第3話 朝
よろしくお願いしますm(_ _)m
「......さん。.........ええさん....。」
うーん。うるさいなぁ。
「お姉さん、起きて!もう朝だよ!」
瑠璃か......無視しよ。まだ眠いし。
「もう!」
しびれを切らしたか、瑠璃が凛の被っていた布団を勢いよく剥がしとり、大声で
「お姉さん!!!朝だからもう起きて!!!!!」
「んにゃ。布団返して〜。」
「もう!可愛く強請ったって返さないんだからね!」
はぁー、だから妹とは一緒に暮らしたくない。瑠璃が帰って来て毎朝早く起こしにくるから、最近は夜になったら物凄く眠くなってくる。
「うーん。わかったから、静かにしてね?」
「......わかったわよ。」
もう寝ようとしてもまた起こされてしまうし、諦めて起きよう。
「それで?瑠璃はなんで起こしにきたの?学校や部活でもあるわけじゃないし。」
そう言うと瑠璃が一瞬表情が固まり、数回まぶたをぱちくりした後に呆れた顔で
「もう、今日は一緒に道場に行って組手で勝負をする約束だったでしょ?」
あれ?そんな約束してたっけ?
「あ、そんな約束してたっけって顔してるし!」
なぜバレた!
「.....なぜバレた!って思ってるんでしょ?」
.............そういえばそんな約束をしたかもしれない。確か........
「それって、瑠璃が帰って来た日の?」
「そうよ。思い出したみたいだね。」
「うん」
「んじゃー早く着替えて、朝ご飯食べましょ。お姉さん。」
「まだ勝負がついてないから、お姉さん禁止。」
「はいはい、お兄姉さん。」
「はぁー、とりあえずご飯食べよう。」
「朝の歯磨きしてからきてね〜。」
「お母さんか。」
洗面台に行き、歯磨きをしながら妹が帰ってきた日のことを思い出す。あの日、私がTSして女の子になったとはっきり伝えたら瑠璃がまさか立ったまま気絶をしてしまった。昔から妹は自分の脳の処理範囲を超えたことが起きると気絶する。よくても気持ち悪くなってトイレに駆け込む。だから、その日もいつものが起きたと判断して、ソファーに寝かせた。そして両親が帰って来たとほぼ同時に瑠璃も起きて、両親にあれこれと問い詰めた。マシンガンのように色々と質問を繰り出す妹と答える隙を見出せない両親。最終的にはしゃべりっぱなしの瑠璃が喋り疲れ、口を止めた時にお母さんが説明を始めた。
『それじゃ、お兄さんはお姉さんに?』
『そういうことよ。』
そうはっきりとお母さんが瑠璃に伝えると、妹は黙り込んだ。しょうがない。ただでさえTS現象はこの国だと珍しいことだ。その上に0.001%の確率で起こる現象に自分の家族の身に起きたんだ、その反応が妥当だ。むしろ両親のように潔く現実を受け入れる方が少ないだろう。私でもまだすこし受け入れ難いって言うのに....。しばらくしても黙り込んでた瑠璃を見て、ここは兄......今の私だと姉か?......この際どうでもいいから、慰めよう。
そう思って身体を近づけ、手を頭に伸ばそうとしたら妹が喋りだした。
『お兄さんがお姉さんになったって事は、これから一緒にお風呂とか!ショッピングも周りを気にせずできるってことだよね!』
そう言いながら妹ははしゃいだ。
『じゃー、早速一緒にお風呂しましょう!お姉さん!』
..............そうだった、こいつも我が家族の一員だ。普通なわけがない。
『えー、いいじゃん。今は女の子同士だよ?お姉ちゃん。』
『いや、それはない。それとお姉ちゃんじゃなく、まだお兄さんって呼んでほしい。』
『まだ?』
妹が唇に人差し指を当て、小首をちょこんと傾げた。
『凛は女の子として生きていくって決めたけど、まだ完全に気持ちが落ち着いたわけじゃないから、ちょっとずつ扱いを変えてほしいって。』
お母さんが私の代わりに説明をしてくれた。
『じゃーさ。私と組手して、私が勝ったらお姉ちゃん、負けたらお兄さんに合わせる。それでいい?』
『なんで?』
『じゃ、聞くけど気持ちの整理って言うのはいつつくの?』
『それは........』
『でしょ?...だからこのまま放置するよりも、私が手伝って一緒にその整理をするの。』
めんどくさい妹だけど、私の事もちゃんと考えているんだな。めんどくさいけど。
『でも、なんで組手?』
『ほら、小さい時からずっとなにかを賭けるときは全部組手の勝敗で決めてたでしょう?
