2-1 先遣隊救出
「はい、おみやげ」
友人の譲治は、くしゃくしゃの金属片を差し出した。
「え、本当に持って来てくれたんだ」
手に取った破片は、かなり風化していた。長い歳月、強烈な太陽光と風雨にさらされていたのが、容易に想像できるくらいだ。ざらざらの片面はジュラルミンの生地で、ひっくり返すと裏側には半透明の緑色が塗られていた痕跡がある。
譲治がグアムに遊びに行くというので、お土産に帝国海軍航空隊の残骸が欲しいと云ったら、本当に持って帰ってくれたのだ。
「この塗装は青竹色だろうね。海軍の機内色だよね。何の部品なの、これ」
「ホテルの中庭に飾ってあったエンジンから引っ剥がしてきたんだ。プッシュロッドがV字だったから、三菱のエンジンだと思う。シリンダーの導風板だよ。」
「へー。じゃあ火星エンジンか金星エンジンだね。何の機体だろうか」
「金星エンジンの使用機体は、大戦末期の彗星艦爆くらいだから、グアムじゃあまり考えられないかもね。となると火星だけど、二式飛行艇か局地戦闘機の雷電もありうるけど、数がすくないかも。そうするとやはり一式陸上攻撃機かな。」
手のひらの中の風化した破片が、かつての一式陸攻の一部だと思うと、本当に感無量だ。対戦劈頭、イギリスの誇りである不沈戦艦「プリンス・オブ・ウエールズ」および巡洋戦艦「レパルス」を撃沈して、世界の海戦史の一ページを飾った、あの一式陸攻だ。長大な航続力の代償に、防御力ゼロのワンショットライターの汚名を持ち、一撃されれば炎の翼となる一式陸攻だ。超人的な技量で、プロペラの後流で海面が波立つほどの超低空夜間雷撃を敢行した一式陸攻。そして、あの悪名高い人間爆弾「桜花」搭載母機として、多くの若者たちの生命と共に散った、あの一式陸攻だ。
この破片、実はヤバかった。手に取った瞬間、一瞬だが意識を持っていかれたのだ。見えた光景は5・6人の車座。何か真剣に話し合っている姿。夕日をバックにしていたから表情は見えない。たしか帽子をかぶっていた。もしかしたら飛行帽だったかもしれない。え?一式陸攻のペア?(海軍では3名以上でも、クルーを「ペア」と呼称する)
またヤバイ世界が始まるのか。
最後まで、読んで頂けたことに感謝いたします。
続きも、楽しみにしてください。
この作品は、
元就出版社から出版されている(海軍特別救助隊 戦艦「陸奥」救済作戦)の続編になります。
興味を引くことがあれば、ご購入いただければ幸いです。