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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

復縁予告

作者: さとマロ

明日は彼氏とデート、何を着ていこうか、どんなことを話そうか、ちょっと良い雰囲気になったりしてほしい…… 少し高校生染みた妄想を浮かべながら帰宅路を歩く。自販機で買ったコンソメスープを飲み体を温めていると一件のメッセージが届く。


 [春菜久しぶり!! 元気? 俺は春菜と別れてからずっと反省しているよ、明日はクリスマスだけど会えないかな? 山下公園でもう一度告白させてね。]


 そのメッセージは元カレからの物だった。メールアドレスも変えたし引っ越しもした。連絡の手段は無いはず、かなり困ったことになった…… 明日はクリスマスイブ、しかも天気予報は雪でホワイトクリスマスだとネットで話題になっている。そして私、山田春菜(やまだはるな)には今彼が居る、その彼氏はタケルと言う若手プロレスラー、そして来年の2月には海外に無期限の遠征に行ってしまう。


 彼が言うには2年くらいは戻ってこれないとのこと。なら今年のクリスマスは最高の時間を過ごそうと言うことになり横浜の山下公園でデートをしようと約束をした。


 そして肝心の元カレとはいわゆる三年前までバカップルのような付き合い方をしていた、だけど倦怠期が来ると互いに不満が爆発して大声の喧嘩が絶えなくなった。そして私が別れ話を持ち出すと狂ったように怒り、結局近隣の人に警察を呼ばれて一時は丸く収まった、だけどその日から元カレ、智也の束縛が始まった。


 あの日の会話はブルーレイで再生できるくらい鮮明に覚えている。


「いい加減にしてよ!! 同僚の連絡先も消せって言うの!?」


「だって…… 僕は春菜ちゃんを独り占めしたいんだよ」


「止めてよ!! ヒモみたいな生活しているあんたに同僚との連絡をどうこう言われる筋合い無いわよ!! あなたを養うために必死に働いてるんでしょ!?」


「春菜ちゃん聞いてよ、僕見たんだよ? 同僚の斎藤って人とお昼にケバブを買いに行ったって、そしてこれは高田さんが好きだからこれも買っていこうって話しているの…… 山下さんは良い友達なんだってね、良く相談相手になってくれるんだってね」


 私は背筋が凍るような悪寒が走った、なんで同僚の名前を知っているのか、スマホの暗証番号は複雑に変更してあり見ることは不可能。


「僕ね、春菜ちゃんの勤め先の清掃のバイトを始めたんだぁ、これでいつも一緒だって思うと嬉しくて嬉しくて、だけどね…… なんで男の人とご飯食べてるの?」


 その言葉を聞いた瞬間私は身の危険を感じ、外へと逃げる、そしてとにかく走った。智也は追いかけて来ることはなかった、無我夢中で走っていたのでなん駅か通過して周りが畑だったと言うことは気がついてもいなかった。


ーー気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い逃げなきゃ逃げなきゃ逃げなきゃ


 恐怖のあまり涙が溢れてくる、そして段差につまずいて膝を擦りむいてしまった。


「いっ!?」


 高校の体育祭以来の痛み、寒さで痺れるような痛み、そして心のどこかで信じていた彼氏への絶望の痛み。全てが溢れだして暗闇の中でうずくまるように泣いた、その時一筋の光が私を照らした。


「大丈夫ですか? 流血しているけど……」


 大きな体と枯れた声に圧倒される私、だけど彼はゴツゴツとした手を差し伸べて来た。私はその手を取ると「助かった……」と言葉が漏れるとさらに涙が溢れてくる。


「膝から流血していますね、ちょっと待っててください」


 彼は腰のポーチから水筒を取り出して水を私の膝にかけて傷口を洗った、そしてティッシュで水を拭き取り大きめの絆創膏(ばんそうこう)を貼って「これでよし」と一言、私は深々と頭を下げてお礼を言った。


