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利き手恋愛~左利き至上主義~  作者: さばりん
7/10

天馬君を支えていきたい

突然の告白をようやく理解した俺は、どんどんと顔が熱くなっているのが分かった。だが、それと同時に、理解不能の綾瀬さんの行動に困惑していた。


 確かに、高校2年間同じクラスではあったが、ほとんど話したこともない相手に対して、しかもいきなりユースチームの練習場に来て告白してくるとか、何かの間違いではないか?そう感じてきていた。

 綾瀬さんは、俯いて目を瞑ったまま、ピクリとも動かずに返事を待っていた。俺はその綾瀬さんの期待とは裏腹に、まずは状況を理解するべく、綾瀬さんに問いかけた。


「いやっ、いきなりどうしたの綾瀬さん?俺のことが好きって?何かの間違いだよね?」


 やはり綾瀬さんはYESかNOで返答が来ると思っていたらしく、ムクっと顔を上げると、予想外の質問に豆鉄砲を食らった表情をしていた。


「え?違うよ、私は本気・・・なんだけどなぁ…」


 本気の告白だと思ってもらえず、綾瀬さんは少々悲しい笑みを浮かべていた。それを見て、俺は咄嗟に言い訳を返す。


「いやっ!その、告白してくれたことは、凄いうれしいし、正直混乱してるっていうか…今はなんとも返事を返すことが出来ないという感じで…だけど、どうしていきなり俺なんかに告白?と思ってさ。ほら、だって綾瀬さんとは同じクラスメイトってだけで、ほとんど話したこともなかったし…」


俺が言い訳をし終えると、綾瀬さんは俯きながら何かぼそぼそと言葉を口にした。


「…から」

「へ?」

「かっこよかったから…///」

「え?」


 予想外の回答に俺は口をポカンと開けることしかできなかった。顔を上げて、その様子を見た綾瀬さんが、情報を付け加える。


「その・・・私ね、天馬くんの所属してるクラブのトップチームのファンで、よくスタジアムに行って試合観戦してるんだけど、丁度ある試合の前に前座試合的なのをやってる時があって、その時に見た10番の選手のプレーがすごいかっこよくて…」

「あぁ…」


 それは俺も心当たりがある。あれは2カ月くらい前の出来事だ。プロチームの試合が行われる前の前座試合として、俺たちユースチームはプロチームの対戦相手と同じチームのユースチームとの試合を行ったのだ。


 当時から俺は、監督から才能を買われて、背番号10番を背負ってピッチに立っていた。その日の俺は、コンディションがとても良くて、相手選手を何人もドリブルや華麗な足技で抜き去って、ゴールやアシストを量産していった。そして、結果として2ゴール3アシスト、試合も5-1の快勝となり、後にU18日本代表選手に選ばれるきっかけになった試合なのだが…


 まさか、その試合を綾瀬さんが見ていたなんて正直驚いた。まあ、地元のユースチームでサッカーをやっているので、いずれは気づかれるだろうとは思ってはいたものの、このような形になるなんて…

 俺が色々と理解したところで、綾瀬さんは、さらに興奮しながら話を続けていた。



「それで、私その試合を見た後に、その10番の選手に一目ぼれしちゃって、HPに行ってすぐに名前を調べたの。そしたら、天馬青谷君って書いてあって、どこかで聞いたことある名前だなって思ってたんだけど、それからしばらくして学校に行ったときに、天馬くんのことを見て気が付いたの!えっ、もしかして、この間私が見た10番の選手って、クラスメイトの天馬くん!?って」

「そうか…だから、俺が左利きだってことも知ってたんだな」

「うん!ちょうど『利き手婚約条例』が施行される時だったし、プロフィールで調べてみても天馬君が左利きって分かってたから、実際に教室で確かめてみようって思ったの。そしたら、天馬くん教室でいつも右手でぎこちなくノート取ってるんだもん、それがますます可愛いくて…///」


 そういうことだったのか、俺はすべてを理解した。綾瀬さんがここ最近、授業中に俺の様子を窺っていたこともすべて納得がいった。そんな俺を尻目に綾瀬さんは話を続ける。


「だから私は…もし天馬君がサッカー選手になった時に、隣で見守ってあげれる、そんな関係性になりたいの、天馬君をずっと支えていきたい!」


 その真剣な真っ直ぐとした綾瀬さんの表情に嘘は感じられなかった。彼女は本気でそう思っている。それが俺には信じがたい光景だった。『利き手婚約条例』が施行されてから、二度と普通の恋愛は出来ないと思っていた。だが、ここに条例が施行される前から俺のことを密かに想ってくれている女の子がいて、しかもそれがボッチ生活をしている学園のクラスメイトときた。こんなことは、もう二度と訪れないのではないか。俺はそう思った途端、胸の奥がきゅっと締め付けられるような感覚に陥った。

 だが、俺は《《ただの左利き》》ではないのだ。そのことを彼女に伝えなければならなかった。


「ごめん、実は俺…」


 その時だった。ドンッ!という衝撃音が空に鳴り響いた。驚いたように後ろを振り返ると、海の方でぱっと花火が煌びやかに咲いていた。

 そういえば、今日は開港祭のイベントで花火が打ち上げられるとか言っていたな、すっかり忘れていた。


「あ、花火…」


 花火を見上げながら綾瀬さんがそうつぶやいた。


「あ、うん…そうみたいだな…」


 花火から視線を戻して、綾瀬さんを見ると、花火の明かりに照らされた綾瀬さんの横顔は、とても輝いてみえた。俺はその姿を見て、さらにドキっとさせられてしまう。


 俺が見とれていると、綾瀬さんがその視線に気が付き、ニコっと微笑みながら見つめてきた。綾瀬さんは髪を耳にかけ直して、スっとまっすぐな視線を向けてくる。


「どうかな?天馬くん…私と付き合ってみませんか?」


 その花火の明かりに照らされた綾瀬さんの表情を見て、俺は「はい、こちらこそ」と言うことしかできなかったのだった。


 こうして、綾瀬さんとお付き合いを始めることになり、学園ボッチ生活から一転、学園ボッチリア充生活への道を進むことになった。

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