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3話

◇202X年3月29日 6時 核爆弾爆弾投下から100日 アキハバラ

 

 電気街口の左側の出口から出ようとすると、

 

「やめて! 近づかないで!」

 

 女の人の声が聞こえてきた。

 

「ちょっとくらいいいじゃんかよぉ」

 

 出口から見て右側のほう、ラジオ会館の前あたりで女の人が汚らしい男三人組に絡まれていた。

 

 紺色のインナーに灰色のパーカーを羽織り、ジッパーを開けている。それに、裾がひざぐらいのスカートをはいて、大きなリュックを背負っている。

 

 髪型は、ミィと違って明るい金髪と茶髪の中間といった毛を、肩までかかる長い髪の毛と一部の毛を右側でまとめており、頭にはキャップをかぶっている。ちょい悪ファッションといった見た目だ。

 

 あきらかに、この町の人間ではなく、トーキョーを旅しているもの好きな観光客だろう。最近そういう人たちが犯罪に多く巻き込まれていることをよく聞く。

 

 こういう面倒なことは避けたほうがいいと野生の勘が言っている。

 

 無視してまっすぐ進もうと思った瞬間、左手側の服の裾を引っ張られる。

 

 ミィが上目遣いでこちらを見上げながら口にする。

 

「ねぇ。助けてあげないの?」

 

「別に大丈夫でしょ。この町に来た時点でこうなるのはわかってるはずだから。きっとあの人、外から来た人で隔離地域を嘲笑いに来たんだよ」


 ミィは頭を下げて、俺と目を合わせないようにする。

 

「そんなことないと思うけど……」

 

「あんなぬるま湯に浸かって育った奴を助ける意味なんてないし、逆にいい気味だよ。俺らがどれだけ食料を得るのに命をかけているかも知らないくせに」

 

 俺はズカズカと歩き出すが、ミィは立ち止まったままだ。

 

「ミィ、行くぞ?」

 

 ミィは俺の元に来て、しばらく一緒に手を繋いで歩いたが、急に立ち止まって、

 

「おにいちゃん、やっぱりあの人かわいそうだよ。助けてあげてよ」

 

 ミィが涙目になりながら上目づかいでお願いしてくる。反則だよ、それは。

 

「わかった。助けてあげるから。そんな顔はしないでくれ」


 ミィにその顔をさせてしまったことに申し訳ない気持ちがわいた。

 

 外の人を助けるのはあまり気は乗らないけど、ミィのお願いなら助けてあげなきゃいけない。

 

 そこで、ミィと手をつなぎながら、男たちに絡まれてる女の人のところへ向かう。

 

 十メートルぐらい離れたところから男たちに声をかける。

 

「あのー。すいません。その女の人、嫌がってるみたいですが?」

 

 女の人と男たちが俺のほうを見る。


 近くで女の人をよく見て、恰好をよく見てみる。


 紺色のインナーに灰色のパーカーを羽織り、ジッパーを開けている。それに、裾がひざぐらいのスカートをはいて、大きなリュックを背負っている。

 

 髪型は、ミィと違って明るい金髪と茶髪の中間といった毛を、肩までかかる長い髪の毛と一部の毛を右側でまとめており、頭にはキャップをかぶっている。ちょい悪ファッションといった見た目だ。

 

 あきらかに、この町の人間ではなく、トーキョーを旅しているもの好きな観光客だろう。最近そういう人たちが犯罪に多く巻き込まれていることをよく聞く。

 

「あん? なんだテメー」

 

 大将格みたいな人が突っかかってきた。そういえばこいつもいたな。こいつの外見は興味がないから、恰好を見る必要はないだろう。


 そしてそいつは俺の目の前にやってきた。

 

 そいつから発せられたアンモニア臭が鼻をつく。


 臭くて鼻が曲がりそうだ。

 

「ちょっと親方見てください! こいつガチモンのロリ連れてますよ」

 

「いいですねぇ! デュフ……ディヒ……」

 