「頭を上げてください、困ったときはお互い様ですよ、でも夜道は危ない、この辺りは畑なので特にね。では気をつけて」


 彼は夜道を走って行ってしまった、いい人だったなぁと空を見上げると流れ星が流れる、私はとっさに「いつかあの人にお礼ができますように」と言おうとしたが「いつ」で流れ星は消えてしまった。


 そして私は高校生の時からの親友に迎えに来てくれと連絡して今日あった智也との出来事を警察に連絡して智也とはカップルから元カップル(疎遠)の関係になることが出来た。

 

 そして数ヵ月後、親友が見てみたいと言い出してプロレスを見に行った。その日会場では選手のサイン会が開かれていた。


「とりあえず一番列の少ない所に行ってみよ、チャンピオンはもう整理券が無いって、ほらタケル選手だって」


「えー、チャンピオン見てみたいなぁ…… エルフ本田選手ぅ……」


 そのタケルと言う選手のサイン会の列には15人程しか並んでいなかった、そしてすぐに選手とご対面の時間が訪れた。

 

「お願いしまーす」


「今日はどこから来たんですか?」


「横浜から……」


 どこかで聞いたことのある声、そう…… あの時絆創膏を貼ってくれた人の声。ろくに顔を見なかった私がその選手の顔を見上げると確かにその人だった。


「あ、あの!! あの時はお世話に……」


「あれ? どこかで会ったことあります?」


「あの、何ヵ月か前の夜絆創膏を貼ってくれた……」


「うーん、ごめんね、俺達プロレスラーは良く頭を打つから物忘れが凄いんだ」


 確かにそうだ、数ヵ月前の事なんて覚えているはずがない、私はサイン入りのタオルを受け取りサインブースを後にしようとした。


 その時……


「今日はランニングしたい気分だ、そうだあの畑近くを走ろう」


「え?」


 私がタケル選手の元へ戻ろうとするとスタッフの人に止められてしまった。


 そしてタケル選手の試合、タケル選手は基本的にやられているだけで気迫も何も感じられなかった。


「あの選手ダメじゃん!! サインもらったのに……」


 私はタケル選手の試合が終わると他の試合には集中することはなくあの畑に行くか行かないか迷っていた。そして結局あの畑で寒空の中タケル選手を待っていた。


 使い捨てカイロが冷たくなってくる、それと同時に気分も冷たくなってくる。場所を間違えたんじゃないか、それとも…… そんなことを考えていると何処からランニングをする足音が聞こえてくる。


「こんばんは、お久しぶり」


「タケル選手!?」


「先程はすみません、選手と言う建前プライベートの持ち込みは禁止なんです」


 私は立ち話もあれだからと言って一駅先にあるファミレスにタケル選手を連れてきて話に花を咲かせていた、そしてお酒も入っていい気分になってこんなことを口走ってしまった。


「私、タケルさんみたいな人すきだなぁー、彼女になりたいよぅ」


「それ酔っぱらっていてノリで言っているだけでしょう?」


「ちがいますぅ本気ですー」


「本当? じゃあお付き合いします?」


 そこから記憶が無い、朝起きると自分の家のベッドで寝ていた。


 ……寝ゲロが口から垂れていたけど


 机には一枚の書き置きが置いてあった、タケルと言う名前が書いてあったから彼が書いた物であろう。


 書き置きには[昨日はありがとうございました、昨日の事が本気ならこのメールアドレスに連絡をください]と書かれていた。昨日のことを思い出して「やってしまった……」と赤面しながらもすぐにメールをしてみた。


「節だらな事はしていないはず…… 大丈夫…… 返信来ないな…… アドレス打ち間違えたかな……」


 結局出勤時間ギリギリまで待っていたけど返信は来ることはなかった。


 全くやる気の出ない仕事、二日酔いで気分が悪い、部長から早退しろと言われて2時に帰宅、スマホを見てみると着信ありと文字、すぐさまメールを見てみるとこれから[よろしくお願いします]と書かれていた。


