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2話

◇202X年3月29日5時 核爆弾投下から100日 アキハバラ

 

 目が覚めて、リビングに行き、窓を見る。まだ真っ暗だ。早く寝たから早く目覚めることができた。

 

 寝室に戻ってミィを揺さぶって起こす。

 

「んん……。あと五分……」

 

 いつものことだが、ミィは寝起きが悪い。

 

 寝顔を見ると、とても美少女だと兄ながらに思う。起きてても美少女だけど。

 

 もう少し寝かせてあげよう、と思い、少しほかのことをする。

 

 寝室の隅に置いてあったゴミ袋を縛っておく。缶詰のごみも十個で缶詰一個と交換できるからだ。

 

 寝室に鍵をかけ、リビングに出る。

 

 ラジオのスイッチを入れる。ラジオは雑音をしゃべり始める。

 

 棚のほうにアンテナを向ける。棚のほうにアンテナを向けるとラジオが聞き取りやすい。

 

 つまみを回して周波数を合わせる。するとラジオは少しずつ人間の声を話し始めた。

 

―核爆弾の投下からトーキョーが閉鎖されてから100日が立ちました。


 どうやらニュース番組のようだ。ニュース番組はあまり興味がないので、このラジオを作業音声として何か他のことをしよう。

 

 ラジオから離れて棚にろうそくを取りに行く。昨日と同じようにろうそくを燭台にさし、ろうそくにライターで火をつける。

 

 そういえば買い物に行くんだ。珍しい缶詰は缶詰二個と交換されたりするからそういうのも探そう。そうして、缶詰の選別をすることにした。

 

―そして、昨日夜11時、日本政府は北夕鮮への報復攻撃を計画していることを発表しました。

 

―具体的にはアメリカの核爆弾を使って北夕鮮の都市を爆撃するという、ニュークリア・シェアリングというシステムを使うので憲法違反ではないとされています。

 

 ブルーベリーの缶詰を発見した。これは高く売れるだろう。確か缶詰三個で売れた覚えがする。

 

―この先、日本はどうなってしまうのでしょうか? 直接戦争になってしまうのでしょうか?

 

 全ての缶詰を確認したが、ブルーベリーの缶詰しか見つからなかった。ラジオを全く聞いてなかったがまぁいいか。

 

―専門家に聞いてみましょう。この先日本はどのようになると思いますか?

 

―戦争になるでしょうね。この先日本は北朝鮮を植民地化するんじゃないですか?

 

 窓を見ると少し紫の色に染まった空が見えた。

 

 まさか晴れてるんじゃないか? ちょっと写真撮ってくるか。

 

―それは怖いで、、、。


 ラジオの電源を切る。

 

 ずいぶん前に盗んだ年季の入った一眼レフを棚から取り出して、リビングから出る。

 

 しばらく暗い通路を歩き、駅事務室に出る。そこのカウンターを越え、中央改札口に出て、左側に進み、外に出る。

 

 空が見える位置に移動して、空を見上げた。

 

 そこには、今まで見たことのないきれいな景色が広がっていた。

 

 紫色と紺色のグラデーションに染まった、きれいな朝焼けの空が広がっていた。残念ながら、建物のせいで東側のオレンジの部分は見えにくかった。

 

 その美しさに息をのんだ。東京に核爆弾が落ちてから晴れたことは数えるほどしかなかったのに、晴れた上に朝焼けを見たのは初めてだ。 しかも、雲の面積より空が見えている面積のほうが大きいのも珍しかった。


 不意に歩を伝って涙が流れた。どんよりとした曇り空を見てこなかった俺にとってその景色はとても感動するものだったのかもしれない。

 

 そうだ! 写真を撮らないと! 


