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レヴァナント・レイン  作者: 宇野鯨
ファウストの再臨
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第二話「死運び人」

おはようございます。今日は更新日ではないですが文字数もそこまで多くないので更新します!



 レインが“葬送人”であることを知っているのは、“葬送人”を利用する者に限られた。


 闇は深まり、ルベルギー王国に長い夜が訪れた。

 この街は《世界戦争》の戦地にもなったが、同盟を組む西側諸国の支援もありそれほどの損害を出さずに終戦を迎えた。その後は鉄や鉱物の採掘で景気を上げた。首都は夜も明るく、人通りも多いためレインは決まって街の外れを狙った。

 路地裏の先には下流階級の人間たちが住む地区がある。

 レインはいつも、ここにある小さな病院に寝泊まりをしている。



「帰った」



「──おや。今日は早いみたいだ、レイン」



 彼は医師のジョン・ファーストブルック。

 このまだ腰の曲がっていない気の難しそうな老人こそ、彼女が“何者であるのか”を知る、一人だ。

 ジョンはレインを見るなり、本と老眼鏡を下ろした。



「何かあったのかね」



「いや……ただの、低血圧だ」



 ジョンは目を丸くさせた。そしてぷっと噴き出した。



「仏頂面のお前でも冗談を言うのか」



「……」



「ハハ、まあそう睨まんでくれよ。待ってなさい。シチューを用意するから」



「いや、腹は別に空いて」



 こういう時に腹の音が鳴るのはお約束だった。

 レインはバツが悪そうに腹を押さえた。



 ▽

 △



 次の日、レインはジョンの依頼を受けた。習慣化していることだった。

 後ろから彼の背中についていく。しばらく歩いていくと、洞窟が見えた。

 二人は洞窟のその先に進んでいく。入り口からは遠のいて、だんだんと暗くなっていくが、今度は何かの気配へ近づいていく。

 遠くで松明のぼうっとした灯りが見える。そこには牛骨と黒いローブで顔を覆った人物が立っていた。そしてその人物の足元には。


 ──血だらけの毛布に包まれた、人間が横たわっている。




『──ご苦労だ。医師。葬送人』



「“死運び人グール”。慣れないな。その仮面、どうにかならないのか?」



『──我らは属さぬ。()()()を』



 “死運び人グール“。

 レインや医師に力を貸す、正体不明の仮面集団。

 チップと引き換えに、死体を人目のつかない場所へ持ってくる。

 レインはこの王国に入ってからその存在を知った。

 ──ということは、私の他にも、私のような奴がいるのだろうか。


 不気味なグールはジョンからチップを貰うと、すうっと洞窟のさらに奥へ消えていった。

 ジョンは膝を立てて包まれた毛布を剥がす。ジョンは眉をひそめさせた。



「……”彼ら”がどれだけの規模を持つ組織なのかは知らないが、医師がいるみたいだ。この人間、病気以外で致命傷はない。治療を施され、鎮静剤も投与されている」



「彼らが敵なのかは分からないが、なぜそんな回りくどいことを。その医師が部下のために運搬させ、報酬を分け与えているのか?」



「彼らにとっては数ある源泉のうちの一つだろう、まあ詮索は終わってからだ」



 レインは左手の手袋を外した。

 紫陽花の入れ墨。その下では確かに痣のようなものが、青い光を放っている。



『 葬送 』



 レインが葬送を終えると、ジョンは眉を顰めた。

 薄々だが、レインもそれが何なのかは大方察していた。

 そもそも葬送すること自体、それほど多くはない。



「ジョン。今月に入って五人目だ。風病が流行してるのか?」



「ああ。だが分からん。この王国を統治してる《レヴァナント》が多くの重傷者や終期患者に“死”を与え、市場を作ったろう。()()()()()()()だな。だから流行病なんてあれば一気に経済は悪化しちまう。闇医者ブラックジャックの私も追われ、貧困区域も病床で溢れかえるだろう」



「その時は私がなんとかする」



「いいや。気をつけるべきだ。特にお前みたいな立場の者はな。どの国の権力者も“死”を高値で売って貴族と貧困層の格差を生み出している。今までならここで革命が起きたが、それは病と共存できる時代の話だ。伝染病でも死ぬことはできない。死を与えない限り、腐敗が進まず、感染者は媒介者ブローカーとなり続ける。この国は公衆衛生が動いてるからまだマシだが、完全に貧困層を見捨てている国だってある」



「お前やグールみたいな裏の人材が必要とされている。いいか。“死”は本当に高いんだ。レイン。死蝋のまま死なない祖父のために家族の女子供全員が体を売ることだってある。対して()()で奉仕しているお前は奴らにとって商売敵同様だからな」



「だから、そうならないように私は、償おうとしているんだ。ジョン」



 レインはそう言ってジョンを見やった。

 松明に照らされた彼女の顔は、陶器のように美しく、()()()()()()()()()

 この表情をされるのが嫌だった。ジョンは白髪頭を掻いた。



「……悪いな。よく分かってるからこそ、お前には油断してほしくないのさ。お前が死んだらグールの生活も、貧困区域もみんな、滅びちまう」



「もしそんなことが起こるなら、私はきっと選択を迫られているんだろう……」



 レインは腰に携えられた太刀をさすった。


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