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レヴァナント・レイン  作者: 宇野鯨
「デッドアンドレヴァナント」
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第七話「魔導都市」



雨が上がり、顔を出した太陽が肌をひりつかせた。

木漏れ日の中、僕は振り落とされないように必死で掴みながら、馬を走らせていた。

3日間ほぼ休みもなく動き続けていた僕は、体力の限界が来ていた。



「レインさん……!あとどれくらいなんですか!?」


「あと半分だ」


「は、半分!?」



次なる目的地は、魔導都市ミスニア。

頑張るんだ。僕のフィジカル。……う、やっぱ無理かも。



「ジャック。一旦あそこの集落で休憩だ」


「え!!!!いいんですか!?」



レインが指を刺したのは、旅人が寄るような小さな集落だった。

二人は馬を停めて、一番近くの酒場に入っていく。

しかし酒場の中はがらんどうとしていた。


──なんだ、誰もいないぞ?



レインはジャックの方に手を置いた。



「ジャック。武道にはどれくらい明るい」


「ブドウですか?」


「よく分かった」



レインがカウンターまで歩いた。誰もいない店の中。

瓶に入った酒は棚にきちんと並べられていて、荒らされた形跡もない。テーブルを指でなぞったが、埃が指につく様子もなかった。

明かりは灯っておらず暗かった。というよりもしかすると留守だったのかもしれない。



『──お客さん、看板は読んだかい?今は締まってるよ』



店の奥から声がした。二人は虚を突かれ、レインは腰の太刀へ手を伸ばした。

少しするとバックヤードの暗がりから、のっそりと顔色の白い、とにかく具合の悪そうな男が出てきた。



「私の店でナマクラはやめておくれ。強盗なら他を当たるといい。近頃は厳冬でね。価値のあるモンはこれっぽっちもないよ」



「ああ。失礼した」



男はカウンターにググッと腰を下ろした。

なぜか彼が現れてから、空気がひんやりと感じた。



「あなたは“吸血鬼ヴァンパイア”か?」



「いかにも」



男は吸血鬼だった。

よく見ると同じ人間と思えないくらい鋭い犬歯が伸びていた。

吸血鬼の男は名前をブルードと言った。

ブルードは毎晩、この酒場に灯を灯す。だから日中の今はとにかく体が重そうだった。



「お前さん、“痕”があるな。おや、お前さんにもかい。お嬢ちゃん」


「お、男だ!!!!」


「これは失敬。目利きなんだが。はは」


「やはり分かるのだな。吸血鬼には血を嗅ぎ分けられるというが」


「ああそうだ。侮っちゃいけねえ。血が大好きなんだぜ、俺たちは」


ブルードはそう言いながら、グラスを拭き始めた。



「水か?」


「ああ、この子に頼む」


「ほう」



レインはコインをカウンターに置いた。

ブルードは眼鏡をずらして彼女の顔を見つめた。灼熱のような紅い目をしていた。

ジャックはブルードから汲みたての水を受け取った。



「え、いいんですか?」


「私を何だと思ってるんだ」



ブルードは特に愛想がいいわけでもなかったが、とりわけ高慢とされている吸血鬼の中では落ち着いた部類だった。彼は静観を貫いており、黙って雑誌に目を通していた。


「お前さんら、ミスニアに向かうのか?」



ブルードはその通りとしか言いようがない質問をしてきた。



「答える必要はないように思える」


「ハッ、勘弁してくれ。どいつもこいつも冷たくなっちまってよ。忠告だよ。ミスニアに行くなら今はやめた方がいい」


「どういうことだ」


「風の噂だが“腐敗者リビング・デッド”とあの国の《レヴァナント》が揉めてるらしい。言ってもいいことなんかないぞ」



レインとジャックは顔を見合わせた。

かえって好都合だった。



「馳走になった」


「おや行くのかい。夜まで待ってもいいんだぜ」


「悠長にしていられるのは今だけだよ。ブルード」


「ハハ。さすがだ。お見通しだったみてえだ。寂しいねえ、久々の生き血だったっていうのに」



ブルードはここに来て初めて歯を見せて笑った。

物寂しい苦笑いだった。

二人は酒場を出る。看板を見上げると、赤い字で『血飲み場ブルード』と書いてあった。

ジャックは思わず引いてしまった。また別な意味で。







それから何時間か森の中を進んでいくと、やがて小さな湖のほとりが見えた。

ジャックもそこで降りると、レインは湖の縁に突き立てられた薄汚いバケツの中にコインを投げ入れた。しばらくすると薄汚いバケツは緑色に発火し、鬼火のようになった。



「え、何ですかこれ」


「まあ見ておけ」



レインがそう呟くと、しばらくして立ち上った霧の奥から甲高い鳥の鳴き声のようなものが聞こえてきた。やがてそのシルエットが明らかになっていく。ドラゴンのような鳥に乗った操手と、ヒモに括り付けられた荷台を併せ持つ、舟だった。

舟はどこからともなく、空中から降りてきた。



「ミスニアまで」


「毎度」


「え、あの」


「そういえば知らなかったな。ミスニアは空中都市だ」


「え」


「一番安いのにした。揺れるぞ、かなり」


「あ」


やばいやつかも。

ジャックを嫌々船に乗せると、操手はパチンと鞭を叩いた。

勢いよく飛び上がった舟。壊れたホウキ。バカのふたつ覚えみたいな揺れ具合だった。もはやこれ、操縦不能ではないか。

それからはとても早かった。ジャックは何度も空中に投げ捨てられそうになったが、とりあえずたどり着くことができた。のか。


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