ◆ ◆
「これが魔術結界の核、か」
「は、はい! 数百年の間、ここに保管されておりました!」
自分だけが知る、隠された部屋。
その狭い部屋にあるのは、拳大の水晶のようなモノのみ。
この水晶こそが、王国をあらゆる魔術から守る結界なのだ。
そんなモノを前にして、王はふと冷静さを取り戻した。
なぜ、自分はこの怪物に結界の核の場所を教えてしまったのか。
彼がしようとしていることは、”ろくでもないこと”なのではないか、と。
「あ、あの……これを解除したら…………どうするんですかね……?」
「あ? そりゃあ、国民を皆殺しにするだけだが?」
そして、
隠しておけば良い疑問を、ユウキへと投げかけた。
投げかけてしまった。
「そ、それは……あまりにも……」
「あっそ。<地獄の焔>」
「あ゛あ゛あああぁぁぁッ────?」
瞬間、王の右腕は溶けた。
文字通り、溶けて消えたのだ。
ただ、幸いと言うべきか。
あまりの痛み──現実離れした痛みと現象に、王の頭は理解を辞めることができた。
「殺しはしない。そこまで言うなら……見せてやりたいからな」
「見せ……る……? 何を……で…………しょう……か…………?」
過呼吸になりながらも、受け答えをする王に、ユウキは笑顔で答えた。
「お前の国民が、皆殺しにされる瞬間だよ」
「な……にを…………?」
「まぁ、良い。見れば分かる。とりあえずこの核を破壊させてもらおう。<黒壊の腕>」
ユウキの腕が黒い靄で包まれる。
(あれは……悪魔だ…………)
その腕で魔術結界の核に触れれば──
パリンッ
と。
そんな軽快な音を立てて、水晶は割れて飛び散った。
数百年、経年劣化さえもしなかった、水晶。
初代の王が、神より授かった神器。
それが、いとも容易く破壊される様子が、視界に映る。
(なんなんだ……。なんなんだ、あいつは!)
「お前には特等席を用意するさ。<創造>」
ユウキが放つ黒い魔力が編まれ、形を成していく。
魔法で作られたのは、十字架。
王を丁度貼り付けにできそうな、黒き十字架だった。
「すぐに用意する。しばらく寝てろ」
(何を言っている……?)
そんな疑問を心の中で呟くよりも早く、
王の意識は闇へと沈んでいった。
◆ ◆ ◆
眼下に映る、広大な国。
数百年を掛けて、人類が成長を遂げてきた証の1つ。
そして、俺が守るために戦った、本来帰るはずだった故郷。
今はそれが、ひたすらに憎い。
この気持ちを語り始めれば、どれほど時間があっても足りることはないだろう。
隣には、黒き十字架に貼り付けにされている王の姿。
俺たちは、王城の真上を飛んでいる。
<透明化>という魔法を使っているのは、言うまでもない。
「うん……?」
「起きたか、王様」
「ここは……? ────うわあぁぁッ!!」
王も、目が覚めたようだ。
俺は、<透明化>を解除する。
もちろん、王のは解除しないが。
「な、何を始めるつもりだッ!?」
王の戯言など、気にしない。
突如天に現れた、厄災として。
俺は、右手を上に上げる。
「お前の国は、一瞬で終わる。指を咥えて見ていろ。────<漆黒天破>」
その上に描かれる、小さな黒き魔法陣。
それは大きさの割には、力強い煌きを纏っている。
輝きは、次第に強くなる。
その魔法の発動を、迎えるように。
訪れる災厄を、祝福するように。
「ねぇねぇ、お母さん。あれなぁに?」
「ん〜? どれどれ〜?」
あるところでは、母子が。
「なぁ、なんか空飛んでねえか? あの黒いやつ」
「んぁ? あぁ、なんだありゃ?」
あるところでは、冒険者たちが。
「ねぇ、あなた。あれ、綺麗じゃない?」
「あの黒いのか? 綺麗……君のほうが綺麗だよ」
あるところでは、カップルが。
彼を──”人類最強”を、目にした。
空を飛ぶ、黒い”何か”として。
決して、”人類最強”だとは、思わずに。
そして、次の瞬間には。
破滅の雨が。
絶望が。
全ての国民の上に、降り注いだ。
魔法陣が光と共に消え、代わりに漆黒の小さな塊が、王国の上空に現れた。
その数は、数えるのが億劫になるほど。
石ころのような大きさだが、異質を思わせるには十分だった。
だが、誰がそれを認識しただろうか。
いや、確かに認識はしただろう。
しかし、その時には既に、”黒”は地を穿っていた。
