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俺と、ドラゴン冬の陣(2)

 前回のあらすじ。


 リバーシ、始めました。


 俺、ラナの下風に立ちました。


 ……これは本当、想像だにしていませんでしたよ。


 あのラナにである。俺、ボロボロでした。リバーシで戦った結果、俺はボロボロのギッチョンギチョンに負かされてしまったのである。


 おかしい。こんなことは許されない。


 屈辱にもだえながらに、そんなことを思いますが……まぁ、さもありなんと言えば、さもありなんかなぁ。


 まず俺の実力ですが、一応アプリで遊んではいたんだけどね。でも、現実逃避の側面が強くて、向上心なんて欠片も無くて。端っこを取ればいいんだよね? ぐらいの知識しか無かったですし。


 一方で、ラナである。


 こっちは経験は無いのですが、本当集中力がすごくてですね。勝負事が心底好きなんだろうなぁ。向上心もすごくて、同じミスは二度としないというか。回を重ねるごとに、指数関数的に実力が上がっていく感じでした。


 しかし、インテリジェンススポーツで俺がラナに完膚なきまでに負かされるとは……うっわ、くっそ悔しい。なにこれ、本当悔しい。もしかしなくても、俺は今人生で一番心が燃え立っているのかもしれない。


『ら、ラナっ!! もう一回っ!! 次は負けないからっ!!』


 再戦を申し出たのですが、俺の実力を上越するラナ先生である。露骨に嫌な態度をしてきやがりました。


『いや。だってつまんないんだもん』


『そ、そこをなんとかっ!』


『い、や。次はサーバスとやらせてよ。なんか強そうだし』


 ま、まぁ、俺よりはサーバスさんの方がはるかにお強いでしょうが……


 こちらでも対戦は繰り広げられていたのでした。


 アルバとサーバスさんである。この一時間ほどで、激闘を繰り広げられていたようでして。アルバはラナに頷きを見せました。


『まぁ、強いだろうな。そこのへなちょこよりは特段にな』


 サーバスさんの強さに太鼓判のアルバでした。しかし、ついでのごとく俺をディスってきやがったな。事実っぽいので何とも言えませんが。なんで? 元人間っていうアドバンテージはどこいったの? 元人間の最底辺は、ドラゴンになっても最底辺にしかなり得ないの? なんか……うわぁ。辛いなぁ。辛い。本当辛い。


『……別に落ち込まなくてもいいのに』


 そして、くだんのサーバスさんでした。


 強いと言われたことに特段の感慨は無いようでして。いつも通りの楚々としたふるまいでした。


 そんなサーバスさんにラナは期待感たっぷりに声をかけます。


『じゃ、サーバス。次私とやろうよ。いいよね? いいでしょ?』


 異論は無かったようで。サーバスさんはこくりと頷きを見せられますが、


『その前に……ノーラ?』


 俺の名前を呼んでこられました。えーと、なんでしょうかね? 人界に続いて、ドラゴン界においてもヒエラルキー最下層が決定した私めに何かご用でしょうかね? 


『……何でございましょうか、閣下? 私めに、何かご用で?』


『なんで、そんな態度をしているのか分からないけど……こういうのって、人間から聞いたりするの?』


 不思議な問いかけでした。


 なんで、そんな質問をしてきたのか。その意図は分かりませんが、まぁ人間に聞いたようなもんですかね。この世の話では無ければ、その時の俺はドラゴンではありませんでしたが。


『そんな感じですけど、どうかされました?』


『……人間とよく話してるよね?』


『へ? まぁ、はい。筆談ですけど』


『……それって、楽しい?』


『えぇ。まぁ、楽しいですけど……』


 本当、どういう意図の質問なのでしょうか。


 なんかこう、人間と交流したいのかなって、そう思えるのですが……


『サーバスっ! ほら、早くやるよっ!』


 ラナの強烈な横槍に会いまして、俺の思考はさえぎられます。


 サーバスさんは強いてこのやりとりを続ける気はなかったようで。


 二人の対戦が始まります。さっきのやりとりは何だったのか。俺はそんなことを思いつつ、二人の盤上のやりとりを見守るのですが……


『……うるさいぞ』


 剣呑な呟きがもれ伝わってきました。


 俺たち四体は、そろって呟きの主に目を向けます。


 杭につながれた一体のドラゴンでした。


 どこの家のドラゴンでどんな名前だったか。それは思い出せませんが、そこは問題じゃないか。


 怒っておられました。


 結局、俺たちはかなりうるさかったということだろうか。そのドラゴンは眉間にシワを寄せて、イラ立ちを露わにしていました。


『す、すいません。ちゃんと静かにしますから』


 慌てて謝罪しますが、そのドラゴンの怒りは収まらなかったようで。


『とにかく、うるさい。腹立たしい。目障りだ。そんなことはさっさと止めろ。俺をあまり怒らせるな』


 ドラゴンにしては珍しく饒舌で、それが怒りの丈の大きさを示しているようであり。


 う、うーむ、これはマズイか? きっとこのドラゴンだけじゃないだろうしなぁ。


 俺たちに怒っているドラゴンはきっと他にもいることだろう。って言いますか、実際にらみつけてきているドラゴンはけっこういますし。面倒ごとを避けるためには、ここはねぇ。