 横の連れたちがミィを気持ち悪い目で見ながら言う。ミィはすぐさま俺の後ろに隠れた。見てて不快だ。イライラしてきた。

 

「ミィに手出しだすなら容赦しませんよ?」

 

 殺意を込めて言う。ミィに指一本でも触れてみろ。八つ裂きにしてやるぞ。

 

「おっと、怖えな。正義のヒーローさん? アッハッハッハ!」

 

「「「はっはっは!」」」

 

 男たちは笑い出す。イライラがつのっていく。


「「「はっはっは」」」

 

 こいつら、俺のこと完全になめてるな。俺の怒りは頂点に達していた。

 

 そこで、ハンドガンホルダーから拳銃を取り出し、大将格の男に向ける。

 

 場の空気が一気に変わる。今までの空気とは違い、緊張感が漂い始める。

 

「おい! てめー。な、何しやがる!」

 

 大将格の男が一歩前に出る。ちょっと押せば、倒れそうだ。


 そこで俺は大将格の男をおどす。

 

「それ以上近づくなら撃ちますよ?」

 

 そう言って銃を構える。前とは違って、両腕が伸びるように構える。全員に対応できるようにするためだ。

 

「ど、どうせ、こ、こけおど、おどしだろ」

 

 大将格の男は一歩一歩あとずさりする。声も震えていておびえているのがわかる。 横の男たちも、同じく一緒に下がる。

 

 毅然とした態度で銃を向け続ける。

 

「お、おい! お前ら! こいつをやれ!」

 

 そう大将格の男が告げると、横で構えていた男たちがこちらへゆっくりと歩いて向かってきた。一対一なら銃を使えば何とか倒せるだろうが、二対一なら話は別だ。


 こういう時こそ冷静になろう。相手は歩いてきて切れてるから時間はある。


 銃を撃って脅すしかないか。ちょっと実弾はもったいないけど。

 

 だんだんと近づいてくるので、距離が三メートルぐらいに近づいたところで、彼らの足元に銃口を向ける。そして、銃を持つ手に力を入れ、足を踏ん張る。そして、

 

 

―引き金を引いた。

 

 

 昨日も聞いた聞きなれた轟音がアキハバラの街を駆け抜ける。

 

 全員の動きが時を止めたように止まる。時間さえも止まったように錯覚するほどだった。

 

 その中でただ動きがあったのは、銃から排出された薬莢ただひとつだった。

 

 その薬莢は地面に落ちてカランカランと音を立てる。

 

 その音が時の始まりを告げたように、全員の視点が俺の手元から、銃弾によってえぐられた道路のアスファルトに移ったのがわかった。

 

 男たちの顔が青ざめていく。ミィの俺の服を握る強さも強くなったように感じた。

 

 周りの気温が数度下がったと思うほどの緊張感が流れる。

 

「これ以上近づいたら、今度は頭に当てるぞ?」

 

 男たちを脅す。男たちの顔から血の気が引いていく。

 

 しばらくの沈黙が流れたのち、

 

「やばいでっぜ……。マジモンの実弾ですぜ」

 

 左側の男がポツリとつぶやく。

 

「これ、不利じゃないすか? 親方」

 

 またも、しばらく沈黙が流れたのち、

 

「に、逃げるぞ!」

 

 大将格の男が言うと、男たちは踵を返し、一目散に逃げていった。

 

 男たちがいなくなった後、拳銃から出ている煙にフッと息を吹きかける。特に意味はないけどかっこいい気がするからいつもやっている。

 

 拳銃をハンドガンホルダーにしまう。

 

 よく考えてみると実弾を一発使ってしまった。高いのになぁ。一発で缶詰二個分だし……。


 まぁミィを守れたからよしとするか。

 

「おにいちゃん……」

 

 そういってミィは俺の後ろから女の人を指さす。そういえばそうだったな。

 

 女の人はこちらを恐ろしいものを見るような目で見ている。

 

 俺は女の人に近づく。外から来た人にはムカつくけど、なるべく笑顔で女の人を怖がらせないようにする。

 

「ヒィ……!」

 

 女の人は腰を地面につけたまま後ずさる。なんで逃げるんだろう?

