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レヴァナント・レイン  作者: 宇野鯨
ファウストの再臨
6/13

第六話「終戦の日に」後編

外で書いていたところパソコンにWifiがないことに気づき、遅れてしまいました……

遅ればせながら第一章の完結になります。よろしくお願いします。



「ようやくこの刃が届いたぞ──」



「──イスキエルド」



イスキエルドはそのまま血を吐きながら床に崩れ落ちた。

噴水広場で飛び交った歓声は瞬く間に悲鳴に変わった。

レインはイスキエルドが国民の前に飛び出たその時を狙って、太刀で貫いた。



「な……!?貴様どこからッ──!!!!」



アルドラが舞台袖を睨む。

そこでは既に青い煙が上がっていた。

──この僅かな時間で警備を掻い潜ったのかッ……!?



「アルドラ。降伏しろ」




「く………ッ!!」



左手袋を外し、“悪魔の痕”を露わにしたレイン。

その華奢な体に、悲鳴と罵声がぶつかった。

彼女は床に落ちた剣を拾い上げると、演説ステージにぶら下がった“フクロウの目"めがけて投げつけた。



「前からその旗には嫌気が差していた」



壁に刺さった剣は、旗を突き刺していた。

そのレインを王立軍が取り囲むが、《レヴァナント》である彼女を取り押さえるにはあまりに寂しい人数だった。



「お前らの相手は私じゃない」



軍人たちの多くは逃げ、戦うことを躊躇っていた。

そして彼らの背後を何者かの狙撃が捉える。

──ボルトアクションとは思えない連射性能。

視認するよりも先に撃ち抜かれる。正確無比な狙撃には見覚えがあった。



「……ドラクロアの野郎か……。それでこの機を狙ったのか、レイン」



背中を突き刺されたイスキエルドは壇上で既に身動きが取れなくなっていた。

頼みの“邪眼”も巨体によって起き上がることができない。



「テメエ……」



「私は多くの命を捨ててきた。スラムのことも、そこで働く医師のことも……私は捨ててきた」



「ハ……ッ!!テメエの行動の遅さが招いた結果だろうッッ!!!?ザマみやがれ!!!!」



「お前に言いたかったことがある──」







──私はヒーローじゃない。




イスキエルドは青い光に包まれながら、天を仰いでいる。

あまりに呆気なく崩御したグリース政権を国民たちは逃げ惑いながら知ることになる。セレモニーを襲った“青い光を放つ女”は、既に国民の遺伝子に刷り込まれている。

彼女の所属が《レヴァナント》である──それ以外に説明は不要だった。


レインがイスキエルドへ刃を向けた時、セレモニーの噴水広場が目についた。

散乱した屋台と椅子の中で“牛骨”を被った死運び人グールがこちらをじっと見つめていた。背丈はやや高く、一度見たことがあった。ただ何かチクリと違和感がある。


──何だ?この感じは。



“牛骨”はローブの中から、腕を出した。

無数の紋様と痣に包まれた、筋肉質の腕だった。

“牛骨”は──()()()


刹那──レインの全身に鳥肌が立った。



「ち……っ!!!!!」



レインは咄嗟に飛び退いた。

正確には、飛べる最大限まで地面を()()()()()

そのすぐ数瞬、噴水広場の地面全体を巻き上げるようにして、大きな爆発が起こった。

爆発に伴って大きな衝撃波が生まれた。

レインは衝撃波に打たれるようにして、その場から吹き飛んだ。

噴水広場は瞬く間に消滅し、巨大な砂煙が立ち上った。







郵便局の屋上にいた“雄鹿”は、突如起きた大爆発に思わず咳き込んだ。

ドラクロアは仮面を外した。

噴水広場だった場所が陥落し、そこで穴が生まれた。

とてつもなく暗く、邪悪な、奈落。まるで地獄の底への入り口が生まれたようだった。




「なんだ……アレ」



穴の中に()()()()()

大きな何かが蠢いているのが分かった。すぐにそれを断定できなかったが、おおよそ生き物。それが少しずつ地上を目指そうとしている。

──アレを太陽の下に出しちゃダメだ。


ドラクロアはレバーを引き、装填させた。

照準を覗き込むと、光源を持ったいくつもの青い光が黒い煙の向こうで輝いていた。



『長い1日になりそうだ。すう──』



『──“21グラム”』



ライフルから放たれた弾丸は、脅威の弾速で“何か”へと着弾した。

“何か”は衝撃に対して金属と土砂崩れを混ぜたような鈍い叫び声を上げた。

とてつもなく耳障りな、凄まじく大きな叫び声。



「とんでもない奴が目を醒ましたぞ、レイン」





赤褐色の甲皮膚に、蟹のような二つの鋭い爪、8本の脚に16の複眼が楕円を帯びた頭部に並んでいる。長い尾と“装甲翼ピューリッツァー”はドラゴンを彷彿とさせるが、そこに神々しさは無くただ邪悪な眼がぼんやりと光り輝いている。もしかすると40メートル以上はある巨大な体躯は王国を明らかに見渡していた。“最悪”そのものが姿を現した。あれは──



