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第三話/誘い

第三話/誘い




「……七大魔王を殺す、か。

流石に予想外の答えだな」


暖色照明の薄明かりに染まる室内。

微動だにしない機械人形は呼吸すらしていない。


一メートルもない二人の距離、ルイの右斜め前の椅子に腰掛けるシークが薄く笑った。

薄い笑みを苦笑いに変え、金髪の青年が紫紺の少年を見つめる。


シークの鮮やかな青い瞳は照明に染まり、柔らかなモノになっていた。

しかし、対する少年……ルイの瞳は深い紫のまま。


「この世界を統べる七人の王。

それらを殺す……夢見る少年の世迷い事で済ましたい所だが、真剣なんだろう?


目を見ればわかるさ。

あのお姫様と同じ位、真剣に馬鹿を言うのは嫌いじゃない」


深く、暗い紫紺の宝玉。

見た目は小柄な少年でありながらも、“それ以上の存在”である事を示すその瞳。


 

「奇遇にもお姫様、リィゼも七大魔王を探しているんだ。

目的地が同じなら、一緒に行かないか?」


七大魔王と友達になる事を目標に旅をするリィゼ、七大魔王を殺す事を掲げるルイ。

相反しつつも、七大魔王と顔を合わせるまでは同じだろう?とシークは続けた。


しかし、青年が浮かべる苦笑いの裏に隠された意味をルイは勿論、見逃さない。


「それはあの蜥蜴……いや、ラールを“戦力”と見ての誘いだろう?」


そう、七大魔王はこの広大な、無限とも言える世界の頂点に座する者達。

絶対的な存在である彼等に近付けば近付いていく程に、旅の危険度は増していく。


圧倒的な力を持つからこその頂座、その存在が友好的である筈はないのだ。

だからこその提案、シークの誘いにルイは一拍の間を置いて静かに頷いた。


「決まりだな、俺もアンタ“も”腹の内は見せないが臍くらいは見せ合えた、と言う事で」


七大魔王を殺すと言う目的の為ならルイは手段を選ばない。

目の前に座る白銀の騎士は堅い“壁”になってくれるだろう。


手札と手数、駒は多いに越した事はなく、誘いに乗ったルイの思惑を察したからこそ、シークは苦い笑いを更に深くした。


ーーーーー


食堂中央のテーブルに並ぶ料理の数々。

焼き立てのパンは香ばしい香りを立てており、積み上げられた目玉焼きとその隣には色とりどりの野菜が山となって盛られている。


宿には明朝の時点で酒場の主から稀代の大食いが居ると連絡が入っており、件の人物、ラールに対応する為に普段とは違う形式……バイキング形式の朝食となっていた。


「寝起きでもよく食べるんだな……」

 

広い食堂の中央に座するテーブル、そして少し離れた窓際の一角で珈琲を啜りながらシークは苦笑いを浮かべていた。

勿論その視線の先に居るのは紅髪の青年で、シークの呟きを聞いてか聞かずかラールは大皿にこれでもかとばかりに料理を載せている。


「馬鹿は脳味噌が小さい分、頭蓋の隙間を埋めたがる」

「うるせー、ルイこそ食えよ。

ガキの内に食わないとチビのまんまだろうが」


食堂橋のテーブル席に料理が山盛りとなった皿を両手に戻るラールがルイへに煽り返す。

煽りつつも席に着くと同時に手羽先を二つ三つ程口に放り込み、骨ごと噛み砕いて一気に飲み込んでいく。


咀嚼と嚥下に続くのは酒瓶を煽る動作、赤い葡萄酒が瞬く間にその中身を空にし、瓶を置いてラールは笑った。


「目指すは七大魔王、楽しくいこうぜ」


少年のようなあどけなさと獣の獰猛さが入り混じったその笑みに、シークは苦笑いを笑みに変える。


「そうだな、楽しく旅が出来ればそれに越した事はないさ」


ラールとリィゼ、そしてルイとシークが言葉を交わして明けた朝。

“一緒に旅がしたいです”と言うリィゼの一声で五人は共に旅をする事となっていた。


「そうですよ、楽しくするのがきっと一番です」


シークの声に同意するソラ。

機械人形とは言えその表情、顔は整った青年であり、パンを小さく千切っては口に運んでいる。

その隣で礼装の少女、リィゼは玉蜀黍のスープを飲み、器を置いて微笑んでいた。


「で、次はどこを目指すんだ?」


リィゼの対面、ルイの隣で成人の太股程はあるであろう大きさのパンを食べ終えたラールが問う。

“七大魔王と友達になる”そう口にし旅をするリィゼとシーク、そしてソラ。


明確な目的を持つリィゼ達は“次”を目指しており、それを確認する為にラールはシークへ問い掛けた。

 

「これから向かおうと思っているのは群青の街。

七大魔王と名乗る吸血鬼の王が統べる街さ」


七大魔王、世界を統べる七人の魔王。

その一人が君主として座する街の名を聞き、ラールは頷いた。


多次元世界、広大な一枚板で構成される世界で色を名とする街は大都市である。

虹の七色、その内の一つである青。

 

「青を冠する街、七大魔王が居を構えるのには相応しいだろうな」


シークの返事にルイも頷く。

所謂“色付きの街”を行き来するには“旅の扉”と呼ばれる転移装置を使う事が一般的だが、その為には“鍵”が必要であった。


この灰砂都市で行われた闘技大会の優勝者にはその“鍵”が賞品として与えられ、それを目的としてルイとラールはこの街を訪れていたのだ。

そして、それはシークとリィゼ、ソラも同じなのだろう。


「青の鍵、まぁ綺麗なモンだな」


首元に掛かる細鎖。

その先にある宝石が埋め込まれた金色の鍵を手に取り、ラールは青晶を陽の光に透かせて眺める。


鍵と言えど装飾施されたそれは高価な貴金属であり、価値も高い。


「蜥蜴の小さな脳味噌でその鍵の価値が理解出来るとは思わんがな」


その様子を見、ルイが静かに挑発する。


「……うるせぇ」


二人にとってはいつも通りの煽り煽られだが、今回は図星だったのだろう。

小さく一言だけ返し、ラールは鍵を胸元へと戻した。


「無くさないように、壊さないように大事にしてくれよ?」

「希少価値で言えばかなりの物ですね。

装飾の度合いから見るに最初期に作られた一本でしょうか、文化的な価値も高いですよ」


間髪入れず、そっと声を掛けるのはシークだが、その顔には笑み。

笑みの理由は勿論ソラの説明であり、ラールは“もういいって……”とうんざりとした溜め息を吐いた。


多分恐らくきっと、このままではリィゼも何かしらの茶々を入れてくるだろう。

それだけは避けたいとラールは口を開く。


「飯食ったら街に出て旅の準備をしようぜ、闘技場の街だから色々武具とかありそうだし」


開いた口に肉団子を放り込み、嚥下と共にラールは一人頷いた。


「野蛮な蜥蜴だな、貴様にはその小さな肉叉がお似合いだろう」


 そして、頷くラールへとルイは呆れた声を漏らす。







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