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第5話  兄と妹

※注意

とてもとても下手な格闘描写が含まれます。



それでは、よろしくお願いします。






瑠璃が気絶してしまう様な技もありだと言った。つまり顔面、頭部への攻撃もしてよいということになる。軽い後遺症だって残る可能性もある上に、重度の場合だとすぐ病院へ行かなければならなくなる。とても危険な行為だし、それを瑠璃が理解してないとは凛も思っていなかった。だから止めようとした。師範や師範代が不在という理由で。しかし、瑠璃はいたとしてもゆるしてもらえないだろうと。あたりまえだ。大人が居ようといまいと危険なことに変わりはない。なにかがあったら責任とれたもんじゃない。でも瑠璃はそれだけ本気になってやりたいと言った。ならば、凛はそれらの技を出さなければなんの問題もないと考えたが。すぐ、妹にばれてしまった。しかしそれでもやるわけにはいかない。




瑠璃とのやり取りでどうやら自分の妹が引きそうにないとわかり、それ以上の交渉をあきらめた。交渉をあきらめた兄を見てから、瑠璃は窓際に行き、おいてあったアラームをおして、元の位置につた。アラーム音が開始の合図らしい。二人の間に沈黙が流れた。ちなみにアラームは押せば40秒から二分の間にランダムでセットされる。審判役がいないときにお互いがいつ始まるか分からないように親戚が自作してプレゼントしてくれたものだ。


・・・・・・・


「「・・・・・・・・」」


道場内で聞こえるのは二人が息をする音だけ。構えを解かずにただひたすらにアラームが鳴るのを待ちつづけた。いまか、いまかと。


・・・・チリリリリリリリン


アラームが鳴った途端に瑠璃が距離を詰めていき、それに対して凛は下がりながら迎え撃つ形になった。


「っ!」



まず瑠璃が距離を近づきながら体を右回転させて右足の後ろ蹴りを繰り出し、それに対して凛は後ろに下がりこれをよけ、カウンターとして右の中段回し蹴りを出したが、瑠璃はこれを払い、さらに正拳突きをだしてきた。あえてこれを受け、凛も突きを出し、そこから近距離で互いによる突きの乱打戦が続づく。


「んっ!」


「ふっ!」


数秒間打ち合ったのちに凛が一瞬の隙を見て膝蹴りを出すもこれを避けられて、距離をあけられた。


「ふー、ふー」


「ハァー、ハァー」


道場には二人しかいないため、一連の攻防が終われば聞こえてくるのは互いの上がった息の音だけ。


・・・・力はほぼ同格になった感じかな。と、男から女になったことで今まで自分が優勢だったパワーに関してほぼ互角になりハンデがなくなっていることにすこし焦りを覚えた。知ってはいたが、実際にやってから感じ取ったものはもっと多かったのだ。その上こっちはまだ不慣れな体であるから、益々長期戦は不利になると改めて実感した。


だから今度は凛のほうから打って出た。瑠璃に近づきながら探りを数回入れたのちに非常に速い中段の回し蹴りを入れ、前に出ていた脚の膝に当てるが、瑠璃の重心は後ろに寄っていて、前脚に当たっても脚自体に体重があまり乗っていない状態だった。蹴りが脚に当たっても体重を乗せていなければ、脚はただ蹴りの方向に合わせてずれるだけになる━もっともそれでバランスを崩させてから攻撃するのもあるが━。だから蹴りの力はほとんど流れてしまい、ほとんどダメージにはならなかった。対して瑠璃はすぐさま上段の突きを出したが、これをガードされ、その状態で凛が正面蹴りをして、胸部にヒットさせるも後ろに軽く飛ぶことによってそのダメージが緩和されてしまう。そして、二人の間にまた沈黙が流れ、道場内は再び呼吸音のみによって支配された。


凛が仕掛けてから二人の距離が再びあくまでの間は5秒ほどもなかったが、すでに二人はその小さな肩を上下いさせるほど呼吸が上がっていた。


「はぁっ、はぁっ」


「すーはあっ、すーはぁっ」



呼吸音も先より強くなって、二人の額には汗が流れ始めた。これは二人にとっても少しばかり心外であった。瑠璃の方はまさか三ヶ月でここまで体力が衰えるとは考えなかったのだ。もちろんこの三か月間はなにもしなかったわけではないが、県外で一人暮らしを始めてまだ三か月しかたっておらず、体力の維持をできるほど時間がなかったのだ。凛はそもそも男から女になっているわけだから体力の衰えは仕方のないことだが、それでも想像以上にきついのは事実だった。


