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第6話  覚悟

よろしくお願いします。






泣き続ける妹を凛はそれからも優しく背中を撫で続き、気が付いた時には既に妹が腕の中で寝ていて、時計をみると時間もいつの間にか午後の四時近くになっていた。ここに入ってきたのは十一時で、決着したのは大体その五分後くらいだと考えれば、五時間近くここに座ってることになる。お互いとも正座に近い姿勢で六時間も・・・・


「やばいかも。しびれてきた」


「ん・・・、あれ?お兄さん?」


楽な姿勢を取ろうと動いたら、どうやら妹を起こしてしまったらしい。妹の方も段々と意識がハッキリとしてきたのか、下半身を気にし始めた。


「・・・・とりあえずのばしとこ?」


「うん・・・そうだね。」


お互いに少し離れて、道場の床に寝そべった。


「・・・・・・・・」


「・・・・・・・・」


無言の時間が過ぎていき、耳をすませば微かに互いの息をする音が聞こえてくる。そんな静寂の時が続き、窓から差し込む夕日の光も段々と柔らかくなって、通っていた中学の下校を告げる鐘の音が聞こえてきた。そして鐘の音が鳴り終わり、道場に再び無音が訪れようとしたときに瑠璃から凛に話しかけた。


「ねぇ」


「なに?」


「本当に・・・・いなくなったりしないでね。」


「・・・約束する。絶対に居なくなったりしない。」


妹に安心してもらうためにそうは言ったが、確かに今の自分はそんな気はさらさらないけど、それはただ単にまだそう思えるようなことがないだけで、将来どうなるかは正直言って自信はない。しかし、ここで黙っていたらまた、妹が泣き出しそうでそう答えるしかなかった。


「だから、心配しなくていいよ。」


「・・・・うん。」


でも、今回のことで妹どれだけ自分のことを心配しているのかが痛いほどわかった。精神的にも物理的にも。これ以上心配させないためには私がちゃんとすればいいんだ。私が・・・・・・・・。


そんなことを考えていたら、横から瑠璃が抱きついてきて、心配そうに凛のことを見た。


「一人で抱え込むのはよくないよ。辛くなったら何時でも私に言っていいんだよ?私が頼りなければママとパパもいるから。もし、いやになったりしたら、気にせずに言ってくれた方が私たちも助られるけど、黙っていては私たちでも気づいてあげられなくなるから。」


「・・・・・うん、わかった。」

・・・・だめだな、私。お父さんもお母さんも辛くなったらいつでも相談していいって言ってくれてたのになぁ。TSは不可逆的な上に、男の場合だと実質的に死亡率が90%近くも病気に罹ったのとほぼ同じであるから、一人で抱え込んで大丈夫大丈夫と言い続けた方が心配されるだろうに。


あの日自分がTSしたと知っても、特に何か思ったことはなかった。実際その翌日もさらにその翌日もなにも思っていなった。


だけど、自分の下着をお母さんが買ってきて、それを試着し、鏡を見たら『君は誰だ?』と、そんな声が聞こえた気がした。部屋を見ても付け方を教えに入ってきたお母さんしかいないし、そもそもお母さんは次になにを履かせようかと下着を選別していたのだ。だから気のせいだろうと無視した。実際そのあとも洗面台や風呂場で自分の顔や裸を見たってなにもなかった。

だけど、その日の夜にとても嫌な夢を見た気がした。気がしたって言うのは起きたらきれいさっぱり内容を忘れてしまったから。ただ、嫌な夢を見たという感覚だけが残り、目覚めがすごく悪かったのを覚えている。その日からだろうか?ネガティブになったり、女になってしまったということから目を逸らしたくなったのは・・・・。幼馴染にどう告げようか?学校生活はどうなってしまうのだろうか?自分はこれから一体どう生きていけばいいのだろうか?そんなことばかり考えるようになった。元から休日は自分の部屋に閉じこもって宿題か読書をしていたから、一日中部屋に引きこもても両親はなにも言わなかった。それに最初の数日はいつもと変わらない感じに過ごしてたことで、両親も心配せずにいた原因になっただろう。