 こうして私とタケル君のお付き合いが始まった。


 そして現在、元カレから復縁予告のメールが来た。恐怖のあまり取り乱している中私は部屋と廊下を行ったり来たりしながら独り言を喋る。


「どうしようどうしよう!! タケル君に山下公園は中止って言う? だけどホワイトクリスマスだし…… そうだ、動物園に行こう!!」


 タケル君にメールをしてデート先は動物園に変更になった、待ち合わせも現地に変更してこれで大丈夫と安心した。そして現地でタケル君の到着を待っていると予報通り雪が降ってくる、周りのカップルはロマンチックなムードになっていて私も早くロマンチックムードに浸かりたいなと思っていたその時。


「お待たせ!!」


 タケル君が白い息を吐きながら走ってくる。黒くて分厚いジャンパーを着たその姿はまるで冬眠中なのに動物園を抜け出してきた熊さん。


「遅いよー」


「ごめんごめん、コンビニのレジが混んでて遅れちゃった、でもココアを買ってきたよ」


 寒い空間で温かいココアを恋人二人で飲む、元カレの智也だったら「二人ではんぶんこ」とか言ってきて「間接キスだね」と寒いことを言ってくるのだろうと思う、だけど今この空間は二人だけの物、周りのカップルは関係ないし視界にも入らない。


「行こう!! 雪でペンギンが喜んでる姿見たいなぁ」


「昔は白熊が居たらしいけど黒い熊はここに居るから我慢してね」


「私黒の方が好きだよ」


 寒い中木を登るレッサーパンダ、雪の中はしゃぐペンギン、室内でぬくぬく泳ぐワニ。全てが二人だけの物、この時間が少しも長く続来ますように、そう願いながらライオンを見ていると私の名前を嬉しそうに呼ぶ一人の男、その男に見覚えがあった。


「やっと見つけたよ!! 春菜ちゃん昔から良く待ち合わせ場所変えるよねー」


「い、いや…… 智也…… なんでここに」


「その人春菜ちゃんの同僚さん? ダメだよ僕が居るのに同僚とデートに来ちゃ」


「春菜行こう」


 タケル君が私の手を取ろうとしたその時、智也がタケル君の手を振り払い私の肩を掴みこんなことを言い始める。


「僕が悪かったよ、少しずつ束縛は直すからもう一回付き合おう?」


「やめて!! 私も智也のこと好きだったけど重いよ!! もう嫌だよ!!」


「そんなこと言わないで…… ね?」


 タケル君が私の手を強引に引っ張ってこの場を去ろうとする、すると智也が狂ったように笑い始めて近くに居た子供を掴んでポケットから取り出したドライバーを振り下ろそうとする、するとタケル君が物凄い勢いで走り出して智也にドロップキックを一撃、泡を吹きながら倒れている智也はすぐに警備員に取り押さえられた。


 智也は逮捕されたけどせっかくのホワイトクリスマスは危うくブラッドクリスマスになるところだった。そして数日後、タケル君は海外へ遠征に行ってしまった。 


 そして6年後


「ただいまー」


「お帰り、ご飯にする? お風呂にする?」


「じゃあお風呂……」


「その前に灯油買ってきてくれない?」


 あのときの流れ星が私とタケルくんをくっ付けたのかどうかはわからない、だけど私とタケルは二年前結婚した、プロレスラーのお嫁さんは強くなければやっていられないと聞いたことがあるけど本当にその通り、だって月の半分も家には戻らないで試合会場を行ったり来たり、テレビでしか旦那様の姿を見れないし時々浮気をしているんじゃないかと疑ってしまう、だけど帰ってくる日にはお土産のご当地のお菓子が鞄に入っている、そして今日、もうひとつお土産があった。


 そのお土産は光り輝く重たいチャンピオンベルトだった。


「チャンピオンベルトって重たいの? 僕とどっちが重い?」


        ~終~

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