『すいません。すぐに止めます』


 こう返すしかないよね。


『そうしろ。うっとうしい』


 で、こんな返答でした。面倒な事態はさけられたけど、ちょっと残念のような。リバーシだけど、けっこう楽しんでもらえていたみたいだからなぁ。


 怒りがおさまるのを待って、静かに遊ぶぐらいは許してもらえるように声をかけてみようか。


 そんなことを俺は思ったのですが。


『……ちっちゃいヤツ』


 知ってた。


 そう思わざるを得ませんでしたが。


 ラナでした。黙っていられないだろうとは思っていたが、やはり行動を起こしてきやがりましたか。しかしですね、ら、ラナさーん? あの、その、ちょっと?


『なんだと?』


 そして、案の定の結果が生まれてしまいました。文句を言ってきたドラゴンが剣呑な声を上げてきましたが……ひえー。バトル? バトルっちゃう? 大戦争やっちゃう? いやー、それはちょっと……


『ら、ラナ。お願いだから』


 ここは引いて下さい。


 そのお願いは多分通じたと思うのですが、ラナは意図的に無視されたようでした。俺をひとにらみしてきた上で、文句を言ってきたドラゴンをにらみつけます。


『ちっちゃいヤツって言ってんの。ちょっと騒いでぐらいでグダグダとさ。ちょっとはコイツを見習えっての。ノーラだったら、こんぐらいで文句なんて言わないのに』


 で、そんな文句のレシーブでした。しかも、俺を引き合いにだして。ラナさんや、それは特殊な一例ですからね? 俺が怒らないからって、怒らないのが普通かと言えばね? 見当違いもいいところですからね?


『…………』


 相手は黙り込んだ。ただし、剣呑なうなり声付きで。ぐるぐると、野生を感じさせるうなり声が竜舎に響きます。


 あかん。これ、やっぱ戦争だ。このままにしておいたら、ハイゼ家の竜舎が消し炭になっちゃうやつだ。


 ど、どうにかしなければ! そう思って、まず俺は味方を求めてアルバを見つめますが……アカン。こいつも頭に血が上っておられる。


 ここ三日間のイラ立ちと、リバーシをけっこう楽しんでいたという二点の相乗効果なのか。珍しくアルバも好戦的な様子を見せていました。うなり声に対して、こちらもうなり声での返答です。


 じゃ、じゃあ、サーバスさん! サーバスさんはどうなのか? そう思って見つめますが……こちらもアカン。好戦的な様子とは無縁でした。ですが、ぼんやりと首をかしげたりされていまして。


 状況が理解出来ていないと、そんな感じでした。サーバスさんには失礼だけど、頼りになる感じがまるで無い。


 こ、ここは、俺がしっかりしないといけませんね!


 元はと言えば、リバーシを提案したのは俺なのだ。この状況の責任の一端は間違いなく俺にある。いや、ラナが悪いだろとぶっちゃけ思っていますが、とにもかくにもだ。ここは何とか、俺が事態を収拾しなければ!


 そう意気込んだところででした。


『って言うかさ、アンタらもこれやればいいのに』


 ラナがそんなことを言ったのでした。手書きリバーシ盤を前足で叩きながらである。


 喧嘩上等。そんな態度でうなっていたドラゴンでしたが、にわかに拍子抜けをされたそうで。


『……は? お前は何を言っている?』


 うなり声が止んで、疑問の声が上がります。


 ラナはちょっとイラ立ちを見せながらにですが、その疑問に応えました。


『だから。これやればいいのにって言ってるの。怪我が痛くてさ、それでイラついてるんでしょ? これ、楽しいから。痛みとか忘れられるから。だから、これやってさ。私と遊びましょうよ。それでいいじゃないの』


 ちょっとビックリしました。


 ラナさんにしては、相手のことを思った建設的な提案でした。やっぱり精神的に成長しているのか、もしくは自分が遊ぶための方便が上手くなってきただけか。


 それはさっぱりですが、とにかく悪くない提案のような気がしまして。


 ただ、相手のドラゴンはバカバカしいと鼻を鳴らしてきましたが。


『ふん。なんで、そんなよく分からないものをやらなければいけないのか』


 返答はそんなでした。うーん、なんだかなー。今回はラナの肩を持ちたくなるような。どうせヒマなんだから、やってみればいいのに。俺は負けっぱなしで全く面白くないけど、やってみたら案外面白いかもしれないのに。


 俺がそんなことを思った一方で、ラナは何を思ったのか。


 ラナは『ふん』と皮肉げに鼻を鳴らすのでした。え、ラナさん?


『……ふーん、怖いんだ』


 そしてでした。あ、挑発だ。挑発に出やがったぞ、コイツ。

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