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第六話/血と肉と



ぬるりとした感触と生温かい赤い色。

右手に纏わりつく血肉を振り払い、ラールは口の端を歪めて笑った。


整った顔立ちに浮かぶのは獰猛な笑み、肉食獣の笑みだ。

縦に伸びた瞳孔が見据えるのは男達、……もとい、吸血鬼の群れ。


十数程の吸血鬼達は皆同じ赤い瞳でラールを見詰めていた。

年齢層にバラつきは無さそうで、見た目だけで言えば若者達と言って遜色はない、が……その実、不老長寿と噂される吸血鬼の歳はわからない。


だが、血気盛んな様子を見るに若いのだろう。


「来いよ、掟破りは殺して喰うんだろ?」


ラールの挑発に吸血鬼達はニヤリと笑い、次の瞬間には雄叫びを上げて一斉に走り出した。

夜の冷えた空気を切って先頭を走るのは、禿頭の大男。


駆け出す勢いのままに振りかぶった拳をラールへと叩き付ける……が、ラールは僅かに上半身を反らして拳を避け、打撃が外れ勢い余って前のめりになった大男の顎へと右拳を繰り出す。下方からの一撃、所謂アッパーは大男の顎を打ち砕いた。


余りの威力に大男は前のめりから後転し倒れ、その巨体を踏みつけてラールは跳躍。

紅髪を夜風に靡かせ、月を背に跳ぶラール。


その長くしなやかな脚から続く、革短靴の底が短髪の吸血鬼の顔面を踏み抜き、頭蓋が砕ける音と共にラールは着地。

身体全体を沈め、着地の反動を殺したと思えば同時に飛び上がり、眼前の吸血鬼へと拳を繰り出すラール。


先と同じように、下方からの拳で迫る吸血鬼の顎を粉砕。

更に、降り切った拳を斜めに振り下ろして別の吸血鬼の頭部を叩き潰す。


 「烏合の衆だな!!

 あぁ、鳥目は夜になったら何にも見えねぇか!!!!」


一挙手一投足毎に砕ける骨と肉。

飛び散る赤。


血の赤斑にその身を染めて拳を振るう紅髪の青年は、獰猛な笑みを浮かべたまま。

人間の範疇を超えた身体能力を持つ吸血鬼の群れを圧倒的に蹂躙するのは、紅き龍の子。


 「吸血鬼と言えど、頭部を潰されてはひとたまりもないな……」


血と肉と臓腑が撒き散らされるその様を、店の出入り口から見詰めながら金シークは呟いた。

数分も掛けずに吸血鬼の群れを全滅させたラールの姿は、血と肉にまみれており、その周囲は屠殺場の如き有り様だった。


その様子をリィゼに見せない様にも、シークは店の出入り口を塞いでいた。


 「粗方片付けたか……流石にクセェ」


濃淡斑な赤に身を染めながらも、自分のモノではないソレに顔をしかめるラール。

右拳の血を振り払うと同時に、大気に含まれる魔素を吸い込んで魔力に変換。


魔素を魔力に、翡翠の瞳を閉じるラール。

そして、酸素を基に浄化の炎を静かに吐き出して自身を包んで清めていく。


淡く燃える薄青の炎が、染み付いた血と纏わりつく肉を焼いていき、熱で揺れる夜気が静まった頃。

ラールはその瞳をゆっくりと開いた。


ーーーーー


宿屋であてがわれたのはさほど広く無い部屋で、ベッドにリィゼは横たわっていた。

その斜め前の古びたソファに深く座るルイが口を開く。


 「怯えているのか」


投げかけた言葉にリィゼは返さない。

“七大魔王と友達になる”そんな夢を持って飛び出した旅で、魔物に遭遇する事は多々あった。


その旅にシークがリィゼを守っていたが、今回は“違う”

様々なイノチアルモノが生きるこの世界で、人間と同じ形をしながらも人間ではない種族の命を奪ったラール。


先の一件は自衛の為、とも言えるがリィゼは受け入れれない。


 「むやみやたらに命を奪っていた訳ではないが、ラールが戦いを楽しんでいた事は事実だ。

 ソレを受け入れれなければ共に旅なぞ出来んな」


だが、ルイの言葉通りの事を受容しなければ共に旅をするのは不可能だろう。

昨夜交わした共に旅をする約束はたったの一晩で途切れてしまうのか、リィゼは答えを出したく無かった。


 「私は……」


受け入れるか、否か。

リィゼは何とか答えを、声を絞り出そうとした、その瞬間。

 

月明かりが射し込む部屋の窓が砕け散った。


ーーーーー


静寂を破る破砕音と室内に散る硝子片。

それらを踏み砕くのは、重厚な鎧を纏う黒い影。


不意の出来事にベッドから飛び起きるリィゼと対称的に、ソファから立ち上がらずに目を細めるルイ。


 「何だ貴様は」


 突然の侵入者、2メートルは超えるてあろう巨躯の黒影へとルイは問い掛ける。


 「ふしゅー……ふしゅるるる」


しかし、ルイの問い掛けに黒影は答える事はなく、息を漏らすだけであった。

乾いた血肉のこびり付いた黒鎧、鎧兜の口元は塞がれており、爛々とした赤色の瞳が揺れている。


その見開かれた赤瞳が室内を睥睨、ベッドから立ち上がったリィゼへと向けられたと同時に新たな破砕音。


 「リィゼ!!!!」


破砕音の元は蹴破られた扉から。

勿論ソレを成したのはラールで、蹴破った勢いのまま室内へと転がりこんで跳躍。

吐息を漏らす黒影の顔面へと跳び蹴りを打ち放った。


しかし、人の頭など簡単に粉砕する威力を秘めた蹴りは兜を揺らすのみで、黒影は僅かに首を傾げたまま。

その視線はリィゼから離れず、ラールに続いて部屋に入ってきたシークが赤瞳から白い礼装の少女を庇う様に間に入る。

 

 「何だテメェ」


蹴りを受けても身動ぎしない黒影へとラールは敵意を向け、先のルイと同じく問うが、答えはない。

しかし、答えはないも応えはあった。


 「ふしゅる!」


と、言う息と共に無造作に振るわれる拳がラールへと向かい、肉を打つ音が響く。

圧倒的な剛力を持って放たれた拳に対し、両腕を交差して受け止めた筈のラールが吹き飛び、壁に叩き付けられた。


更に、黒影はその鈍重そうな見た目からは想像出来ない速度で動き、リィゼを庇うシークへ突進。

先の拳よりも遥かに威力のある体当たりでシークを吹き飛ばす。


鎧を着ずとも決して軽くはないシークの身体が大きく吹き飛び、叩き付けられた壁を貫通して隣室へと消える。

その衝撃と共に粉塵が室内に舞い上がった。


 「シーク!?」


遅れて駆け付けたソラが粉塵を手で掻き分けながら仲間の名を呼ぶも、返す声は無い。

そして、シークやラール、ルイではない者……リィゼの声が返事とは別に室内に響いた。


「嫌ァァァ!」


女子特有の高い声が粉塵を裂いて響き、悲鳴と共に動く影が一つ。

先の巨漢が侵入してきた窓から新たに小柄な影が飛び入り、リィゼを抱き抱えてその背から伸びる翅を羽ばたかせていく。


大小二人、鎧を纏った影の目的はリィゼの誘拐であり、それに気付いたルイは“動かない”

何故ならルイよりも先に、速く、動いた者が居たからだ。


 「うるううああああ!!!!」



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