1/510
アマビエさん、話す
「我はアマビエである」
「はい、新患のアマビエさん……あ、アンケート用紙が濡れてる……既往歴なし、嗜好品なし……と」
薬局のカウンターに、半魚人がいる。全身鱗に三つの足、腰まで伸びた長髪が特徴的だ。投薬のために降りてきた僕は、一瞬動きを止めた。
病気になりそうにない生物。生臭い。しかし仕事は仕事だ。幸い他に患者はいないから、早めに終わらせよう。
「どんな症状で?」
「今から六年間は豊作が続く」
「……そうですか」
【薬局あるある】
症状より、自分の話したいことを述べる患者は多い。薬剤師も事務も慣れている。