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レヴァナント・レイン  作者: 宇野鯨
ファウストの再臨
3/13

第三話「雨と街、私を流して」



 土砂降りの日だった。

 泥が巻き上げられ、土の匂いがした。

 そこに僅かな、血の匂いを《レイン》は嗅ぎつけた。


 今日は街の外からの依頼だった。

 葬送人への依頼は、風の噂によってたどり着く。

 《レイン》はその噂を聞いて、向かっている途中だった。



 それはある一軒家からだった。

 木造の平家。オレンジの暖炉の灯りが家の中から外へ向けられていた。


 コンコン。

 戸を叩くと、若い女が出てきた。



「あ、あの……」



 一目見た瞬間にわかった。

 女は目が泳ぎ、動転していた。

 間違いなくこの家の中に「居る」。



「ゆっくりでいい。私に話せ」



 リビングには女くらいの年齢の若い男がいた。

 男は仰向けに動かなくなっていて、その腹には包丁が刺さっている。


 間違って、喧嘩の末、刺してしまったらしい。

 レインは男のそばへ跪いた。目が開いている。

 ──瞳孔が開いている。



「葬送を始め──」


 ゴッ

 レインが女の方を振り向こうとした時。

 側頭部を鋭い衝撃が襲った。



「この女!?気絶しない!!」



「クソ!もう一発だ殴れ!」



 額から血を流したレイン。

 自分にも未だに解っていない。

 そもそも200年も生きていられること自体、おかしな話だった。



「……すまない」



 ひどい頭痛がする。

 レインは手持ちの金をすべて、床に置いた。

 男女は睨んでいた。もしかしたらこわばっていたのかも知れない。



「すまない」



 レインは扉を開け、そのまま外へ出て行った。

 裏庭には、別の若い女が横たわっていた。

 元の住人だろう。



「……すまない」



 何も手につかないくらい頭が痛かった。

 何もしてあげられなかった。

 雨は彼女の頬を伝って流れ落ちた。



 ▽

 △



 病院につくと、中は荒らされていた。

 レインが廊下を歩いていく。とにかく散乱していた。

 突き当たりに、見覚えのある男が倒れていた。

 とにかく嗚咽が酷かった。咳が止まらない。

 喉奥が腫れ上がっているようだった。



「ああ……クソ」



 やがて視界が閉ざされ、レインはその場に倒れた。



 ▽

 △



 目を覚ますと、さらに暗い場所だった。

 薄い蝋燭の明かりが、かろうじてここが寝室であることを教えてくれた。



『──頭を縫っておいた。発熱があったから抗生物質も投与した』



 部屋の隅に“何か”がいる。

 “何か”はゆっくりと立ち上がり、こちらに歩いてきた。



 ──()鹿()()()()で顔を隠した、細身の死運び人グールだった。



『災難だったな。レイン』



「……グールのお前に何がわかる」



 “雄鹿”は、ハハハと笑った。

 籠った声とカラカラと骨が鳴った。



『こうすればいいか?』



「……?」



 “雄鹿”は頭骨に手をかけた。

 ゆっくりとその仮面を外した。

 露わになったのは、凛とした顔つきの女性だった。

 レインはその金髪をよく知っていた。



「……ドラクロア……?」



「レイン。協力してほしい」



 陽炎に照らされた寝室の揺めき。

 《レヴァナント》の一人、ドラクロア・エコールの姿がそこにはあった。




 ▽

 △



 ルベルギー王国、王室。

 金を大量にあしらった頑丈な扉が開くと、甲冑姿の男が現れた。

 男は天蓋付きのベッドに向かって跪いた。

 しばらくすると天蓋付きのベッドから、巨漢の男が出てきた。



「イスキエルド国王。スラムへの攻撃が完了しました。間もなく大量の難民が生まれるかと思います」



 イスキエルドは、ニヤリと笑った。

 だらしない腹を掻いて、両脇に引っ付いた女を引き剥がした。

 彼はムクっと起き上がって、窓際に立った。



「ああ、愉快〜〜!!」



「あそこにデカい街を作って、国を繁栄させようぞ。アルドラ。大変愉快だと思わないか?住めなくなった男には力仕事をさせ、女子供には体を売ってもらおう。さすればこの国も大きくなり、“あのお方”に認めていただける。どうよ、なんと抜け目のないッ!!!!!」



 イスキエルドは大きな口を開け、喉を震わせた。

 甲冑を着た男──アルドラは冷静に膝を落としている。



「どうした?アルドラ。お前の出世記念だ。そこの女を選べ。()()()だぞ」



「大変感謝しておりますが、私は女なぞ……」


 イスキエルドは黙ったまま、顔をニコニコとさせてアルドラを睨みつけた。

 仕方なくアルドラはベッドの右にいた女を指さす。



「よーし、お前だな」



 イスキエルドはその女を睨みつけた。

 ──その瞬間、彼の“眼光”が、青い光を纏い始めた。



「……ッああああああああ!!!!ああああ!!!!!」



 女の体から、青い光が煙のように立ち上った。

 もがき苦しむ女を、アルドラは静かに見届けていた。

 やがて嬌声も潰れると、跡形もなく女は消えてしまった。



「アルドラ。お前が殺したんだぞ。覚えておきな」



「……はっ」



 アルドラは顔を俯けさせたままうなづいた。

 国王の首には確かに、《()()()()》があった。


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