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第41話:俺と、赤竜の蛮勇

 敵は一体。そして、味方はその十倍以上。


 騎手たちに、楽観論はもちろんあった。


 雷を操るという話があっても、だからなんだ? と。複数に囲まれて、ドラゴンが一体何が出来るのか? と。


 空戦の常識からしての、そんな判断だった。


 正直、俺にも同じ思いは少しはあった。


 雷は脅威であるにしても、だ。


 四方八方に加えて、天地の上下だ。全周から攻め立てられれば、どんな達人であってもさばき切れるものではない。


 そう俺は思っていた。


 だが、そんなことを黒竜は百も承知であったらしい。


『ははははっ!! どうした、手ぬるいではないかっ!!』


 雷撃をふるいながらの黒竜だった。


 楽しげにだが、不満の声を曇天に響かせる。


 なーに言ってんだか。


 俺は舌打ちをもらしながらに回避行動を続ける。なんか期待はずれみたいなことを言っているけど、この状況はアンタの期待通りの展開でしょうに。


 囲んで叩くなんて、思いもよらない状況だったのだ。


 その理由はと言えば、黒竜の上手さにあった。


 問題は雷の使い方だった。本当、とにかくばらまいてくる。ドラゴンの首の可動域を活かして、全周をチラリ、チラリとうかがってだった。囲まれそうだと察するやいなや、それを阻止するために雷撃をばらまいてくる。


 その雷撃に、精度は皆無だし、威力もさほどは無さそうだった。だが、無視出来るものではもちろん無く。


 結果として、数の有利はほとんど活かせなくなっていた。


 その上でだが、黒竜は数を減らしにかかってきているのだ。


 相手が出来ているからと言って、この状況は黒竜にとっても楽なものでは無いらしい。


 だからこその数減らしか。


 俺やラナ、娘さんの操るアルバ、クライゼさんの操るサーバスさん。


 この辺りは無視してだった。とかく、手弱いと思った騎手から相手にしているらしい。その成果は上がってしまっていて、すでに三騎が落とされてしまっている。多勢の有利が瓦解するのも、時間の問題かと思える状況で……


『……くそ』


 思わず、悪態をついてしまう。楽に終わるなんて思ってもいなかったけどさ。大した強敵だった。相手は明らかに、多対一の心得があった。どこで経験したかは知らないけど、とにかく戦歴は豊富そうであり。熟練の難敵と、間違いなく言えてしまいそうだ。