お兄さんが中3に上がっあ以降全然しなくなったけど。』
そういえばそうだったな......父の祖父、つまり私と瑠璃の曾祖父の代から道場を開いてるから、私ら兄妹は小さい時よく道場で勝負していた。だけど私が中3に上がり、受験勉強などで忙しくなり、私が高校に上がったら今度は妹の受験勉強が始まって、一切できなくなったっけ?懐かしいなー。
『だから、いいでしょう?』
...............久しぶりの勝負が自分の人生に軽く関わる事になるなんてな。よし、ここは覚悟をきめよう。
『うん。いいよ。』
そんなやり取りを思い出しながら、歯磨きと洗顔を終えて1階におりた。両親は今日も仕事でいないから、私と瑠璃の二人だけの朝食になる。いつもはお母さんが食事を作り置きしてから出かけるのだが、今日はかなり早かったからなにも作ってないはずなのに味噌汁の匂いがする。
「ねぇ、瑠璃。」
「うん?」
「お母さん今日は早いから何も作らないからって言ってたと思うけど。なんで味噌汁の匂いがするの?」
「私が作ったの。」
え?.............そういえば妹は一人暮らしをしてるから、それくらい当たり前か。
「鮭と冷奴もあるよ。でも、お兄さんほどうまくないから、文句は言わないでね。」
「言わない、言わない。妹が作ってくれたご飯に文句言うもんか。」
「そう。」
私がやるから、お兄さんは座ってと瑠璃が言ってくれたから、私はテーブルについて瑠璃のことを待った。しばらくまっていたら、料理し終えたのか、お茶碗や皿に料理を盛り、木目のトレーに乗せて朝食を運んできた。準備を終えた瑠璃もテーブルにつき、一緒にいただきますをして、食事を始めた。
「「.......................」」
食事を始めても箸と食器がぶつかる音と茶碗を置くときの音だけが時々起き、会話もなく、静かに食事が進んだ。
「「.......................」」
そういえば、以前も勝負をする日の朝はこんな感じだっけ。昔から妹は一つの事に集中するのは得意だが、一度その事に集中し始めてしまうとほかの事に考えが及ばなくなってしまうのが癖だ。今も多分頭の中でどうやって私を倒すかシュミレーションしてるだろう。その証拠に食事を始めてから背筋を立て、ゆっくりと食べながらずっとテーブルの真ん中くらいを見つめてる。普段の妹を知らない人は清楚だとか言うかもしれないが、私からすればいつもはしゃぐ妹がロボットになったようで、すこし面白い。
「「......................」」
それにしても...........瑠璃はしばらく見ないうちに料理の腕をあげたなと思う。最初は卵焼きも真っ黒焦げにするような妹が自分で味噌汁と焼き鮭も作れるようになってるとは。しかもそれなりにうまいからこれ以外も多分人並みに出来るだろう。
妹のことをあれこれ考えながら無言でご飯を食べてると、いつの間にかお茶碗が空になり、妹も丁度食べ終わったのか、ご馳走さまの声が聞こえてきた。
その後はシンクで食器を洗い。二人で道場に向かった。
読んで頂きありがとうございました。
満足して頂いたら幸いです。
次話は明日投下します。