第八話「ブラザーズ・オブ・ザ・デッド」
そこは暗い教会の中。
光が身廊へ降り注いでいた。
「あなたが……」
ファウスト。
男の名は全ての人間の中で最も知られているものだった。
アルドラは全身が震えた。畏敬、恐怖、戦慄、それに並ぶ概念──「死」がそこにはあった。
同じくして「死」であるネックレスの飾りが青白く輝き始めた。
「僕が“目”のレヴァナントにあげたものだね。それは強力なものだよ」
「……父から、その話は聞きました」
ファウストは顔色を一つ変えず、まっすぐ彼を見つめていた。
「君はあまり良くない目をしている」
そういうと、ファウストは横たわっているイスキエルドの顔へ手を伸ばした。
イスキエルドは気を失っていた。ただ声を発することもなく、ファウストはそのままスムーズに指を瞼の間に擦り込ませていく。一切無駄が無かった。
ファウストは取り出した彼の眼球を、アルドラへ見せた。
「その利き目と交換しよう」
アルドラは端的かつ、簡単なことを彼に提示される。
肉体的な支配など、彼にとっては造作もなく超越しているものに過ぎなかった。
「そうすれば、父を超えられますか」
ファウストは即答した。
「無理だね。君は全く別の“目”となるんだ」
「──“目”のレヴァナント」
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魔法と、うたた寝の街。魔導都市ミスニア。
210の小島と、首都のミスニアから成る空中連邦国家。
全ての王国の中で最も地図にしづらい国と言っていいだろう。
王国の下部には巨大な魔導石と、生活を送る人間たちの魔力が浮力を供給させ、他の王国からの侵入を防いでいる。
人々の士気が高まっている間は、街中に根を張る街路樹たちも活発に育つ。街路樹たちもまた生きており、浮力はさらに増していく。
最も賑やかだった《世界戦争》以前は、葉の成長が著しく日照権を悪化させ、この浮島全体が墜落しそうになる時期もあった。
今は国力を増し続けるレヴァナントからの支配を免れるようにして、息を潜めている。
そのミスニアは現在、“腐敗者”たちの侵攻を受けている。
リビング・デッドたちは『不老不死』ともされている魔導石の力によって、苦痛を得ることを無視し、腐敗し続けた状態でなお攻撃し続けている。
ある所ではゾンビ、またある所ではウィッチやマミー、もしくはその総称ともされている。
もともと千年人や、島鯨同様に長齢であったこの種族は、《世界戦争》以後、レヴァナントに対するヘイトを高め続けていた。
「競争相手を減らし、自らの種としての価値を高める。ということが狙いデスか。腐った者たちの最期の覚悟に感服しておりマス」
「そしたら何だ?俺が全員ぶった切ればいいんだよな。“アル”」
「いえ。相性が悪いデス。噛まれたらレヴァナントでも心を奪われるのデスから」
「俺らの心を奪おうなんていい度胸してるじゃねえか。なあ、アル」
「そうデスね。でもお兄は、私の体まで壊さないでくだサイね」
「わかってるよ」
小島の一つ。リビング・デッド達の戦火が遠くに見えている。
その様子を眺めている金髪の女性は──1人だった。
あたかもその場に2人で会話をしているように見えた。
しかし、1人でも無かった。
旅を続ける2人の兄のノワールと妹のアルはそこにいた。
今、アルの肉体に、義足のノワールの神経が直結していた。
アルの軍扇を埋めたのはノワールの圧倒的な身体センス。次にヴァイオレンスだった。
氷山の鉱脈に熱血が混ざり込む。
猛烈な爆発を生み出していた。
柵に両足で立ち、片手に剣を構える。
次の瞬間、単騎でリビング・デッド達の群れへと駆け出した。
《痛覚共有》──2人はこの技をそう呼んだ。
体調不良が続いております。皆様もお体お大事になさってください。
ちなみにゾンビというとやはりロメロ監督の映画ですかね。どの作品も本当に面白いのですが、個人的には「ダイアリー・オブ・ザ・デッド」が好みです。もともとこのジャンルが好きなんですよね。賛否両論ありましたが、ロマンあふれる、ワクワクするフィルムワークと導線になっています。ぜひとも。