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第四話/旅の扉




薄暗い店内に並ぶのは、様々な武具の数々。

吊り下げられた鎧は物言わぬ人影の様にだらりと四肢を投げ出しており、兜の奥で双眸が瞬く。


「今、光ったよ!?」

「気のせいだろ、中身入ってないしな」


おっかなびっくりと言った様子で店内を進むリィゼとラール。

その後ろではシークとソラが“曰わく付き”と値札に書かれた長刀を見つめている。


「これは……芸術性がありますね」

「あぁ、東方の妖刀だろう」


次の目的地、目指す先を群青の街と定めた一行は今、旅の準備としてこの街で一番怪しいとされる武具屋に居た。

勿論言い出したのはラールであり、本人はご機嫌な様子で商品を眺め、手に取っている。


紅髪の青年が手にするのは緩く反った刃の短刀で、簡素なモノだが作りは頑丈そうだ。

カトラスと通称されるその短刀を二本、棘が生えた鉄球が鎖によって柄に繋がれた見るからに“ヤル気”しかない武器、フレイルを一振り。


「カトラス一対と短剣一本、フレイルに投げナイフを一束。

甲殻鎧は軽めのを……後はその奥にある長刀を言い値で」


シークとソラが先に各々会計を済ませた後、ラールはリィゼと共に店内最奥にあるカウンターへと足を運んでいた。

カウンターを挟んで二人と対面に座る店主は初老の男で、黒く焼けた肌に浮かぶ目がギョロリと動く。


「さっきの鎧の兄ちゃんも中々なモノを買ってったが、アンタもか」


筋骨隆々とした身体を揺らし、店主が笑った。

口元から見える歯は眼球と同じく白で、薄暗い店内に厳めしく不気味な顔が浮かぶ。


ラールが欲しいと言った長刀は店主の背後に飾られているモノで、店主は振り返る事無く続ける。

 

「銘無しの魔剣。

術式干渉用の宝珠が四つ装着出来るが……今嵌まっているのは一つだけだな。


何故かって?刀鍛冶がコイツを完成させる前に病で死んだからだ。

未完の一振り、今まで何人もの客がコイツを買ってったが……結局この店に“戻ってきた”

そう言う事だが、良いのかい?」


呪われてんだぞ、と笑みを深くする店主へ、ラールもまた同じく笑みを向けた。

その隣でリィゼが身を小さくしているものの、ラールは気にしない。


「俺が買ったら、もうその剣はここには戻って来ねぇよ」


ラールが浮かべるのは悪戯めいた、されど獰猛な笑み。

笑みを深くするラールは金貨が入った革の小袋をカウンターへ置き、店主から長刀を受け取る。


店主が代金を計算している間に購入した物品を装着していくラール。

ラールが鈍い銀色の甲殻鎧を装備し、長刀を腰から下げたと同時に会計が終わり、リィゼが釣銭を受け取った。


「んだらば貰ってくぜ」


そして、長刀の柄頭を満足そうに撫でながらラールはリィゼを引き連れて店を後にした。


ーーーーー


「良い見映えじゃないか」

「甲殻鎧だ、軽いし割と好きだぜ」


武具屋を後にし、歩く一行。

その先頭はシークで、横に並ぶラールが今先程購入した物品について話を続ける。


その逆には長外套を纏ったリィゼ、続くのはソラと……最後尾のルイ。

昨日の武闘大会における優勝者と準優勝者にざわめくメインストリート。


進むラール達に住人や街人が視線と声を投げかける。

大会の余韻に満ちた街中、ざわめきを超えた喧騒の先に辿り着いたのは灰砂の街で一際高い尖塔で、その麓で五人は足を止めた。


「これが、“旅の扉”なんですね……」


尖塔の麓、巨大な砂岩で作られた門戸を見てリィゼが声を漏らす。


「あれ、リィゼは知らねーのか?旅の扉……見た事ねぇの?」


リィゼの声にラールは少し驚く。

この広大な多次元世界において“旅の扉”は重要なモノ、都市や街を行き来するに使うのは至極当然、当たり前なのだが……


「実は、初めてなんです」

「ワケ有りなのさ。

ウチの姫様は今日初めて、旅の扉を使うから説明してあげて欲しい」


リィゼの答えにシークは苦笑いで続け、ラールへとウインクを投げた。


「ワケ有りねぇ……初めてならちゃんと見とけよ?」


首を反らしてシークのウインクを避け、ラールは胸元から金額の細鎖を取り出す。

鎖の先には“青の鍵”が連なっており、紅髪の青年は意外にも長く綺麗な指先でソレを摘まんだ。


青い水晶が埋め込まれ装飾された一つの鍵を、ラールは門戸の鍵穴へと差し込んだ。

するり、と滑らかに差し込まれる鍵が根元まで入ると同時に、砂岩製の門戸がその色を変える。


灰砂から鮮やかな青へ、透き通った鮮青は差し込まれた鍵を中心にして揺らめいた。

差し込まれた鍵の情報を読み取り、対となる門を出現させるのが旅の扉なのだ。


多次元の世界が重なり合って出来ているこの世界は広大な一枚板で、各地に点在している旅の扉と鍵を使って人々は長い距離を行き来している。


「綺麗ですね……」


揺らめき輝く鮮やかな青にリィゼは感嘆の声を漏らし、その様子にラールは頷いた。


「鍵と扉は一対、門に鍵を挿せば対応する場所に繋がる扉になるんだ。

距離も時間も関係ねぇ、どんなに離れていてもな」


視界一面に広がる青を黒瞳に映すリィゼ。

揺らめく波紋を見据え、ラールはゆっくりと手を前へ。


水面にも見える“扉”に指先から手首が、そして肘までを入れ、紅髪の青年は口角を上げる。


「行くぜ?」


楽しそうな声。

ラール自身、高位の“鍵”を使うのは初めてであり、“旅の扉”から繋がる新しい街へ行くのは楽しみなのだ。


「行く先には鬼が出るか蛇が出るか、ってな」

「鬼に賭ける。爬虫類は馬鹿蜥蜴だけで充分だ」

「テメェ!だから俺は蜥蜴じゃねー!!!!!」


しかし、何時の間にかラールの隣に立っていたルイが皮肉を零し、誰よりも先に青い水面にも見える扉の奥へと、その小柄な身体を進めて行った。


(青の鍵が繋ぐのは群青の街……“ヤツ”が居る可能性は高い)


ごくごく自然に、何の躊躇いも無く“旅の扉”を使い姿を消したルイ。

使い慣れたその様子にリィゼ以外の一行は続けとばかりに扉をくぐって行く。


残るはリィゼとシークの二人のみ。

躊躇うリィゼへ促しの声を掛け、シークはリィゼが歩を進めるのを待った。

 

「恐いですか?」

「あ、いや……少しだけ」


“旅の扉”を使った事のないリィゼが恐がるのはごくごく自然だろう。

そして、それとは別にリィゼの恐れる理由を知るシークは頷く。


「大丈夫。

今までは“追っ手”を気にして扉での移動は避けていましたが……紅髪の青年、ラールは頼りになりますよ」


話しは終わりです、と金髪の青年は優しい笑みを浮かべてリィゼの手を取った。

そして、二人はゆっくりと“旅の扉”をくぐって行った。

 

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