第4話(下) 心・(瑠璃視点)
ようやくPCが手に入り、今回からはPC投稿ですので、一部記号を変更しております。
では、今回もよろしくお願いします
今日はお兄さんと約束してた勝負の日。だけど朝の七時になってもまだ降りてこないから、部屋に行ってみればまさかまだ寝ていたのだ。ここに帰ってきてから用事と言う用事はなかったから、起こしに来ることはなかったが、思い出してみれば私がまだこっちで中学に通っていたころはほぼ毎朝おこしに来ていた。たまにお兄さんが自分で起きるときもあるけど、そんなことはおよそ一ヶ月に一回あるかないかのレベルだから、私がお兄さんを起こすのはここにいた時の日課みたいになっていた。
瑠璃は中学の思い出に浸しながらも、お兄さんは女の子になっても男のころとは全く変わらないこういうところに安心感を覚えていた。
瑠璃は帰ってきたあの日、口ではお兄さんと風呂だとか、お姉さんだとか、一緒にショッピングできるねと言っていたが、内心ではいきなり女になった兄に色んな感情を隠せないでいた。だから日ごろからのちょっとした願望がなんの考えもしないで口に出してしまった。結果的にお兄さんが自分のことを心配しなくなって、昔のように接してきたからなんとも微妙なものだ。でも、お兄さんがお姉さんとはまだよばないでと言ったときにすこしだけ違和感を覚え、その違和感を感じたことですこし落ち着き、思考がその言葉に向いた。だから聞いた。‛まだ’ってどういうことなのかと。そしてお母さんからお兄さんはまだ女の子になったことを受け入れずにいたと。それを聞いて高校の授業で聞いたことをふと思い出した。
TS現象がはじまって十数年がすぎ、いまだにもとにもとる方法がみつかていない。魔法も科学も発展しているこの時代でも何一つできずにいるのだ。ただし、TS現象が起きた人達の99.999%は女性で、残りの0.001%が男だと。そしてほとんどの元女性男性にTSしてもごく普通な生活を送れていると先生が言っていた。でも、男性の場合はそうとは行かなかった。女性が男性にTSしたひとたちは職場や学校で、実力さえ認められればあっという間にとけこみ、女性の時となんの変りもない生活を送れている。しかも元から男性の人たちからも友好的受け入れてもらえるのだ。それに元から女性の割合が高いこの世界においては女性同士のコミュニケーションも非常に開放的なものだった。だから、たとえ男性グループに拒まれても女性のグループがサポートすることが非常に多い。しかし、男性の場合は女性になったことで男たちから遠慮がられてしまい、女性からは元々男性ということで自分達の輪に入れることを断れる。社会的な孤立である。その上、当の本人である元男性たちは元女性達のように現実を受け入れる人がすくない上に、社会的な孤立もしやすいからほとんどが自らの命を絶ってしまうという。もっとも母数が絶対的に違うので数でいえば女性から男性にTSした人のほうが多く不幸になっているが、それでも男から女になったほうが不幸にる確率が高い。もし、お兄さんがこのままだったら・・・・・・・。そして組手もとい勝負をして早くお兄さんに現実を受け入れさせなければとおもった。たとえそれが勝負によって決められた覚悟だとしても。
だから、朝のようにいつもと変わらない兄の姿やいつものようなやりとりを見て、大丈夫なのでは?と、すこしだけおもっていた。しかし、11時になって現れた自分の兄を見て、その考えは空のかなたへと一瞬にして消え去っていった。
道場に現れた兄の表情はひどく落ち込んでいたものだった。まるですでに負けを確信しているかのようで、その足取りもひどく重いように感じていた。
「・・・・・・・・」
「・・・・・・・・」
・・・すこしでも実はお兄さんがもうこの勝負と関係なく覚悟を決めていたと期待していたが、そんなことはまったくなかったようね。これは、是が非でも勝ちたい。いや、勝たなければならない。強制的なものでもお兄さんに女の子として生きさせなければ。
それから私とお兄さんは神棚に礼をし、さっそく勝負をはじめようと、道場の中央でお互いに少し離れて正面を向いた。
「ルールは非常にシンプルよ。魔法と魔術は禁止、それだけ。今回の勝敗は審判役がいないから・・・・明らかにこれ以上は継続不能とお互いが判断したら勝負あり。それと・・・」
まだあるの?というような反応を兄がした。いままでも何回か審判役がいなく、自分達でセルフジャッジをし、それで文句を出したことはなかった。だけど今回は・・・
「・・・相手を気絶させるような技もありよ。」
そう言い切るとお兄さんは明らかに狼狽えた。それもそのはず。なぜなら今までの勝負においては基本気絶してしまうような技はお互い使わない様にしていた。
「それだと、なにがあったらどうするの!今日は祖父も父もほかの師範代もいないんだよ!?」
「だから、今日にしたのよ。」
「っっ!!」
「たとえいたとして、気絶してしまうような技を私たち兄妹に祖父や父が許すと思うの?」
「・・・思わない。」
「でしょう?」
兄と妹の勝負でそんなことを許す親は世のなか探してもほぼいないだろう。そもそもこんな形でなにかを決めること自体世の中ではほぼいない。
「でも、なにがあったら・・・・」
「それだけ本気でやりたいの。」
中途半端なやり方で中途半端に決めても意味がないだろうし。まぁ、元から強制的に受け入れさせるのも微妙なものだとは思わなくもないけど。下手したらお兄さんの命にかかわる問題だから、少しでも早く決めさせなければ。
「それじゃ、始めるわよ。」
「・・・・わかった。」
「やけに早く折れたね。どうせ内心では使わなければいいって思ってるだろうけど、私は遠慮なくいかせてもらうよ!」
「・・・・・・・・」
読んでいただきありがとうございました。
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