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利き手恋愛~左利き至上主義~  作者: さばりん
2/10

俺の名前は天馬青谷、スペシャルヒューマンだ

 放課後、俺は一人教室に残り、ノートの書き直しをしながら授業の復習をしていた。

 

 そりゃ、右手で書いているノートなんて読めたものではない。俺はもう一冊別のノートを用意して、右手で書いたノートを左手で書きなおして綺麗にまとめているのだ。


 二度手間ではあるが、復習ついでに書きなおしているため、勉強の内容が頭に入ってくる。

 それに、俺はこう見えても成績は悪いほうではない。むしろこの学校では上位の方に入っている方だ。


 ボッチではあるが、ゆえに授業で先ほどのようにノートが取りきれなかったり、分からないところがあると、友達に聞くという選択肢はないため、先生に質問しに行かなければならないのだ。


 だがその日々の努力が実り、ボッチでありながらも先生からの評価は悪くない。むしろいい方であると、自分でも自負している。

 この学校ではボッチである俺であるが、恐らく真のボッチではない。所謂隠れボッチの部類に入ると自分では思っている。

 何故かというと、理由はサッカーにある。


 俺は、この学校では帰宅部として扱われているが、学校の外に出てしまえば、知るものぞ知る、プロサッカーチームの下部組織でU18日本代表として活躍する一流プレイヤーなのだ。

 もちろん学校の連中は知る由もない。担任と、上層部の先生たちは知ってはいるが、俺が学校を公欠したところで誰も気にならない。そう言ったところだ。


 なので、俺は誰にも気が付かれずにサッカーの腕も成績も磨きつつ日々の生活を送っているのだ。


 中には、スポーツ一本でプロいけるんだから勉強を頑張らなくてもいいのではないか? 

 という意見があるかもしれない。だが、俺はプロに行けなかったときの保険として、大学進学も念頭に置いているため、スポーツ推薦ではあるが、ある程度頭の良い大学へ行ける成績を取っておきたいのだ。


 というわけで俺は野望のために左手でスラスラとノートを取っていると、ガラガラっと教室のドアが開く音がした。

 俺は咄嗟にペンを右手に持ち変えてドアの方へ顔を向ける。


 そこにいたのはうちのクラスのカリスマ美少女、藤堂麗華とうどうれいかだ、赤みがかったセミロングの金髪に、毛先にゆるふわ感溢れるウェーブを掛けた髪を揺らし、白にピンクの横のラインが入ったテニスウェアを着こなした状態で、教室に他のクラスの女子部員と一緒に何か忘れ物を取りに来たみたいだ。


 「でさ、結局花山が告ってきたわけよ」


 一瞬俺と目があったものの、いないものと判断されて一緒にいた女子部員との会話を続ける。


 「マジ??超ーキモイねそれ」

 「『いつか左手で書けるようになるまで俺頑張るから!』とか最終的には未来のことについて語りだして」

 「うわっ、何それ、ヤバ!」

 「だよね~」


 そんな会話をしながら自分の机の引き出しに頭を覗かせ、忘れ物を探していた。

 テニスウェアのパンツから見える、スラっと伸びた肉付きのよい日焼けした黄金色の生足に、ついつい目が行きそうになる。


 どうしても見えそうで見えない、魅惑の領域を目で追ってしまうのが男子高校生というものだ。隠れボッチの俺でも一応は男の子なのである。

 

 そんなしょうもないことを考えていると、「あったあった~」と机から何かを取りだして手に取っていた。どうやら忘れ物やらを見つけたらしい。


 「よし、じゃあ戻ろっか」


 付いてきてくれた女子生徒と再び歩き出して、教室の扉を閉めて出ていった。


 女子テニス部で運動神経もよく人あたりもいい、先生からの評判も上々である彼女は、男子から絶大な人気を誇っていた。おそらく先ほど女子生徒と話ていた内容も藤堂が告白でもされた時の話であろう。


 それにしても…女子の裏側の片鱗を見てしまった気がする…さっき彼女が言っていた花山という男子は学内でもイケメンランキング三本の指には入るような奴だ。

 そいつの告白を断り、なおかつ裏でその告白をディスッてるとは……花山、話したことないけどご愁傷様……


 にしてもまあ、その花山という男も藤堂さんと付き合えないことくらいわかっているのによく告白したものだ。


 何故ならば、藤堂さんも花山という男も、右利き同士だからである。


 先ほど話していたように本来右利きであるが、必死に練習して左利きになろうとする者も多くいる。だが、どんなに左手をつかえるようになったからとしても遺伝子が組み替えられない以上認定書交付はしてくれない。つまりは、認定書はすべての左利きの者にとって最大の特権であり、有利なアイテムになりうるということなのだ。