 

「なんで逃げるんですか?」

 

 笑顔を絶やさずに言う。

 

「ヒッ……! こ、殺さないで、く、ください!」

 

 女の人はものすごくおびえた様子を見せる。

 

「えっ?」

 

 殺すつもりなんて毛頭ない。まずそれ以前に目の前で命乞いをするなんていかに外から来た人はいかに軟弱者なんだろう。


 これなら、どんな事されてもおかしくない。

 

「殺しませんよ?」


 一応笑顔を崩して、いらだちを顔に出さないようにしながら告げる。

 

「え?」

 

 女の人は動揺する。

 

「次の獲物が私なんじゃないんですか!?」

 

「は? 何でですか?」

 

 何を言っているんだろう、この人は。

 

「だって明らかに今から人を殺してたのしむような笑顔を浮かべてたじゃないですか!」

 

「怖がらせないようになれない笑顔をしていたのですがそういう風に見えてたんですか……」

 

 せっかく助けてやったのに、この態度は少し腹が立つ。

 

「あの!」

 

 ミィが俺の後ろから出てきて言い始める。

 

「お……おにいちゃんは……あ……あの……あなたを助けたのに……、そ……そういう言い方はないと思います!」

 

 人見知りのはずのミィが、途切れ途切れだが、力強く述べた。


 ミィは一通り言い放った後、また俺の後ろに隠れて右わき腹あたりから顔を出す。

 

 その一生懸命な様子を見て、女の人は少し黙ったのち申し訳なさそうな顔になってつぶやき始めた。

 

「ごめんなさい。私この地区がこんなに危ない地区だと知らなかったんで、疑心暗鬼になってて……。その、本当にごめんなさい」

 

 女の人は九十度腰を曲げて謝る。

 

「その上、助けていただいたのに疑っていたとは……、本当にごめんなさい」

 

 もう一度女の人は頭を下げる。


 その謝罪にはものすごく誠意が込められていた。ファッションと違ってまじめな人ということがわかった気がした。

 

 ちょっと見直した気がする。外から来たやつは全員自分のことしか考えてなく、人に謝ることなんてない人だと思ってた。

 

「別にいいですよ。この地区に来た時点で、すれ違う人全員を疑ったほうがいいのは間違ってないので。あと助けてもらったお礼ならこの子に言ってあげて下さい」

 

 そういってミィを前に出してあげる。ミィは俺の後ろに戻ろうとするが、それを妨害してあげる。

 

「そうなのね……。どうもありがとう。本当にごめんね」

 

 女の人は腰を曲げて、目線を合わせたうえで優しい笑顔をミィに向ける。とても優しい笑顔だった。この人はもしかしたら信頼できるのかもしれない。

 

「え、あ、と、どういたしまして?」

 

 ミィはちょっと照れている。語尾が疑問形になるときはいつもそうだ。

 

 女の人は立ち上がり、スカートについた汚れをパンパンと払う。そして俺らのほうに向きなおり、こう笑顔で告げる。

 

「そうそう! この写真の場所知ってる? 秋葉原でとられた写真ってなってるんだけど」

 

 切り替えがめちゃくちゃ早い。やっぱり真面目な人じゃないかも。まぁ、いいか。

 

 年季物の一眼レフの方に目をやると、たくさんの人であふれかえっていて、ところどころにフリフリのフリルを着た女の人たちがたくさんいる狹々とした通りが映っていた。

 

 見覚えはあるような気がするが、どこなんだろうか?