「──“地壊獣じかいじゅう”だ。地中に眠っていたものだろう。見ろ、かなり腐敗している。恐らくは誰かが死んだヤツから“死”を奪った」



「レイン」



ドラクロアが振り返ると、煤まみれのレインが立っていた。



「そ、そんなことできるわけないだろ……?既に死んだものから死を奪うなんて」



「私たちもはじめは奇跡を信じようとはしなかった」



「な、何が言いたい……レイン」



「牛骨の“死運び人グール”を知っているか?」



「……私の”子供たち”に牛はいない」



「そういうことだ」






『“ファウスト”がいる』



地壊獣は地上まで這い上がると、王国の破壊を始めた。

このまま止めなければ、この王国は崩壊する。

レインは太刀へ一切の「青」を含めた。



「ドラクロア。アイツを倒すぞ」


「……ああ」



レインは地面を大きく蹴り上げた。

おおよそ人間を超えた跳躍。飛散する瓦礫をかわし、屋根伝いに地壊獣へと接近する。

ドラクロアは仮面を被り直した。

──アイツが大戦の頃のままだとしたら弱点は頭。まずはその複眼を撃ち抜いてやる。



『すう……』



青い吐息を帯びた薬莢は、瘴気を放ち始めた。

ドラクロアはレバーを引き、照準を定める。

トリガーを絞ると、その複眼の僅かな“静止”を狙った。



『”21グラム“』



凄まじい勢いで射出された青の弾丸は、ものすごい衝撃を立てて複眼の一つへと迫った。

着弾──蘇った地壊獣の組織は以前ほどの強度もなく、外骨格の境目、神経類の組織までを抉った。


絶叫──体勢を崩した地壊獣の頭にレインは飛び乗った。

レインは頭蓋、そこへ太刀を突き刺した。

左手からはドクドクと燐光が溢れ出した。


“一撃”への限界出力を太刀という器に流れ込ませる。

その瞬間、レインの全身が無数の青に包まれた。厳密には──

──浮遊する精霊に、囲まれていた。



『……』


精霊は太刀へまとわりつく。

間も無くして、レインの攻撃が繰り出される。

4体の精霊たちが吸い込まれていくと、刀身は一転して赤く輝き始めた。



『返霊──“4”』



『──火葬。』



刀身から放たれた凄まじい衝撃は数十倍の体躯を持つ地壊獣の体へ

火炎を“浴びせた”。



「今だッ!!!」



周りは再び爆発と、煙が覆うが、ドラクロアはその一瞬を見逃さなかった。

レインの攻撃は地壊獣の硬い表皮を剥がすための、()()

黒煙の中に光った一筋の青い結晶へトリガーを引いた。



『“21グラム”』



大きな体から飛び出した、心臓コアを撃ち抜いた。

地壊獣は断末魔をあげることなく、木っ端微塵に砕けていく。

──“死んだ”。



『……終わった、いや』





『……始まってしまった』



ドラクロアは仮面を外し、ただ呆然と壊れた街を眺めていた。





 ルベルギー王国に突如出現した《地壊獣》は数分ほど街を暴れた後突然大爆発を起こした。周辺にいた住民は寸前で青い光を見たが、それは自壊前の行動だとされた。

それよりも古の大戦兵器が姿を現したことが深刻だった。国民は再び恐怖に怯え、他の諸国は静観のみではあるが、腹で何を考えているのかはわからない。


イスキエルド国王が崩御した後、以前から連携を取り合っていた反グリース派と「銃」の《レヴァナント》によって再建が行われた。“死”を無償化し、《レヴァナント》と国民たちによる新たな国家が築かれようとしている。

親グリース派のほとんどは国のために動き始めているが、末裔であり一番の側近であったアルドラ・グリースと、国王の遺体は現在も消息を経っている。


── “邪眼”は今もどこかにいる。


そんな顛末にならないように、ドラクロアは目まぐるしい政治力を見せた。金勘定には頓珍漢だが、優秀な“子供たち”と執務にこなしているらしい。

レインは目立つことが苦手だった。


明朝、彼女は頭に包帯を巻いてでも馬小屋に現れることをドラクロアは知っていた。



「本当に行くのか?レイン」



「ああ。元から私の目的は《レヴァナント》を倒すことにある。この国は任せたぞ」



「いや、なんだけどよ、追い出したみたいになっちゃうだろ……」



「そうじゃないのか?」



「あ!?いや……」



「ふっ、冗談だよ。”子供たち”によろしくな」



レインは微笑んだ。

鞍を馬にかけるところでドラクロアは一つ思い出した。

小屋の外へ手招きをすると、背丈の小さい少年が入ってきた。



「それなんだが、こいつを鍛えてやってくれないか?」



少年はレインを黙って見上げていた。

透き通ったブルーの瞳だった。



「名前は?」


「……ジャックです」


「こいつ、お前に憧れてるらしいんだ。いっぱい教えてやって欲しいんだが」


「まあ、できなくはないが……年は」


「14です」



「レイン。ジャックの背中には“痕”がある」



レインは真っ直ぐジャックを見つめた。

断る理由がなかった。




「こいつのことをよろしく頼んだぞ……ファウストも、探してくれ」



「ああ。さあ乗れジャック」



「……はいっ!!」



その言葉にジャックは目を輝かせた。

年相応の子供──その言葉に尽きた。

レインはジャックを馬に乗せ、馬小屋を出た。

外は赤く朝焼けが燃えていた。




(2022/04/14 グリース家の旗印を「鉄の心臓」と誤記。正しくは「フクロウの目」です。)


(2022/4/16 ジャックの年齢を9→14に変更。え、意外とデカくない???)

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