3 ミルフィーユの瞳
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「お母さま、どうしてみーちゃんの瞳は隠さないといけないの?」
幼き頃、ミルフィーユは1度だけ亡き母親に尋ねたことがあった。亡くなった父親に代わって必死になって育ててくれていた母親は、亡くなった父親と一緒だったミルフィーユの瞳を必死になって隠させていたのだ。
生きることさえぎりぎりの生活費を切り詰めて、高価な魔道具を購入してミルフィーユの瞳を隠させていたことは、ミルフィーユにとって不思議でしかなかった。
「それはね、みーちゃんの瞳が特別だから。その瞳はずっと隠していないといけないのよ。ただし、誰かを守るために必要なのだったら、躊躇いなく見せない。その瞳は、みーちゃんとみーちゃんの大切な人を守ってくれるわ」
この時、ミルフィーユは母親の言っていることの半分も理解できなかった。けれど、必死な様子の母親から隠すことが正しいということは分かっていた。
だから、ミルフィーユはアフォガード家の人間に拾われるまでも、そして拾われてからも限られた人にしか決して瞳を見せなかった。
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(こんなことでバラすなんて馬鹿みたい。でも、わたくしはこれ以上わたくしの大切な人たちの尊厳が踏み躙られるのが許せないの。ごめんなさい、お母さま)
鮮やかなアメジストの瞳を晒して堂々と立ったミルフィーユは、貴族たちからの驚愕の視線を軽々とかわしていた。
「な、な、そ、そのひ、瞳は………、」
「えぇ、王家の瞳よ。わたくし、王家の庶子ですもの」
後から知ったことだが、ミルフィーユの両親は駆け落ちだったらしい。学園で出会った父親と母親は、当時王弟と男爵令嬢で、当然大きな身分差が立ちはだかったらしい。そして母親の結婚が決まったところで、両親は駆け落ちしたと聞いた。
よってミルフィーユは貴族と王族の間に生まれた子供だが、扱い的には庶子なのだ。この秘密は、アフォガード侯爵家と王家、そして元婚約者カカオ・アーモンドの実家のアーモンド公爵家しか知らなかった秘密だ。
このことに気がついた貴族はとても少なかった。そもそも、このパーティーは若い年代の集まりだからだ。ミルフィーユの両親を知る年寄りは数人しかいない。
「はあー、こらこらミルフィーユ。勝手に瞳を晒してはダメだろう?」
1人の青年が出てきたことによって、事態は急激に悪化をした。
月の煌めきのように輝く短い銀髪に、ミルフィーユと同じアメジストの瞳。精悍な顔立ちをした青年は困ったように腕を組んだ。
「………ごめんなさい、ルイボス王太子殿下」
この国の王太子、ルイボス・クラフティは優しく正義感が強い、ミルフィーユの理解者だ。けれど、今は何故かとても不機嫌そうで、ミルフィーユはこてんと首を傾げてしまう。
「………みーちゃんは気にしなくていいよ。これは僕の問題だから」
「?」
(変なルー君)
ミルフィーユはにこっと笑って周囲を見回し、そして貴族たちに笑いかけた。
「わたくしは汚れた血の流れる庶子だもの。横暴な行為も許されるのよね?」
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