 

 ミィにも写真を見せる。

 

「どこだろう?」

 

 ミィがその写真を横から覗き込みながら言う。

 

 俺はジーっとその写真を見る。お店の名前が書かれた看板からも推測する。

 

 あきばゆー、TUKUNO 、SYUKUHUKUYA、Lemonbooksという店名の並び……。


 そうだ! 思い出した! これと同じ文字が書かれた朽ち果てた看板を見たことがある気がするぞ。

 

「ここ、メイド通りだよ!」

 

 ミィもそう言われて気づいたようだ。

 

「確かにメイド通りだ!」

 

「メイド通り……?」

 

 どうやら女の人はピンときていないようだ。

 

「メイド通りの昔の写真かな? こんなに人がいる時があったんだね」

 

「今とは全然違うね。おにいちゃん」

 

「今もあるの!?」

 

 女の人が身を乗り出して聞いてくる。鼻息を感じるほど顔が近い。やっぱりこの人嫌いかもしれない。

 

 ミィは俺の後ろに隠れて、俺の服の裾を握る。

 

 その顔の額を人差し指で押し戻しながら言う。

 

「買い物しに今から俺らは行く予定ですよ……」

 

「ほんとに!? ついて行ってもいい!?」


 またも食い気味に聞かれる。

 

 ミィをチラッと見る。ミィはゆっくりだが頷いた。ミィは大丈夫みたいだ。

 

「はいはい。いいですよ」

 

 ちょっと嫌な気持ちがあるが、こいつ一人だとまた誰かに襲われて、何かされたらかわいそうだから、了承しといた。

 

「やったー!」

 

 女の人は飛び上がって喜ぶ。騒がしい人だなぁ。

 

「私の名前は、サヤカよ。あなたたちは?」


 そういって俺らのほうを見つめてくる。

 

 これ逆に自己紹介しないとめんどくさいやつだろうなぁ。

 

「俺はコウっていう名前です」

 

 しぶしぶ自己紹介をする。

 

「コウくんか!よろしくね!」

 

 右手を差し出される。あまり気が乗らないが、俺も右手を差し出して握手する。

 

 サヤカはこちらに清々しい笑顔を見せてきた。 まぶしい笑顔だった。


 そして、彼女の視線は、俺の右わき腹のほうに行く。

 

「そっちの君の後ろに隠れてる美少女は?」

 

 彼女はミィが顔を出しているであろう方に目を向ける。

 

 首を回してミィと目を合わせる。


 するとミィは首を振った。わかった。無理させるつもりはないから。

 

「この子はミナです。俺はミィって呼んでます」


 代わりに自己紹介をしてあげる。

 

「ミィちゃんか! 名前もかわいいんだね」

 

 ミィはまた俺の後ろに引っ込み服の裾を強く握る。かわいいって言われて嬉しいのかな。

 

「ミィちゃん! ごめん! 怖かったかな?」

 

 サヤカは姿勢を低くして俺越しにミィに謝る。

 

「ち……、ちがうよ」

 

 ミィが小さい声で呟く。ミィに助け舟を出してあげる。

 

「ミィは可愛いって言われて嬉しかったんだよね?」

 

 そこにサヤカさんが割り込んでくる。

 

「そうなの!?」

 

 俺の助け舟は大破したのだった。


 しかし、ミィは、

 

「そ、そう……だよ……」

 

 と、自分で言った。人見知りのはずなのに。

 

 後ろを振り向いて、ミィの頭を撫でてあげる。


 ミィは子猫のように嬉しそうだ。


 その反応を見て安心したのか、

 

「そっか! よかった!」

 

 サヤカさんは満面の笑みを浮かべる。外の人だからとバカにしていたのが馬鹿馬鹿しくなるくらい明るい笑顔だった。


 もう少しこの人を信頼してみることにする。

 

「じゃあ、そろそろメイド通りに行きますか」

 

 時間もだいぶ経ってしまって空が白んでいる。目的の店はもう開いているだろう。

 

「いいね! Let’s go!」


 そうサヤカは返してくる。レッツゴーの発音がとてもよかった。

 

 右側にサヤカがいるので、左側にミィを誘導し、手を繋いだ。


 俺らは中央通りに向かって歩きだしたのだった。

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