落下する塊は、その大きさ以上の力を確実に持っていただろう。
家々を破壊し、容赦なく人々を貫いた。
人々に逃げる時間など与えることなく。
災害が、通り過ぎたかのように。
「なぁ、王様」
俺は、眼下を見渡しながら口を開く。
映るのは、破壊された王国の様子。
守られた平和が、跡形もなく崩れていく様だった。
「ひ────」
「安心しろ。まだ全員が死んだわけじゃない。……あぁ、ここからだとよく見えないか。これならどうだ?」
現れる、複数枚の半透明な板。
そこには、王国の様子が映っている。
「な───」
ある場所では、人々が国の外へ逃げ出そうと、駆けている。
「きゃあぁぁぁぁ──────!」
という悲鳴。
赤子の泣く声。
ありとあらゆる声が反響しながらも、人々は我先にと国の外を目指している。
「あの──! どいてくれませんか!?」
阿鼻叫喚の中、何かを探すように歩く人もいれば。
「おい、どけ!」
年寄りがいようと関係なく、前へ進む屈強な男もいる。
その誰もが、恐怖から逃げようと、国の外を目指しているのだ。
地獄、とでも言えばいいだろうか。
破壊された家々は、瓦礫の山となり、人々の行方を阻み。
人の流れもまた、泣き声と悲鳴を生み出している。
兎に角、自分だけは助かりたいという一心で、人々は前へ進み続けていた。
またある場所では、悪魔を討伐せんと、立ち上がった人々がいた。
空を飛ぶ、黒い”何か”。
あれこそが、伝説に残るような力を持つ、悪魔なのだと理解して。
それを討伐し、世界に平和をもたらそうとしているのだ。
その推測が正しいかどうかはともかく。
”人類最強”の討伐に向かうほどの力はなかった、騎士たちは立ち上がった。
瓦礫に潰されて死ぬ人々。
黒い塊に貫かれて死ぬ人々。
彼らの敵を取ろうと、剣を持ったのだ。
「だが、そのすべてが無駄だ」
「お前は──悪魔か……?」
「国の外に出れないよう、結界を展開してある。どれだけ逃げようと、逃げられはしない」
「本当に……皆殺しにする気なのか?」
「お前が殺そうとしたんだろう? 当たり前じゃないか」
「やめろ…………」
「まずは抵抗する奴らから殺そう。──<漆黒天破>」
再び現れた黒い塊は、抵抗勢力の集まる場所に集中的に砲火される。
剣を取った騎士たちを、ひとり残らず貫いていくのだ。
「やめろ………………!」
騎士たちの意思など関係なく、彼らが死ぬのには1秒とかからなかった。
「次は……街を燃やし尽くそうか」
「やめてくれ…………」
「<無限の煉獄>」
紅の魔法陣。
紅き閃光と共に、街は炎に包まれていく。
眼下に映るは、地獄。
街を満遍なく包む炎は、当然、人々を殺している。
断末魔さえも許さず。
ただ、人々は認識と同時に、死を迎えているのだ。
「後は、王城だな」
「もう……やめてくれ……」
「<隕石>」
ドゴゴゴォォォォ………
かつて、自分を殺そうとした魔法が、王城へと降り注ぐ。
1000度を超える、巨大な隕石が、国の象徴を破壊せんと、迫っていた。
「ああ………………」
ドゴォォォンッ!!
と。
轟音と共に、王城に着地した隕石は、一瞬にして王城を瓦礫の山へと変えた。
かつての原型はなく、その姿は、民家と変わりはない。
「なんなんだ…………」
「これで皆殺し、だな」
「なんで…………なんでこんなことをした?」
力なく、項垂れながら言う王。
そんな分かりきったことを聞く王に、俺は苛立ちを隠せなかった。
「お前が俺を殺そうとしたからだろ? 忘れたとは言わせないぞ? 最初から騙してたことをな」
「それは……」
「それは、なんだ? 言い訳なんて聞く気はない。お前も国民同様、死ね」
王とこれ以上話すのは、億劫だ。
「何をする気だ? …………ッ!?」
十字架に魔力を流し込む。
瞬間、十字架は眼下へと勢いよく落ちていった。
「うわあぁぁッッッッ!!!」
そんな声を響かせていたのも束の間。
グチャッ
と。
そんな音と共に、王は絶命した。
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次作はあるか不明ですが、一応構想だけは……。
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