二人が離れてから数秒ほどが経ち、すこしだけ互いの呼吸に余裕が出てきたところで今度は瑠璃から仕掛けにいった。ゆっくり、とても遅く、慎重に凛にへとづいていき、凛もそれに合わせてすこしずつ後ろに下がっていたが、距離はすこしずつ縮まり・・・・


と、まだ2メートル近くはあるだろうという距離でいままでゆっくりと凛に近づいていた瑠璃が急に体を前傾させたと思ったら、そのまま兄のいる方へと倒れ込んでいきながら上半身を丸め、自分の足を凛の頭部にめがけて胴回し回転蹴りをだした。対する凛はゆっくりと近づいてた瑠璃が急に動きを速めたと思えば、そのまま自分方に倒れ込んできたから、躓いたと考え、チャンスととらえて近づいたが、すぐに違うとわかりそのまま後ろに下がったが、すでに遅かった。もし最初から近づかずに下がるか、横に大きく回避をすれば瑠璃が一連の動作が終わったころにつき込みそのまま勝った可能性もあったかもしれないが、あいにく自分が相対する相手でこの技を使われたのがはじめての上に試合で見ることもなかったから判断のミスをしてしまった。そして凛はまるでスローモーションでも見てるかのように、足が自分の視界でどんどん大きくなっていき・・・・・・・・・・









「・・・起きた?」


あれ?なんで私・・・あ、そうか。負けたのか。


「まだ起きない方がいいよ。しばらくその姿勢のまま首と頭を冷やしててね。」


そういわれてはじめて、自分は道場のど真ん中で仰向けに倒れてて、さらに自分の首と頭に氷嚢がまかれてることに気が付いた。おそらく脳震盪による一時的な意識喪失だから、言われた通りにしばらく寝た姿勢でいた方がいいだろう。


天井を見上げていた自分の視界に妹の顔が映ったから、聞いてみた。

「何分くらい意識失ってた?」


「多分2分もないくらいかな。」


「そう。」


「めまいとか、気持ち悪さはある?」


「めまいは・・・微妙。気持ち悪さはないかな。」


「そう・・・・なら、特に心配はなさそうかな。」


それからしばらくは道場外の音しか聞こえない時間が続いた。


「・・・・・・・・」


「・・・・・・・・」


「おに・・・お姉さん」

お兄さんと言いかけた瑠璃はそのままお姉さんと言いなおして、自分の家族を呼んだ。凛も思うところがないといえば嘘になるが、負けは負けだ。いままで17年間呼ばれ続けてきた言葉は今日をもって変わってしまうのだなとも思った。そう考えると何かがなくなった感覚を心で感じ取った。それでも応えなければ。


「・・・なに?」


「私ね、怖いの。いなくなってしまうのが・・・怖いの」


それ聞いた凛はなんで?とは聞けなかった。いや、そもそも妹がなにつそれからもいて言っているのかわかっていた。おそらく自分がいつか自らの命を絶ってしまうのではないかと恐れているのだろう。自分も高校の授業で習ったのだ。男性がTSした場合はそのほとんどが自ら命を絶ってしまうと。数的ではなく、確率的に見たときその差は蟻と象ほどの差がある。九割近くが自殺をしてしまうのだ。だから男性がTS現象にあってしまうというのは、致死率90%近くある病気にかかったのと同意であろう。もし、自分の大切な肉親が致死率90%の病気になんてかかったら正気にはいられないだろう。それも絶対人に治らず、一生続くものならなおさらだ。


そう考えてていると、瑠璃の方から嗚咽が聞こえてきた。額に巻かれていた氷嚢をすこし上にずらして妹の方を見たら涙がぽろぽろ床に落ちていった。


「瑠璃?」


シクシクと声を抑えながら、妹が目の前で泣いていた。いままで悔しくて泣いたことはあったが、こんな風に悲しい涙を流す妹は初めて見た。だから自然と体が動き、瑠璃のことを抱きしめて、背中をゆっくりと撫で続けた。


「おっ、おにぃ・・・・」


「大丈夫。大丈夫だから。私はずっとそばにいるから。消えたりはしないよ。」


そう言うと瑠璃の泣き声は嗚咽から啼泣にかわり、大声で泣きはじめた。


「ぜったいにっ、ぜっだいっ、いなぐなっだりしないでっ。」


「うん、絶対にいなくなったりなんかしないから。」


それからも凛はただひたすら妹の背中を撫で続けた。夕日の光が窓から道場内を差す時間が来るまでただひたすらに、優しく。

読んでいただきありがとうございました。

満足して頂けたら幸いです。


次話は明日投下します。

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