 ちなみに、認定書の偽装や、左利きと装って右利きの異性と交際して婚約しようとした場合。10年以下の懲役または5000万円以下の罰金が科せられる法律が作られた。


 これにより、遺伝以外の方法で利き手を変えることは事実上不可能になったのだ。


 しかし、前にも説明したように稀にではあるが、染色体の異常で左右両方の遺伝子を持っている者がいる。それこそが、政府が目指しているスペシャルヒューマンであり、右利きと左利きの両親を持った場合にしか現れないスペシャルレアである逸材だ。スペシャルヒューマンには特許として左利き認定書と同時にスペシャルヒューマン認定書が配られ、将来有名企業の意一流エリート街道への道をある程度確約されるのだ。


 左利きの人間が日本の10%しかおらず、そこから左利きが生まれる確率が10%、さらにそこから遺伝子が何らかの形で食い違う確率がほぼ0%に等しい確率から見てもスペシャルヒューマンが生まれる確率がどれくらい少ないかがお分かりいただけるだろう。


 スペシャルヒューマンは政府の調査によると現在いるのは全国で30人ほど、1都道府県に1人もいないのだ。


 そして、その左利き認定書とスペシャルヒューマン認定書を持ち合わせた1人こそが、この俺、天馬青谷なのである!!!

 ・・・・・・ここまで来ると諄くなってくるので自分自慢はここまでにしておくが、つまり俺は選ばれし物なのである。


 未成年のスペシャルヒューマンを持つ家庭には、多額の助成金が配布される。

 その助成金さえあれば、一家族ほどは一生働かなくてもいいくらいの額は貰えるそうだ。

 そして、一等地の高級住宅を支給され、政府から派遣される専属の家庭教師まで付き、英才教育をしながら日々の暮らしを続けることが出来るのだが……それが厄介だった。


 基本的に左利きは物事を理解するのに時間がかかるといわれている。

 俺もその部類に入るのであろう。家庭教師の先生に何度も『なんでわからないの?』

 と毎回言われ今も叱られ続けている。


 そこで俺は、サッカー選手としてプロキャリアをスタートさせるか、プロに行けなかったとしても、大学へ進学して大学リーグで更に技術とメンタルを磨き、プロサッカー選手になるというビジョンを抱いている。


 俺が最も嫌いとするのがサラリーマンであった。堅苦しいスーツを毎日身にまとい、満員電車で揉みくちゃにされながら毎日同じ箱詰めのオフィスへ向かい、そこから休むことなく18時ごろまで働かされ、その後も残業で会社に残り、21時頃まで働かされ、ヘトヘトになりながら家にようやく帰宅する。そんな生活まっぴら御免被りたかった。


 もし今のまま国の用意してくれたスペシャルヒューマンへのベルトコンベアに乗っかって行ったら。間違いなくエリートにはなれるが、サラリーマンルート直結だろう。

 なので、俺はスポーツ選手としてプロキャリアをスタートさせることで、脱スペシャルヒューマン街道を突き進もうとしているのだ。


 他の部門でプロ選手になってしまえば、流石の国もそちらを優先さぜるおえなくなるので、面倒な束縛事は一切なくなのだ。

 しかし、もう一つの厄介な条件がスペシャルヒューマンには一生付きまとう。


 それは…

『複数人以上の人との婚約及び遺伝子繁栄』


 所謂多重婚というやつである。


 うわぁ~何それ?ハーレムルート確定歓声じゃん!最高じゃん!と思って者達…それは間違いだ。


 まず今の現状を考えてみろ。高校生活で俺は隠れボッチ生活を絶賛送っている。つまりは、俺がスペシャルヒューマンだとわかっても、『え…キモ…』でひとまとめにさせられてしまうのだ。

 もちろん高校では我慢して、晴れてサッカー選手としてプロ生活をスタートさせたと仮定しよう。


 左利きということも公表され、多くの女性ファンが出来る可能性は持っている。

 しかし、そう言って寄ってくる女性はほとんどが地位と名誉、そしてお金目当ての奴らしか寄ってこないのだ。


 何が言いたいか、俺はこの先待っている恋愛に、愛はないのだ!


 俺は恋愛というものは、男子と女子がお互いに好き同士が愛しあうことで成立するものだと思っている。よって、左利きでスペシャルヒューマンだから付き合いたい、という理由でしか寄ってこなくなる女性という存在に対して、俺は全く興味が持てなくなってしまったのだ。


 そんなこんなで、つまらぬことを考えているうちに無事にノートを左手で書き終えて鞄に閉まった。

 この後はユースチームの練習があるので、俺は時間調整を兼ねてノートを書きなおして勉強の復習をしていたのである。


 バックを持ち、席を立って教室のドアへと向かって歩き、ドアを開けようとした時であった。

 ガラガラっと勢いよくドアが先に開かれる。


 びっくりしてのけ反ると、そこに現れたのは、綾瀬望結あやせみゆであった。


 綾瀬さんも、俺がドアの目の前にいたことに驚いて、目を見開き俺を見つめてきていた。


「…お、おう。わりい」

「あ、うん。私こそごめんね」


 そう一言ずつ交わして、俺は教室の扉から廊下へと出て綾瀬さんとすれ違った。

 横を通る時、綾瀬さんの香水の匂いであろうか…柑橘系のいい香りがフワっと漂ってきた。

 そんな綾瀬さんを横目に、俺は昇降口へと向かって行ったのだった。


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