 その美しい光景をカメラのレンズに収め、シャッターを切る。一眼レフの液晶に同じ景色が映し出される。液晶の中でもとても美しかった。

 

 もう一度空を見上げる。そこに、温かくもさわやかな春らしい風が吹いてきた。

 

「きょうはいいことあるかもな」

 

 そう一人でつぶやく。

 

 名残惜しい気持ちを抑えながら、その景色をかみしめながら、もと来た道を戻る。

 

 リビングまで戻ってきたら、寝室のカギを開け、寝室に入る。

 

 さっきと同じ寝顔をしているが、体勢が変わったミィに出迎えられる。

 

「ミィ。起きろー」

 

 もう一度ミィを揺さぶる。

 

「ん……。あと十五分……。」

 

 さっきより時間が伸びているのはいつも通りだから気にしない。

 

 ミィの布団をはぐ。

 

「返して……。おにい……ちゃん……。」

 

 寝ぼけた口調でそう言ってくる。無論返すつもりはない。

 

「ほら、おーきーろー。もうとっくに五分経ったぞ」

 

「いやだー」

 

 ミィは拒否する。

 

「買い物行かないぞ?」

 

「いーやーだー」

 

 またも、ミィに拒否される。

 

「じゃあおきて?」

 

「いやだ」

 

 またまた、ミィに拒否された。

 

「じゃあ、買物行こうっと!」

 

 そういってリュックを背負って、ゴミ袋を手にし、ハンドガンホルダーを腰につけ、寝室の扉の鍵に手をかける。

 

「行ってきまーす!」

 

 意地悪く、大きな声で言ってみる。

 

「すとぉーっぷ!」

 

 ミィから大きな声でストップがかかった。

 

 後ろを振り向くと、ミィが起き上がっている。

 

「おはよう。ミィ」

 

 笑顔で首をかしげながら、皮肉の意を込めて、ミィにおはようを告げた。

 

「おはよう。おにいちゃん」

 

 ミィは苦笑いしながら、おはようを返してきた。

 

 そこで、ミィにシャワーを浴びるように言う。俺も荷物をリビングの隅に置きなおす。

 

 ミィはリビングにつながった場所にあるシャワー室に入っていく。

 

 そこに、ミィの着替えの下着とワンピースをシャワー室の前の脱衣所のかごに置いておく。

 

 そして、ミィが脱ぎ捨てた服を水洗いし、洗剤ですすぎ、ガス乾燥機にぶっこんでおく。

 

 ほんとガス乾燥機とシャワー室が便利すぎて、この場所から離れられない。

 

 やっぱりガスと水道って便利だ。今までアキハバラでガスと水道が供給されているところを見たことない。


 電気はさっきのビルで見たけど。

 

 ミィが湯気を上げながら、生まれたままの姿でシャワー室から出てくる。

 

 びちょびちょの状態で出てきたから、床まで濡れてしまっている。

 

 片付けが面倒くさい。

 

「おにいちゃん!水飲んじゃった!」

 

「いくら浄水場が働いてないとはいえ、ちょっとなら大丈夫だから……。あととりあえず服を着ろ……」

 

 そういってあきれながら、タオルをミィに投げる。

 

 ミィはそれをキャッチすると、

 

「わかった!」

 

 そういって目の前で体を拭き、着替え始めた。

 

 いつも通りだから別に何とも思わない。

 

 逆に妹の体に興奮する兄がいたら見てみたいね。

 

 床が水でぬれたから昔盗んできた女の子の絵が描かれたハンドタオルで、床を拭く。巷ではこの女の子はモエキャラと呼ばれているらしい。

 

「おにいちゃん! 着替え終わったよ!」

 

「はいはい。ちょっと待ってね」

 

 床を拭き終わるまでミィに待ってもらう。

 

 そして、床を拭き終わった。そこで、


「歯磨きしようか」


 そうミィに声をかける。


「うん!」


 洗面所でミィと歯を一緒に磨く。

 

「おにいちゃん。そういえば、シャンプーそろそろ切れるよ?」

 

 ミィが泡立った状態の口から言葉を発する。

 

「シャンプーとボディーソープと歯磨き粉はまだ一年分ぐらいあるから大丈夫だぞ」

 

「そっか。なら大丈夫だね」

 

 そう言って、ミィは泡をぺっと洗面台に吐き出し、コップに注がれた水を口に含んで口を濯ぎ、洗面所から出る。


 そのあとに、俺も同じようにした。

 