 さてである。


 この難敵にどう立ち向かうのか。


 そこが問題だが、何となく俺の中には考えはあった。


 娘さんと、サーバスさんの判断である。


 味方が落とされながらに、彼らは積極的な攻勢には出ていなかった。


 切り札である、式の刻まれた穂先を持つ長槍。


 それに訴えかけることも無ければ、ドラゴンブレスを中心とした攻め口を続けている。


 おそらくは、黒竜を強敵と認めてのことだろう。


 失敗すれば、二度目は無いかもしれない。長槍が脅威と分かれば、その対策をされてしまうかもしれない。


 そんな思惑があるのではないだろうか。


 だからこそ、長槍の一撃を必殺とするべく、最良のタイミングをうかがっているのではないだろうか。


 多分、そう。


 だとしたら、俺がすべきことは。


『ラナ。協力してもらっていい?』


 いまだに俺の軌道に従っているラナへと声をかける。最初はけっこう雷にビビっていたようだけど、今はそんな気配は無かった。


『別にいいけど、何? あのクソジジイにかみつきにいくの?』


『クソジジイ……ま、まぁ、そういうことだけど』


『最初からそのつもりだっての。雷にも慣れてきたし。なにさ、慣れちゃえばあんなの全然大したもんじゃないじゃない』


 そんな頼もしい返答を頂きまして。


 じゃあ、やりますか。


 娘さんとサーバスさんが動けるようなタイミングを作ること。それが俺の役割となるだろう。


 ラナさんも協力してくれるらしいからね。


 絶対、痛い目に会うだろうなぁ。でも、やるしかないか、うん。


『ラナ、じゃあ行くから』


『分かった。アンタは、またケガしないでよ!』


 またじゃないけど、それは俺からラナにも伝えたいことで。だが、伝える前にラナは黒竜に飛びかかっていってしまい……よし、俺も行くかね。


『はははっ!! やっと戦士がやる気を見せたか。だが、赤いの。お前はどうだ? お前に戦士の魂はあるのか? ん?』


 俺とラナを、黒竜は雷撃付きの喜びの声で迎えてくる。


 それを避けつつだった。


 ラナはイラ立たしげに黒竜に叫び返す。


『ああ、もうっ! うっさい! 何が嬉しいのか知らないけどさ、少しは黙れってのっ!』


『はは、威勢が良いことだ。しかし、黙らせたいのなら、自身の実力で成し遂げるがいい』


『言われなくてもするってのっ!!』


 ラナがドラゴンブレスを放ち、俺もそれに続く。


 最初の攻勢はこちらだった。


 黒竜が逃げに入って、俺とラナとで追撃に入る。だが、それも続かない。黒竜の雷撃で、俺とラナの軌道は見事に乱される。


 しかし、ここで守勢に回るかと言えば、そういうことでもない。


 娘さんとサーバスさん、それにまだ空にある騎手たちの援護があるのだ。


 数多のドラゴンブレスが、これまた黒竜の軌道を乱す。


 そして生まれるのは、どちらが攻め手で守り手なのか、その判別がつかない複雑な攻防。


 相手の背後を取り続けようと、俺もラナも必死で軌道を取り、黒竜もまた熟練の攻め口で応じてくる。


『ふむ、悪くない。しかし、残念だ。貴殿らもな、生まれた場所が同じならば、一人前の戦士足り得るように鍛錬をしてやれたものを』


 そして、黒竜にはそんなことをほざく余裕があった。


 これは……どうなる?


 俺は複雑な軌道を強いられて、頭を白熱させながらに疑問に思う。

 

 なんとか戦えてはいる。


 だが、これを続けて、黒竜にスキを生ませるようなことは出来るのか?


 娘さんとサーバスさんは、いまだ遠巻きの攻めを続けている。スキなどは生まれていないということになる。


 で、どうするのか?


 俺はこの先にどんな工夫をすればいいのか。


 分からないながらに考えて、自身にスキが生まれて雷をかすめてしまって、そんな最中だった。


『ああああああっ!! もうっ!!』


 ラナが叫んだ。


 もう我慢出来ない。


 そんな狂おしい何かを感じさせる叫びだったが……あ、あのー?


『本当、うっとうしいっ!! 片を付けてやるっ!!』


 空戦でのやりとりが、ラナにとってははなはだストレスだったらしいが……あ、あの赤邪竜っ! 最近大人しかったから忘れてたけど、本当アイツはこういうヤツだったのだ。


 止める間も無かった。


 回避などまるで考えていないようで、黒竜の背中に向かって最短距離で突き進んでいく。


『ら、ラナっ!!』


 俺が制止の叫びを上げる一方で、黒竜は分かりやすく喜んでいた。


『蛮勇か、悪くはない。さぁ、挑んで見せろっ!!』


 それに応えるというわけでも無いだろうが、ラナは突き進む。雷撃の雨を抜けて、黒竜に迫っていく。


 まったくもってラナらしい、野生を感じさせる見事な軌道だった。


 それを黒竜は喜色をにじませながらに待ち受けて……妙な反応を見せてきた。


『は?』


 困惑の声だった。


 ラナは明らかに噛みつきにいっていた。それを黒竜は、妙に慌ただしい軌道を見せながらにすんでのところで避けた。


『な、なんだそれはっ!!』


 次いで上がる、驚きの声。


 黒竜は雷撃を放ちながらに、急いでラナから距離を取ろうとする。


 ラナは頭に血が上っているようで、黒竜の言葉に反応することもなく追いすがっていきますが……


 これは……えー、なんだ?


 黒竜が何に慌てているのか。俺もまた黒竜の背を追いつつで、そんな疑問について考える。


 ラナがかみつこうとして、黒竜はそれに予想外といった感じで驚いていたが。


 ……もしかして、驚くべきことなんだろうか。


 噛みつくという行為が、だ。


 黒竜はおそらく魔術を操っている。その点からの逆算だが、おそらく黒竜はドラゴンが魔術を学べるような環境で生きてきたのだろう。


 で、黒竜は空戦の経験がけっこうあるように思えるけど、もしかしてその相手もそうだったんじゃないだろうか。

 

 魔術を学べる環境で生きてきたドラゴン。つまり、魔術を扱うドラゴンを相手にしてきたのではないだろうか。


 だとすると、噛みつくという行為に驚くのは分かる。


 魔術が使えないのなら、そんな肉弾戦に訴える必要はないだろうし。いや、ラナだってドラゴンブレスは吐けるのだから、肉弾戦に訴える必要はあまり無いような気はするんだけどさ。


 ともかく、肉弾戦というのが、黒竜にとっては初めての経験なのかもしれなかった。だからこそ、あんな奇妙な驚きを見せてきたのではないだろうか。


 そうなると……ふーむ。


 俺が取るべき手段。それが見えてきた気がしますね。


 二度目なのだ。効果は初回より薄いかもしれないけど、試してみる価値はあるだろう。


 と言うことで、いっちゃいますか。


 黒竜はラナに集中している。そのスキを突いて……よし。


 先回りするように、全力で飛行する。


 狙いは当然黒竜。その側面を目指して、全力で突撃する。


 黒竜が俺に気づいた。その目は驚きに見開かれていた。


『き、貴様も同じかっ!?』


 えーと、そういうことです。


 まぁ、俺は空中で噛み付くような、器用な真似をするつもりはありませんが。


 雷で迎撃される。

 

 皮膚が焼かれ、異臭が漂い、しかしその痛みは前回ほどのものでは無く。


 いける。


 俺は肩口から、黒竜の脇腹へと思いっきり体当たりをかましてやるのだった。

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