思い返してみると、全部ひとりで抱え込んでいたなぁと凛は思った。そしてなぜか、今こうして頭の中で整理してたら不思議と瑠璃に言いたくなった。だから何も隠さずに凛は妹に話した。


          




            





それから一時間ほど凛は妹にTSしてから自分が思ったことと感じたことを話した。瑠璃の方はと言うと時々相槌をしてその話を聞き続けた。終わるまでなにも言わずに。


「・・・・・・・・」


「・・・・・・・・」


話してみるものだな。なんか心がさっぱりした感じだ。


ふと、瑠璃の反応が気になって、瑠璃の方に向いたら、なぜかすこし怒っているような・・・いや、確実に怒っている。


多分、なんで両親がいつでも相談していいって言ってたのに相談に乗らなかったのかについておこってるんだろうな。自分でも思うけど、今回のは少しずつ溜まったよりかは津波のように一気に来たから、相談しようとも心が落ち着く機会がなかった。だから、そのことから目を逸らしつつ一人で抱え込んでしまったのだと思う。


「ごめんね。心配させて。」


「・・・・・・・・」


「でも、もう大丈「本当なの?」」


凛が喋りきる前に瑠璃がそう聞いた。


「本当に本当で、もう大丈夫なの?嘘・・・ついたりしてない?」


「嘘はついてない。今のは本当だよ。」


「でも、問題は何一つ解決できてないよ?」


確かに。瑠璃にはここ二週間近くの悩みなどを話したが、何一つ解決策を見いだせていない。でも・・・・

「確かにそうだけど、瑠璃に話して心がすっきりしたんだ。今までは友達に嫌われないか、とか。どう生きていけばいいのかって一人で考え続けたけど、逆に言えば考えることしかしてなかったから今のようになったと思う。しかもネガティブな方にばかり思考が行っていた。だから、あまり変に考えないで、思い切って前に進んで、嫌われたり、壁に当たったりしたら、その時にまた、考えればいい。まず自分から行動を起こさなければ絶対に変わらないから。・・・だから、明日は・・・ってあいつは合宿中だから電話に出れないかもな・・・・。よしっ。」


そう言って凛は上体を起こし、それにつられて瑠璃の方も一緒に起きて、どうしたの?と聞かんばかりの顔で凛を見つめた。


あいつのことは帰ってきてからにして、まずはこっちの覚悟を決めよう。

「瑠璃」


「え?なに?」


「今日から私は瑠璃のお兄さんをやめる。これからはお姉さんって呼んで。」


「・・・・あっさりしたね。」


「当然だ。瑠璃のおかげだよ。」

いっそのこと自分は女だと思って生活した方が楽だと気付いたからな。まぁ、学校の人たちは・・・・あ、いや。このことは実際に休みが明けて学校に行かないとわからないから考えるのはよそう。案外女子グループがすんなり受け入れてもらえる可能性だってあるからな。ポジティブ、ポジティブ。


そう考えていたら瑠璃が凛の顔をマジマジと見つめた。


しばらく見つあっていた二人だったが、ついに凛が耐えられなくなったのか、瑠璃から少し距離をとって聞いた。

「ど、どうしたの?」


「いや、もう大丈夫だよ。表情も雰囲気もだいぶよくなったから。」


「本当に?」


そう聞いたらなぜか呆れた顔をして

「自分で聞いてどうするのよ。」


「う、うん、確かに。」


「でも、よかった。いつもの感じに戻ったし、もう本当に心配しなくても良さそうかも。でも、もしまたなにかあったら必ずすぐに相談してね?」


「うん。そうするよ。」


「約束ね?・・・()()()()


満面の笑みで瑠璃が小指をだして、凛も自分の小指出して妹の小指と絡めさせてから

「うん。約束する。」


笑って、指切りをした。





読んで頂きありがとうございました。

満足して頂けたら幸いです。


次話は明日投下します。

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