ぬいぐるみたちとマフラー
お月様が夜空にぷかぷか浮かんでいる間、みんなは暖かいベットですやすや眠らなくてはいけません。それなのに、良い子の女の子がすやすや眠っている横で、何やらごそごそと動いている子たちがいます。
女の子を起こさないようにこっそりベットから抜け出してきたのは、女の子が大切にしているぬいぐるみたちです。
「起きてないかな?」
「大丈夫、大丈夫!」
ぬいぐるみたちは小さな声で話し始めました。どうやらぬいぐるみたちには女の子が寝ている間にやりたいことがあるみたいです。
「よーし、みんな準備はいーい?」
「はーい!」
「じゃー、マフラーを作るぞー!」
「おー!」
ぬいぐるみたちは、冬になって寒そうにしている女の子のために、今夜マフラーを作ってプレゼントするみたいです。
「えっさえっさ、はっこぶぞはっこぶぞ!」
掛け声と一緒に重たい道具を持つのは、1番の力持ちのクマのぬいぐるみのベディです。荷物をみんなも力を合わせて運び終えたら、さっそくマフラーを作り始めます。
「よいしょ、よいしょ!」
ぬいぐるみたちの小さな体では女の子のマフラーを編んでいくのは大変です。みんなで息を合わせなければいけません。そこで、小鳥のぬいぐるみのピーニャが空を飛んでみんなに指示を出します。
「うん! いい感じだよ!」
みんなで頑張ったおかげで早く作り終えることができました。
そんな時、うさぎのぬいぐるみのラビィが長い耳で何かの音を拾いました。
「みなさん! しー!」
みんなで息を潜めて、耳を澄ませます。聞こえてきたのは大人たちの話し声です。
「大変だわ! 見つかったら怒られちゃうかも!」
そうです。こんな夜遅くまで起きていたら怒られてしまうかもしれません。もしかしたらせっかく作ったマフラーを取られてしまうかもしれません。突然のことにぬいぐるみたちは大慌てです。
ガチャンッ‼︎
あっちへこっちへ動き回っていた犬のぬいぐるみのワンダが花瓶を倒してしまいました。
「ああ! マフラーが‼︎」
花瓶に入っていた水がマフラーをビシャビシャにぬらしてしまいました。なんということでしょう。ビシャビシャなままでは女の子の枕元に置くことができません。ぬいぐるみたちは悲しくて泣き出してしまいます。
「泣くのはまだ早いぞっ」
ぬいぐるみたちが顔を上げると、ぬいぐるみたちのボス、猫のぬいぐるみのミアが立っていました。
「これで乾かせば大丈夫だろっ」
そう言って引きずってきたのはドライヤーです。
「みんな、マフラーを広げるぞっ」
さっそく乾かし始めます。ドライヤーはとても重いので3匹がかりで支えます。あっちへふらふら、こっちへふらふら大変です。他のぬいぐるみたちはマフラーをおさえます。ドライヤーの強い風で飛んで行かないようにするためです。軽い子は飛ばされてしまうのでふんばっていないといけません。
そして、ようやくマフラーを乾かすことができました。
では、最後に重大な仕事があります。それは女の子を起こさないようにベットの上に戻って、マフラーを枕元に置くことです。
「よいしょ、よいしょ」
起こさないように小さな声で掛け声を出してマフラーを運びます。女の子のベットのすぐ近くまで来ました。女の子はすやすや変わらず眠っています。起こさないように元の位置に戻っていきます。そして、最後にミアが枕元にマフラーを置きました。
ぬいぐるみたちは眠ります。女の子の喜んだ顔を思い浮かべながら。