神託
「神具が割れた・・・」
悪魔王は深手を負ったのか世界の境界を越えて逃げていった。
だが災いの世界とつながる空間は閉じてはいない。
神具を失っては空間を閉じることなど不可能だろう。
皆が唖然としたその時、聖女に神託が下った。
「災いの世界は百七十の昼と夜を繰り返した後、この世界から遠ざかる。我が子らよ。世界を守れ」
その言葉を聖女から告げられた神殿と各国の騎士団の長は、災いの世界とつながる場所を囲むように壁を築くことにした。
「あと半年です。それまで世界のために頑張りましょう!」
神具は失われたが、まだ闘志は失われていない。
聖女の言葉に皆は気持ちを新たにした。
その頃天上では女神ティリスが遠見の水鏡の前を行ったり来たりしていた。
「どうしてあそこに異世界の魂を持つ者がいなかったの?それに私が与えた力はあの魔法使いが持っていた杖から感じた。何がどうなってるの。いや、そんなことより地球の神が来る前にあの異世界の魂を見つけないとまずいわよね。名前は確か梨乃とか言ったはず。地球の神が与えた加護の力は他の場所から微かに感じられる。大体の場所しかわからないけど神託を出して探させないと・・・」
「我々は神具をこの世界にもたらした女神ティリス様の使徒リノ様を探している。この街付近におられるはずなのだ。何か知らぬか?」
「はあ神官様、使徒リノ様ですか。あっしが知ってるのはあそこで客を取ってる女がリノって名前だって事ぐらいですぜ」
男は服とも呼べぬような物を着て、道ばたに座り込んでいる女を指さした。
「我々が探しているのは女神ティリス様の使徒リノ様であって小汚い娼婦ではない」
「だからあっしは知らないって言ってるじゃないですか」
「この役立たずが!」
優秀な神官は前線に出ているため、各地に残っている者はいささか質が劣っている。
神官と神殿から依頼を受けた国の役人が捜索したが、使徒リノと呼ばれる人物は一向に見つからなかった。