プロローグ
20XX年、世界は一変した。
突如、東京・大阪・福岡・北海道の計4か所に現れたディメンション・ヘミスフィア(以下DH)から未知の怪物が大量に現れ、その襲撃によってこの国は壊滅の危機に見舞われた。
その怪物たちは、後にAnother Dimension Unidentified Mysterious Animal=ADUMAと呼称され、別次元未確認生物と定義された。
最初は、何をふざけたことを言っているんだと鼻で笑っていた同盟国の大統領も、実際のLIVE映像を見たことで、現実に起きている新たな災害だと認識する。
政府からの要請もあり、事態を重く見た米国からの軍事派遣と国防戦力である自衛隊の活躍で、一旦事態は小康状態に落ち着きを見せて、束の間の平穏が訪れていた。
しかし、次元戦争ともいわれたこの戦いで失われた命は双方共に大きなもので、自衛隊及び米軍のみならず、民間人にも多くの死傷者を出すことになった。
アダマの存在とこの出来事が世界中に報道され、各国も注意深く様子を見ている状態らしいが、中にはアダマを軍事利用しようとする国や終戦が見込めない場合、核弾頭を撃って日本ごと消し炭にしようとする過激派も存在するという。
各国の思惑が交差する中、今現在では、スマートデバイスという新兵器を用いて、自衛隊などのごく一部の人間がアダマと協力、あるいは使役することによって対抗しているらしい。
人間にも、いろんな人種や考え方があるように、アダマも一枚岩ではないということだ。
だが、それは一般人である俺たちには、あまり関係のない話だった。
当時、埼玉に住んでいた俺と友人たち数名は、幸いなんとか生き延びることができた。
しかし、DH周辺では何千、何万という人間が殺されたり拉致されたと報道されていた。
アダマに対して恨みを持つものは数知れず、アダマを好意的に思う者は皆無であった。
それもそのはず、日常を壊されて避難生活に追われたり、身内が殺されたのなら尚更だ。
そんなある日、幸か不幸かスマートデバイスを手に入れる機会が訪れた。
近場にアダマが出現し、それを対処しようとする自衛隊に出くわしたのだ。
容赦なく発砲する自衛隊の中で、アダマにスマホのレンズを向ける場違いな者がいた。
しかし、それに気付いたアダマは、彼に向かって一目散に突進し、その胴体を食いちぎらんとばかりに噛みついて、男はその拍子にスマホを落としてしまう。
勢いよく飛ばされたスマホは非常線の張られた俺たちの方へ転がってきて、これが例のアダマを使役する為のデバイスなのではないかと勘づくと、そのまま拾い上げて奪取した。
警察も自衛隊も、更に凶暴化したアダマの対応に追われており、気付かれないうちに人ごみの中から友人たちとその場を離れ、アダマの対処は彼らに任せることにした。
それには、予想通り『ADUMA』と書かれた見慣れないアプリが組み込まれており、早速試しに起動してみるも、よくわからないので機械に詳しい別の知人に尋ねることにした。
彼によると、このスマホに搭載されたレンズが特別なもので、そのレンズと例のアプリを通して撮影すれば、アダマを1体封じて使役することができるのだという。
とはいえ、全国に現れた大量のアダマに対して、たった1体では多勢に無勢だ。
何より、一体誰が持つのかと、友人たちの間でも戦争が起こりそうな予感はしている。
そこで、せっかくのチャンスを生かす為、機械関係に強い知人とそのコネを伝ってデバイスを解析し、量産あるいは改良版を作る目途を立てた。
だが、少数精鋭の開発チームの頑張りも空しく、予算不足が祟って用意できたのは4つ。
政府や自衛隊に訴えかけたり、スポンサーについてもらう企業を集めるという案もあったのだが、開発チームの中にはそれらをあまりよく思ってないものも多い。
自衛隊の落とし物を拝借したことも、知られるわけにはいかなかったので、尚更である。
そして、当然その改良版のデバイスを一体誰が持つのかという話になり、穏便な会議の末、4人の若者の手に委ねられることとなった。
それは、開発に携わった者に所帯を持つ者が多く、身軽に動けないのが主な理由だった。
4人での相談の上、それぞれが別の地方のアダマを中心に対処していく方向になった。
北海道・東北地方担当が森舎 一輝、近畿・中国地方担当が糸満 翼、九州・四国地方担当が呉羽 小次郎。
そして、関東・中部地方担当が、俺――氷室 将也に決まった。
無鉄砲な若者たちは、数日中に荷物をまとめ、我先にと別れも惜しまず旅立っていった。