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レヴァナント・レイン  作者: 宇野鯨
ファウストの再臨
5/13

第五話「終戦の日に」前編


記念式典がやってきた。


《世界戦争》の終結し、《ファウストの光臨》が起きた日。

世界各国の《レヴァナント》は、当然この日を盛大に祝っていた。


ルベルギー王国は、どこも賑わっていた。

商店街も、噴水広場の前も、多くの人で賑わっていた。

その手に持った「フクロウの目」の旗印は国王、グリース家のものだった。

街灯、店のガラスにも「目」は貼り付けられていた。

二人は人混みを避けて、商店街を歩いていた。



「全く、趣味悪いな。イスキエルドは。あんなもん振らせてよ」



「……まあ。いつどこで誰が見てるか分からないからな。先を急ぐぞ」



レインは路地裏の方を見やった。

そこでは青い軍服を着た人間があたりを見渡していた。


間も無く式典が行われる。

例年通りイスキエルドはあの噴水広場で演説を始める。

そうなると、彼を狙撃することのできる建造物は限られてくる。



「あの屋上からなら、いけそうだ」



ドラクロアが目をつけたのは広場からかなり離れた、古びた郵便局だった。

郵便局までたどり着くと、ドラクロアはレインに薬莢を一つ渡した。



「なんだこれは」


「お守りさ。まあ受け取っておいてくれよ」



ドラクロアはそう言い残して、立ち入り禁止を敷かれた郵便局の中へ入っていった。

一人になったレインは、計画通り噴水広場を目指した。






「まだ飲むのですか?」


「たりめーだ。今日は世界が我々に跪いた記念の日だ。誰が上かっていうのを国民に知らしめないといけないからな」


「は、はあ」



アルドラは噴水広場に設営された舞台の袖から観衆を眺めていた。もちろん片手には酒を持ち、大きく仰いでみせる。

──もうすぐ始まるというのに、何をやっているんだ。



「アルドラ。お前に渡しておきたかったモノがある」



イスキエルドは彼を手招きした。

訝しげに国王の隣に立つと、また彼は観衆を見やった。

大勢の人間が、張り切れそうな歓声を上げている。


イスキエルドはネックレスを首からはずした。

ボロボロの、ドワーフのような手で楕円のガラスから青い光がぼうっと輝いた。それは息もつかないような美しさであり、また、()()()()のようにも見えた。



「……これは」



「── “死”だ。もうオレには抱えられなくなってしまったからな、お前にやるよ」



アルドラはその美しい瘴気に魅入られ、気を失ってしまいそうだった。

そして気がつく頃には受け取っていた。

青白い光は、瞬く間にアルドラの鼻腔を刺激したかのようだった。



「“あのお方“に言わせてみれば、”死“というのは明確な損失ではないらしい。むしろ通過点であり、物質。簡単に言えば、”死“は消えず、どこかに溜まり続けるらしい」



「旧世界の書物から引用するに、いわばそれは《失楽園》の果実さ。旧世界の神は生き物を作り、自らの庭で愛玩していた。ただ、気づいたんだろうな。生物を作ることは、神ですら罪だということに。結局は神すらも欲深かったのさ。愛玩のために作り出した“生”というのは当然、“死”も発生させた。しかし神はそれを必要としなかったから、どこか貯蔵庫にしまったんだ。そして、貯蔵庫は“死”を抱えきれなくなってしまった」



「その膨大なネガによって生み出された“何か”は爆発──《ルシフェル》を起こし、《アダムとイヴ》を“死”によって被爆させた。つまり、神は一番最初に“平和”を作ることを失敗した存在なんだよ、アルドラ」


「そしてそのネックレスに入っているものは“あのお方”が作り出した貯蔵庫の再現さ。《レヴァナント》はその貯蔵庫を自分の体内かどこかでやってのけるが、これは身につけているヤツに作用する」




アルドラは持つ手が震え出した。

この小さな輝きの中には無数の“死”が閉じ込められている。

そしてそれを今、自分が手にしている。



「どうして今、それを私に」



イスキエルドはふっと、大きく鼻で笑った。

さあな。



「オレはお前に()()()()()()()()()つもりだ。だがそれは全て、“あのお方”の考える“平和”と“秩序”に基づいたものだったことをお前にも知ってもらいたい。今この世界が正しいのか、間違ってるのか、オレが判断することじゃない。よく考えて使うんだ──





──我が息子(アルドラ)よ」




今までの国王の粗暴な振る舞いが、焦ったい親心から来るものだったとは。

アルドラは、なんとも言えない気持ちになった。

舞台袖からイスキエルドが現れる。


彼の背中が徐々に小さくなっていく。不思議な気分がした。



「ありがとう。分かったよ、父さん」



あなたが国王としてやってきたように、私もアナタを、アナタを、アナタを──












──()()()




次の瞬間、壇上に立ったイスキエルドの背中を、黒い太刀が貫いた。

その太刀からは青い光が止めどなく漏れ出していた。




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