 そして、ミィと買物の準備をする。


 ミィに鉄くずなどを入れたリュックを背負ってもらう。鉄くずも売れるから貴重な収入源だ。

 

 ミィは何も言わずに持ってくれた。ひと昔前だと重い重い言って持ってくれなかったから、ミィの成長を感じてうれしく思った。

 

 空き缶が入ったごみ袋も自分のリュックにしまう。


「なんも忘れものないよね?」


「わかんなーい」

 

 荷物に不備がないことを念入りに確認して、リビングの扉から通路に出る。

 

 その後、リビングの扉に南京錠をつけておいて、部外者が入れないようにする。

 

 これで盗みに対する対策は大丈夫だろう。

 

「よしいくか!」

 

 気合を込めて自分を奮い立たせるように言う。

 

「うん!」

 

 いい返事が返ってきた。

 

 そして、俺とミィは暗い通路を歩き始める。


 しばらく歩いていくと、だんだんと明るくなっていき、駅事務室に出る。

 

 駅事務室のカウンターを超える。

 

 ミィはまだここを超えられないので、両手を貸して持ち上げてあげる。

 

「うんしょ、うんしょ」

 

 ミィはゆっくりカウンターをよじ登っていく。

 

「やった!」

 

 カウンターの上にミィは立つ。ミィは、てれれてってれー、という効果音が鳴りそうなぐらい誇らしげな表情をする。

 

 まだカウンター越えただけだけど、とは言わない。これでも、ミィはミィなりに頑張ったからだろうからね。

 

 駅事務室の左側にある元自動ドアだったガラス戸を力づくでこじ開けて、駅の中へと進む。

 

 駅に入ると、まっすぐに歩き続ける。

 

 後ろを振り向くと、ミィが少し震えているのが見えた。

 

 少し速度を下げ、ミィと並ぶようにし、ミィの右手に自分の左手を滑り込ませ、手をつなぐ。

 

 ミィは最初驚いた顔を見せたが、笑顔を見せてくれた。かわいかった。

 

 そのかわいさに思わずこちらも笑みがこぼれる。

 

「おにいちゃんが笑ったぁ! 久しぶりだぁ!」

 

 ミィはとてもうれしそうに笑う。

 

「そうか?」

 

「おにいちゃん全然笑わないもん!」

 

 ミィは知らないかもしれないけど、昨日ミィが寝てる間も笑ってたよ?

 

 これで緊張がほぐれたのか、ミィの手は最初こそ震えていたが、震えが収まっていった。


「結局今日も駅から行くんだね」


 そこでミィは俺に質問を投げかけてきた。


「南北自由通路とおりたい?」


 意地悪くミィに言ってみる。


「やだやだやだ! あそこはアキハバラで一番治安悪いからやだよ」


 ミィは全力で拒否する。


 南北自由通路というのは電気街口から中央改札口へ駅の中を通らずに抜けられる通路だ。


 そこではは怪しい取引が行われていたり、通行料を要求されたりと、犯罪の温床である。ミィが全力拒否するのもわからなくはない。


「秋葉原で一番治安悪いってことは世界一治安悪いだろうな」


「そうかもしれないね」


 ミィは苦笑いしながら言った。


 ちなみに、あとは大回りをしていくルートが何種類かあるが、北側の高架下は治安が悪いし、南側の高架下は、よく乱闘とか起きてるから論外だろう。


 左側に黄色い表示がある階段を過ぎ、両側に緑色と青色の表示があるガラスディスプレイが上にある階段が現れる。

 

 もう一個同じような階段を通り過ぎると、大きな出口が現れる。

 

 こちらは中央改札口と違って自動改札機がついていない。技術の進歩で取り払われたらしい。あまり詳しい話はわからないけど。

 

 電気街口とホログラムに浮かべられた文字が頭上にある出口を通る。こちら側は中央改札口と比べてやけに近未来的だ。


 電気街口を通り抜ける。買い物場所まではもう少しだ。

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